
発酵させたマットをビンにつめて飼育する方法。
最も一般的で手軽な飼育法であり、ビンの壁面に幼虫がいる場合、常に観察できるという利点もある。
使用するマットは、ベースマットの種類や添加剤(小麦粉、薄力粉、フスマなど)を自分で色々工夫でき、自作することにより飼育コストを抑えられる。
添加剤によっては、確率高く大型の成虫を得ることができる。
もちろん市販の発酵済マットを使用しても問題ない。
また、マットの発酵や水分調整に失敗しなければ、幼虫が死亡することはほとんどないので、比較的安全である。
市販の発酵済マットを使用しても良いが、以下の方法で自分なりの発酵マットを作る事ができる。
ベースマット、添加剤、水分量を変えることにより、様々な発酵マットができるので、色々試してみると良い。
以下は一般的な発酵マットの作り方である。
- マットの用意
衣装ケースやコンテナ等の大きめの容器にクヌギ、コナラ等のマットを入れる。
発酵マット作成は暖かい時期にしかできないため、まとめてたくさん作った方が良い。 - 添加剤を加える
小麦粉、薄力粉、フスマ等の添加剤を、いずれの場合もマットに対し5〜10%加える。
添加剤が少ないと効果が薄くなるが、危険は少なくなる。 - 水を加える
若干多めに水を加え、よくかき混ぜる。
水分量が少ないとなかなか発酵しないが、多すぎるとマットが腐敗し失敗することがあるので注意する。 - 発酵
温度25〜30℃で管理しておくと、2、3日で発熱し発酵が始まる。温度が低いとなかなか発酵しない。
フスマを使用した場合はかなりの高温になる。 - 攪拌
発酵中は菌の活動により酸素が消費され酸欠状態になるため、基本的に毎日かき混ぜて空気を循環させるようにする。 - 発酵完了
3〜4週間程して、マットの温度が下がってくると発酵完了。マットの色はこげ茶色になり、匂いもインキや土の匂いに変わってくる。
添加剤や水分量によって発酵期間は変わる。 - 乾燥
発酵が完了したマットは天日で干して乾燥させる。乾燥させることで長期保存も可能になる。
マットを発酵させるのは、幼虫の死亡率低減と栄養素補充の2つの目的がある。
マットは材を粉砕した物であるため、粉砕していない朽木に比べ、外部の菌が侵入、繁殖しやすく、急激に発酵する恐れがある。
そのまま幼虫飼育に使用した場合、何らかの菌が急激に繁殖、発酵することにより、温度の上昇、酸欠、ガスの発生を招き、幼虫が死亡してしまう可能性がある。
これを防止するため、菌に分解されやすい成分をあらかじめ菌の活動により消費させ、その後の急激な菌の活動を抑える必要があり、
事前に発酵させることで、安定した生育環境を保つことができる。
添加剤、水分を加えるのは、菌が活動しやすい条件を整え、発酵を促進させるためである。
また、小麦粉にはタンパク質が多く含まれているが、これが実際に幼虫の栄養素として効果があるかは、はっきりしていない。

セット例
作成または購入した発酵マットを、以下の手順でセットする。
- 飼育ビンの用意
インスタントコーヒー等の空きビンでも問題ない。
なるべく入口が広く、太いビンの方が良く、できれば1000cc以上の容量のある物が好ましい。 初期の小さい幼虫や♀の場合は600cc程度でも構わないが、大きな♂の3令幼虫の場合は1500cc程度が好ましい。
初令〜2令幼虫の時はプリンカップを使用しても良い。 - マットの加水
マットを適度に加水する。手で握って軽く固まり、多少崩れる程度で良い。 クワガタの種類によって水分量は変わってくるが、オオクワガタの場合は比較的乾燥に強いため、必要以上に加水する必要はない。
水分が多すぎると、マットが腐敗してしまうこともあるので注意する。 - マットを詰める
加水したマットをビンにきつく詰めていく。最初から全部詰めずに、1/4〜1/3程詰めたら棒などで押し付ける様にし、これを繰り返していけば固く詰めることができる。
ビンの入り口ギリギリまでマットを詰めると、フタを締めた際、穴が塞がれて酸欠になる場合があるので注意する。 - 幼虫の投入
初令後期〜2令の時期に投入するのが良い。添加剤が多めの場合は2令以降で投入した方が安全である。
マット表面に幼虫よりも少し大きめの穴を開け、幼虫を投入する。後は幼虫が自分でマットの中に潜って行くので、穴の上からマットを少しかけておく。 - フタを締める
フタには穴を2〜3箇所位開けておき、間にガーゼやキッチンペーパーなどを挟んでおけば、乾燥防止やコバエ進入防止になる。
コーヒーのビンの様に、フタの裏に着いている密閉用パッキンを容易に外せるようであれば、パッキンだけ外して穴は開けずにそのままフタをした方が良い。 - ラベル
ビンにラベル等を貼り、種類や投入時期などの情報を記載しておくと管理しやすい。
なるべく温度変化の少ない、暗くて静かな場所に置いて、振動などのショックを与えないようにする。
ビンの周りに新聞紙などを巻いて暗くしておけば、幼虫はビン側面にいることが多くなるので観察しやすい。
その他は特に世話をする必要はなく、乾燥防止が万全であれば加湿も不要で、エサ交換するまでは放置しておいても問題ない。
但し、投入後しばらくの間は、順調に成長しているか様子を見るようにする。
もし全く食べずに縮んでいたり、ビン上部(マット表面)を徘徊しているようであれば、マットが合わなかったり、酸欠の可能性もある。
マットにきちんと潜って、糞をしているようであれば問題ない。
幼虫がマットを6〜7割食べたら、エサを交換する。
内部の空洞やビン壁面の糞、マットの色などから判断するようにする。
大体2〜3ヶ月程度が目安になるが、幼虫の成長具合やビンの大きさ、季節、温度によっても異なる。
羽化までのエサ交換回数は、幼虫の大きさにもよるが、1000ccのビンの場合、♂で2〜3回(3〜4本)、♀で1〜2回(2〜3本)程度。
脱皮直後で幼虫の頭が白かったり、蛹化直前の場合はエサ交換を控えるようにする。
- 幼虫の取り出し
幼虫の位置を確認しながら、スプーン等で慎重にマットを掘っていき、幼虫を取り出す。 - 新しいマットのセット
始めにセットした方法と同様の手順で、新しいマットをビンに詰める。
この際、交換前の古いマットや糞を少し混ぜておくと、バクテリアの影響で新しい環境にも対応しやすくなる。
環境が急激に変わると、食べ始めるまで時間がかかり、最悪の場合は全く食べずに縮んでしまうこともある。 - 幼虫の投入
幼虫よりも少し大きめの穴を開け、幼虫を投入する。

取り出した幼虫

マットを詰め、穴を開けておく

幼虫を投入する
マットの質と同時にエサ交換の時期も成虫の大きさに影響するので、重要なポイントとなる。
エサ交換のタイミングが遅れると、その分、幼虫が十分に栄養を取ることができずに成長が阻害されてしまうため、小型の成虫になってしまう。
しかし、エサを頻繁に交換し過ぎると、環境の変化が激しすぎて幼虫の成長に影響が出る。
この相反する条件をクリアするのが幼虫飼育のポイントであり、この条件を両方満たすためには、なるべく大きい容器で飼育し、エサ交換の回数を減らすことが重要である。
但し、初令後期〜2令初期の小さい時期は、あまり大きいビンでは環境をコントロールできないため、幼虫が小さい時は小さめの容器で飼育し、成長と共に大きめの容器に移行していくのが良い。