≪ 幼虫飼育 ≫

カブトムシは幼虫時期の大きさがそのまま成虫の大きさに比例するので、大きな成虫を育てるためには、幼虫をなるべく良い環境で飼育することが重要である。
カブトムシの幼虫は3令以降であれば、幼虫同士の共食いはほとんどなく、クワガタの様に個別に飼育する必要もない。 また、かなり丈夫で死亡率も低く、栄養のあるエサと十分な空間さえあれば、ほとんどが無事に成虫になる。

◆ 用意する物
○ 飼育ケース
プラスチックケースやコンテナ、衣装ケース等、ある程度の大きさがあれば、なんでも使用できる。
右下の写真の様なコンテナタイプの物でであれば、乾燥しにくいため管理も楽である。(若干隙間があるため、穴を開ける必要はない)

プラスチックケース
プラスチックケース
コンテナ
コンテナ


≪飼育頭数の目安≫

過密状態で飼育すると若令期は共食い等により個体数が減少し、またエサ不足により大きく成長しないので、下表を参考に飼育頭数に合わせた飼育容器を用意する。


飼育容器容器サイズ飼育頭数
プラスチックケース(大)W32.0 x D18.0 x H20.0cm5 頭
プラスチックケース(中)W27.0 x D16.0 x H17.0cm3〜4 頭
プラスチックケース(小)W20.0 x D12.5 x H13.0cm2 頭
プラスチックケース(ミニ)W15.5 x D8.5 x H10.0cm1 頭
コンテナケース(小)W23.0 x D14.0 x H11.5cm2〜3 頭
コンテナケース(ミニ)W18.0 x D10.5 x H10.5cm1〜2 頭
衣装ケースW40.0 x D30.0 x H20.0cm10 頭

※上表は3令幼虫を飼育する場合の目安。蛹化の時期は上記よりも余裕があった方が良い。


○ マット
市販されている昆虫マットで良く、クヌギ、コナラ等の広葉樹を使用したおがくずを使用する。 針葉樹の混じった物は幼虫が死亡することもあるので使用しない。 また、園芸用の腐葉土でも構わないが、農薬などが入っている場合があるので、昆虫マットを使用する方が無難である。 但し、カブトムシの幼虫は羽化するまでにクワガタに比べて大量のエサを必要とするため、コストが安い腐葉土の方が経済的である。
また、初令幼虫は体が小さいため、目の粗いマットだと食べられないこともあるので、目の細かいマットが好ましい。 3令になるとかなり大きい木屑も食べるため、柔らかい朽木を入れておくと、朽木内に食い入っていくこともある。
もしクワガタも飼育しているのであれば、その残りマットを使用しても良い。

○ シート
市販の乾燥防止シート、サランラップ、新聞紙、ガーゼ、キッチンペーパー等。
ケースとフタの間に挟んでおくと、乾燥、コバエ防止になる。
サランラップの場合は、必ず数箇所に穴を開けておき、ケース内部が蒸れて曇るようなら、穴を増やすか大きくする。
新聞紙は穴を開けずにそのまま使用できるが、乾燥防止効果はあまりない。
◆ セット方法
セット例
セット例
  1. マットの処理
    念のため、マットは殺虫処理をした方が良い。ビニール袋に入れて電子レンジ、または熱湯につけて加熱し、殺虫する。ダニやコバエの殺虫ができれば良いので、あまり長時間加熱する必要はない。
    熱処理をしたマットは十分に冷ました後、適度に加水する。手で握って水が出てくるような状態は加水しすぎである。水分が多すぎるとマットが腐敗したり、酸欠になってしまうこともあるので注意する。
  2. ケースにマットを入れる
    加水したマットを飼育ケースの上部から5cm程度まで入れる。クワガタの様にきつく詰める必要はない。
    ケースの上部ギリギリまでマットを入れると、幼虫が動いた際にマットが盛り上がってケースからこぼれてしまうので注意する。
  3. 幼虫の投入
    幼虫をそのままマット上に置いておけば、自分で勝手に潜っていく。
  4. フタを締める
    ケースとフタの間にシートを挟んでおけば、乾燥防止やコバエ進入防止になる。
◆ 管理方法
飼育場所

あまり気にする必要はないが、暗くて静かな場所に置いておく方が良い。 室内、室外のどちらでも良いが、温かい室内の方が大きく育つ傾向にある。


飼育温度

国産カブトムシは基本的に温度管理する必要はない。
冬季は休眠状態となりほとんど活動しないが、かなり低温になっても死亡することはなく、 自然界でも日本の四季に耐えられるため、ある程度の大きさの飼育容器であれば、氷点下になっても問題ない。 但し、温度が高い方が幼虫の成長が早いため、大きな成虫になると同時に、早めに羽化する傾向にある。


湿度調整

基本的には乾燥防止を万全にしておく事が重要で、マットが極端に乾燥していなければ、エサ交換するまでは放置しておいても問題ない。
マットが乾燥するようであれば、霧吹きで適度に加湿する。あまり湿度が高いと、ダニの発生原因にもなるので加湿し過ぎないよう注意する。 マット表面が乾燥していても内部は比較的湿度を保っているため、表面を軽く湿らす程度で良い。 また、サランラップでフタをしている場合は、内部が蒸れることがあるので、穴の数や大きさを変えて調節する。


幼虫の糞
幼虫の糞
エサ交換

マットが幼虫の糞で満たされるようになってきたら、マットを交換する。 ふるい等で糞を取り除き、新しいマットを補充しても良い。
3令になった直後の9月から11月位までの間は、幼虫が最も成長する時期であり、 大量のエサを消費するので、1〜2ヶ月に1回位、マットを交換、補充した方が良い。
11月下旬〜3月上旬頃までの気温の低い時期は、幼虫は休眠状態となり、 ほとんどエサを食べないので、マットが糞だらけになっていなければ、マットを交換する必要はあまりない。


土入れ

幼虫は土壌がしっかりした固い部分に蛹室を作るため、春になり蛹化の時期が近づいたら、 ケースの下から10cm程度、黒土を入れて固めに詰めておき、その上に腐葉土、マットを入れておく。
マット飼育の場合は、黒土を入れずにマットを固めに詰めるだけでも良いが、詰め方がゆるいと、うまく蛹室が作れないことがあるので注意する。 腐葉土飼育の場合は、土入れは必須。

◆ その他
幼虫の♂♀同定

カブトムシの幼虫は3令になってしばらくすると、幼虫のV字マークの有無で♂♀の同定ができるようになる。

詳細は 矢印 『カブトムシ解説/幼虫』 参照。

幼虫の成育時期

クワガタムシと違い、カブトムシの一生はほぼ完全に1年のサイクルとなっているため、その生育、変態時期も季節によって大体決まっている。 但し、野外個体のサイクルに比べ、温度管理、または室内飼育している場合では下表のように若干異ってくる。
大きさの違いが顕著に表れてくるのは3令になってからで、休眠前の秋までに最も成長するので、この時期にエサを豊富に与えておくと大きな成虫になりやすい。 春になると休眠を終えて、再びエサを食べ始めるが、秋までと比べると成長速度は遅くなってくる。


[ カブトムシの変態サイクル ]
野外個体室内飼育
産卵7月下旬〜8月中旬6月中旬〜下旬
初令幼虫8月中旬〜9月上旬7月上旬
2令幼虫9月上旬〜下旬7月中旬
3令幼虫9月下旬〜7月下旬〜
冬の休眠期11月〜3月12月上旬〜2月下旬
前蛹5月中旬〜下旬4月上旬〜中旬
蛹化5月下旬〜6月上旬4月中旬〜下旬
羽化6月下旬〜7月上旬5月中旬〜下旬

※室内飼育は東京23区内のマンション室内で冬季の最低室温13℃程度で飼育した場合。
  また、室内飼育の産卵時期は、室内で羽化した個体を使用し累代飼育をした場合。
※温室で温度管理した場合は、これとはまた異なる結果になると思われる。
※野外個体のサイクルは地域やその年の気候により若干異なる。


体重測定
体重測定
幼虫体重と成虫サイズ

幼虫時の体重と成虫の大きさには密接な関係があり、幼虫の体重によって、ある程度成虫のサイズを予測することができる。
エサ交換時などに幼虫を取り出す機会があれば、体重を測定してみるのも良いだろう。 右の写真の様に、キッチン用の電子秤等に幼虫を乗せれば簡単に測定することができ、生育状況を知ることができる。
順調に生育すれば、3令幼虫の最終体重はで30〜35g、で20〜25g程度となり、大型の成虫が望める。

≪注意事項≫
  • ダニ
    マットの湿度が高いとダニが発生することがある。幼虫に直接影響はないが、衛生的でないため発生させないようにする。
    発生してしまった場合、マットは熱処理をするか、全て交換した方が良い。
  • コバエ
    小さなハエ(クチキバエ)が発生する場合がある。一度発生するとマットに産卵して繁殖してしまうので、マットは熱処理をするか、全て交換した方が良い。
    また、他の飼育ケースに移動しないよう、コバエ防止シート等をケースとフタの間に挟んでおくようにする。
  • 幼虫がマットに潜らない場合
    通常、幼虫はマット内部に潜っているが、マット表面を出てきてしまう場合は、飼育環境に問題がある。
    針葉樹が混じっている、農薬が入っている等、マットに何らかの問題がある場合や、飼育数過密、乾燥、多湿、マットの発酵や水分過多による酸欠、マットが糞で満たされている等が考えられる。
  • 飼育頭数
    1〜2令期に過密状態で飼育すると共食い等により個体数が減少する。最初から、ある程度分けて大きめの容器で飼育すれば、ほとんどが無事に成虫になる。
    但し、あまり増やす必要がなければ、3令になるまで1つの容器でまとめて飼育し、自然淘汰されて残った幼虫だけ飼育するようにした方が良い。 全部成虫になっても、自分で飼育できる見込みがない場合は、増え過ぎないように十分注意する。