Practice Makes Perfect/安達太良山(沼尻スキー場から爆裂火口周回ルート)
沼尻スキー場のゲレンデを上り詰めると沼尻登山口駐車場
6時08分、届を出して登山開始
白糸の滝
爆裂火口は意外なほど近く、登山道の勾配も至って緩い
分岐を右に採って爆裂火口を左回りする。左の道は湯の花採取場を経て右回りルートとなる
爆裂火口壁が近づいてきた

沼ノ平爆裂火口。正面奥左の平たい山が本日のルート中最高所の鉄山。正面奥右の出っ張りが矢筈森。鉄山を左に辿って行くと避難小屋がポツンと見える
かつては沼ノ平の縁を通るルートがあったらしいが現在は立入禁止となっている。安達太良山は活火山であり、20台ほどの観測機器が設置されているが、御嶽山や草津白根山、あるいは浅間山など近年の噴火事例を見ても予知は不可能である。もしそうなったらヘルメット持参程度では心許ないのだが

登山道は爆裂火口壁の縁に付けられている
池だ
船明神山(標高1,667M)
船明神山山頂に立つ地磁気の観測装置。スターウォーズに出てくる偵察ドローンを彷彿とさせる
荒涼とした風景だ
安達太良山山頂部
こんもりとした肌色の山頂広場に黒く突き出した安達太良山山頂・乳首
安達太良山・乳首山頂(標高1,700M)

牛ノ背から見た沼ノ平。奥には磐梯山と秋元湖が見える

くろがね小屋への分岐と矢筈森
矢筈森山頂(標高1,673M)から鉄山を臨む

今回のルート中最高所の鉄山へ向かう

鉄山山頂(標高1,709M)。安達太良山・乳首より高い
鉄山山頂に設置された沼ノ平火口を監視する気象庁の定点カメラ。通常映像とサーモグラフィーをホームページで見られる
鉄山避難小屋
石楠花の塔。1958年(昭和33年)、航空自衛隊のT6型練習機が墜落し搭乗員二名が死んだ。そのプロペラを使った供養塔

左奥に安達太良山・乳首が見える。右の盛り上がりは船明神山

さて、どこかで爆裂火口壁を降りねばならない
その降り口の胎内くぐりに気付かず普通に両手にストック持ったまま岩の表面を降りてしまった
白亜のザレた滑りやすい斜面のトラバース
茶褐色に染まった場所は水が染み出している川の源流部
湧き出ている水は冷たく無色透明。掬って舐めてみると鉄の味がするが酸っぱくはない
沼ノ平立入禁止の看板。平成9年に火山性ガスによる遭難死亡事故があったと記されている
湯の花採取場
沼尻登山口への道標は川に降りるよう促している
硫黄と硫化水素臭たっぷりの白濁した硫黄川
川の水温は43℃ほどと見事な適温。酸味が強く硫黄混じりの砂が全身にまとわりつき、高い満足感を味わえる。遮るものの一切ない全周囲オープンの野湯をマッパで行かせてもらった
簡易な橋で渡渉する
湯の花採取樋

集湯桝。これは触れないくらい熱い。60℃くらいか
沼尻温泉と中丿沢温泉に伸びるパイプラインに沿って作業道があるが関係者以外立入禁止
13時02分、駐車場到着

安達太良山(あだたらやま/沼尻スキー場から爆裂火口周回ルート)

2022年10月21日(金曜日)

 猪苗代町役場のホームページによると、沼尻スキー場から沼尻登山口に通ずる町道湯川端白糸の滝線は、8月3日の豪雨災害で土砂流出して通行止めとなり、9月16日に復旧工事を終えるとのアナウンスだったが、26日になっても依然工事が完了した旨がホームページに載らなかった。SNSには通行止めのバリケードを無断でどかして侵入し登山してきたとの記事も散見されたが、役所の建設課建設係に電話で問い合わせてみると、工事は予定通り16日に終わっているとの返答だった。ホームページの記事も更新しますとのことで、このあとすぐその旨更新された。
 もともと安達太良山に行く予定だったのを直前になって急遽北アルプスに変更し、挙句足にダメージを負ってしまったため、沼尻に来たのは電話して一ヶ月後のことになってしまった。
 ここを訪れるのはスキー以来4年ぶりだが、営業開始時刻に間に合えばよかった当時とは違い、今回は6時には登山を開始したかったので、疲労と寝不足の中、夜中の2時に家を出て300キロの道のりを4時間かけて走らねばならず、想像しただけで死んだほうがマシだというくらいの苦痛に苛まれた。そのことが一ヶ月前に二の足を踏んだ原因となっている訳だが、多寡だかスキーのオフトレ登山にここまでしなくてはならないのかという葛藤を常に抱えている。
 見覚えのあるゲレンデのリフト沿いのダートを上り詰めると、登山口である広い駐車場には既に先客が二台停まっていた。車内で軽く朝食を済ませ、届を出して6時08分に登山開始。白糸の滝見台を経て最初の分岐を右に折れ、火口左回りのルートについた。
 登山道の勾配は至って緩く、爆裂火口壁もすぐ近くに見えている。駐車場から山頂までの標高差はわずか580メートルに過ぎないので、6時間もあれば一周して降りて来られるだろう。

 安達太良山は活火山である。気象庁によって20台ほどの観測機器が設置されているが、御嶽山や草津白根山、あるいは浅間山など近年の噴火事例を見ても明らかなように予知は依然不可能である。火口一周のルートでもしそれが起こったら、到底ヘルメット程度の装備では屁のツッパリにもならないが、とにかく今日は初のヘルメット持参である。
 沼ノ平火口を取り囲む外輪山の一角が安達太良山山頂の乳首(標高1,700M)だが、まず最初に辿り着く外輪山は黒い地磁気観測装置の置かれた船明神山(標高1,667M)である。あたり一面真っ黄色の荒涼とした世界に置かれたそれは映画『スターウォーズ』に出てくる偵察ドローンを彷彿とさせる。

 安達太良山は沼尻とは反対側にロープウェイが運行しているため、大半のハイカーはそれを使って労せずして登ってくる。6人乗り高速ゴンドラで毎時1,800人運べるそうで、平日の運行開始は8時30分なので、山頂駅から歩き始める彼らが大挙山頂に押し寄せるのは9時50分くらいになるだろうか。こちらは9時に着くはずなので一歩先んじられる。紅葉期の百名山とあって、狭い山頂に大勢のハイカーのひしめく状況が予想され、これには遭いたくなかった。あえて6時に登山を開始した理由はそこにある。
 ところがまだ9時前にも拘わらず、予想に反して既に30人ほどの高齢ハイカーが山頂下の広場に集まっていた。彼らはロープウェイを恃まず山麓駅から歩いて来たのだろうか。

 こんもりした肌色の山頂広場の奥に高さ20メートルほどの黒い岩塊がツンと突き出しており、これが本当の山頂である。乳首という名前で、上り下り一方通行の道が付けられている。登ると狭い岩の上に小さな祠が祀られていて、『安達太良山』と書かれた頂上標が置いてある。その場にいた数人の人たちは祠と頂上標そのままの写真をお互いうまく干渉しないよう撮影していたが、私がその写真を撮った後に登ってきた高齢者の団体がおもむろに祠から頂上標をひったくり、それを抱えて交代々々祠の前で写真を撮り始めた。それが百名山ハンターのステータスとばかり、それは後から後から登ってくる高齢ハイカーの手にリレーされ、祠の前での写真撮影会はいつ途切れるとも知れない状況に陥った。それ以前から頂上標と祠そのままの写真を納めるべく善良に順番を守っていた人達は、この突然の老人集団の割り込みに唖然としながらも、撮り鉄現場のような怒号が飛ぶでもなく、登頂の雰囲気を壊したくないのか、虚しく諦めて見知らぬ老人が写り込んだ写真で妥協するしかないようだった。こういう暗黙のルールとかマナーの無視が目にしたくない光景であり、私はすぐに乳首を降りてさっさと山頂広場を後にした訳だが、それにしてもまだ9時である。ロープウェイ組が集まるにはまだ早すぎるのだが、前日から山小屋にでも泊まっていたのだろうか。
 
 山頂広場を離れると後は静かなものだった。連続する外輪山の矢筈森(標高1,673M)と鉄山(標高1,709M/この日の最高所)に登り、鉄山避難小屋を経て石楠花の塔まで歩き、この日初めて荷物を降ろしての食事休憩を容れた。先日ハンガーノックを起こした反省から、昨夜はちゃんとした食事を採ってるので、この日は調子がいい。今回は安全策のミドルレンジ登山に抑えたが、仕事疲れと寝不足を差し引いても、これならばコロナ自粛前のロングディスタンスにも耐えられそうな気がする。ただし10月も下旬とあって既に陽も押し詰まっており、その検証は来年に持ち越しなのだが。
 石楠花の塔は高さ2メートルほどの石積みの上に二本のプロペラがウサギの耳のように突き出した変わったモニュメントである。1958年(昭和33年)、ここからほど近い箕輪山の山腹に、航空自衛隊のT6型練習機が激突して搭乗員二名が亡くなったことを悼む供養塔で、プロペラはその時のものだという。この場所は広場のように開けていて、正面に磐梯山と秋元湖を臨む好展望地となっている。

 爆裂火口周回ルートは、火口のすり鉢の上に垂直に切り立った高さ10メートルの崖の縁に沿って付けられているのだが、突如そのルートをハイマツの中に見失った。探すとどうやら崖の裂け目からすり鉢の中に降りられるようで、とりあえず高さ4メートルほどのオーバーハング気味の岩肌をお助けロープなしで降りねばならないようだった。これは一般ルートにしてはいささか厳しいのではないかと思いつつ、岩にしがみついて降りてみたが、後で調べるとここは胎内岩くぐりとやらで、岩の中をくぐる正規のルートがあったらしい。
 すり鉢を降りると白亜のザレた足許の滑りやすい谷底にたどり着く。既に硫化水素くさい。谷底の片隅に看板が立っていて、ここから先沼ノ平方面は、平成9年に火山性ガスによる遭難死亡事故があったため通行止めと書かれている。手持ちの地図も同様な記載になっていた。
 白亜の山肌の中に茶褐色に染まった部分があり、ちょろちょろと透明な水が湧き出ている。川の源流部である。掬って口に含んでみると、鉄のえぐ味があるものの酸っぱくはなく水温も冷たい。川は下るにつれて白濁してきて硫化水素臭も強まり、やがて湯の花を採取する温泉樋の伸びる沼尻元湯にたどり着いた。
 沼尻登山口に続く道標はこの川に降りるよう促しており、川面(かわも)に降りて手を差し入れてみると、衝撃的なほど見事なまでのお湯に変わっていた。しかも適温である。舐めてみるとレモン果汁のようなキツイ酸味とあって、これはもはや入らざるを得ないだろう。早速全裸になって野湯を堪能させてもらうと、川底の硫黄混じりの白砂がブワッと舞い上がって全身にまとわりつき、深い満足感に包まれた。

 湯の花採取樋の集湯桝に手を入れてみるとこれは熱い。60℃くらいありそうである。集湯桝から太い塩ビ管に接続され、それが中丿沢温泉へのパイプラインとなって伸びている。手持ちの地図には書かれていないが、このパイプラインに沿った作業道はこの日現在、硫化水素中毒になる惧れがあるとかで、関係者以外立入禁止となっている。登山口駐車場側の入り口は中丿澤温泉株式会社が管理する門扉によって封鎖されているが、採取場側からだと案内がわかりにくく、うっかり作業道に迷い込んでしまった。

●登山データ
2022年10月21日(金曜日)
沼尻登山口駐車場(標高1120M)→安達太良山(標高1,700M)、標高差580M
沼尻登山口駐車場(標高1120M)→鉄山(標高1,709M)、標高差589M、このルート中の最高所

沼尻登山口駐車場(6時08分出発)→分岐(6時38分)→船明神山(8時43分)→安達太良山山頂乳首(8時55分到着)、登り所要時間:2時間47分
山頂滞在時間:06分
安達太良山山頂乳首(9時01分)→矢筈森(9時20分)→鉄山(9時47分)→鉄山避難小屋(9時59分)→石楠花の塔(10時08分/休憩40分)→湯の花採取場(12時11分/入浴休憩22分)→沼尻登山口駐車場(13時02分)、下り所要時間:4時間01分
全行程:6時間54分

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