Practice Makes Perfect/関八州見晴台(西吾野駅〜不動三滝)
西吾野駅と吾野駅には日貸し駐車場がないため、今回は電車でのアクセスとする
駅舎前に登山ポストがあるので、低山と嘗めずにちゃんと届を出そう
Y字路を右折して橋を渡る
橋を渡ると高山不動パノラマコースの道標あり
手持ちの地図にはY字路の手前に川を渡る道を案内しているが、どうやらこれらしい。現在は渡れない
民家の先を左折するとパノラマコースの開始
パノラマコースといっても展望はほとんどない
チャートの登山道か?
高山不動尊。でかい建築物だ
トイレの裏から回って見晴台へ登れる
奥武蔵グリーンラインと駐車場を経て見晴台へ
丸山の標柱。台風の影響かグリーンラインより上は雨だった
関八州見晴台入口
関八州見晴台(標高771.1M)
関八州が見渡せるはずだが、雨のため展望は一切ない
グリーンライン沿いに顔振峠へ向かう予定を雨のため断念し、不動三滝を経て西吾野駅へ下山することに
スラリと真っ直ぐに伸びた杉林の中に一本だけひどくいびつな木があった
ウロというにはあまりに異様で、複数の人が苦悶の表情を浮かべているように見える。呪いを受けた遭難者の成れの果てだろうか
チャートの露岩だ。雨に濡れて氷のように滑るので、下りの場合特に要注意だ
白滝への分岐
黒い岩を舐めるように流れる白滝
落差はあるが水が宙に散ってしまい、水量の少ない不動ノ滝

いちばん水量が多く迫力のある大滝
連続ヘアピンに出た
武甲鉱業ベルトコンベア高畑積換所。6基のベルトコンベアを5箇所の積換所で繋いで、武甲山で採掘した石灰岩を23.4キロ先の日高のセメント工場まで運んでいる。全体のほとんどはトンネル
西武線の高架だ
西吾野駅へ上がる最後の坂道が一番苦しかった

関八州見晴台(西吾野駅〜不動三滝)

2021年8月9日(月曜日)

 東京オリンピック閉会式に合わせて、8日(日)が山の日で祝日と重なり、本日はその振り替え休日である。オリンピックでは日本勢のメダルラッシュに沸き立ったが、その陰では懸念されていた通り、コロナ第五波によるオーバーシュートが起き、8月5日には東京都の一日の感染者数が5,042人になったのを筆頭に、関東全域でレコードを更新し、7日には全国の感染者数が15,753人と過去最多となった。医療は逼迫し、入院できるのは重症者のみとされ、中等症以下は自宅療養を余儀なくされた。5日の時点で東京都の自宅療養者は16,913人に達し、そのうち8人が8月に入ってからの5日間で死亡した。政府もJOCも無観客としたオリンピックと因果関係はないとしているが、これまでひたすら国民に不要不急の外出自粛を要請し、庶民の各種イベントを軒並み中止に追い込みながら、緊急事態宣言下であってもオリンピックだけは特別と、一年半も我慢を強いられてきた国民にとって、あまりに理不尽すぎる誤ったメッセージを植えつけられたことは確かだろう。その結果として、国民の7割が開催反対していたにも拘らず、日本のメダルラッシュが続くと、多くの国民はコロナを軽視する楽観バイアスに陥り、掌を返したような狂騒ぶりとなって、会場近くの沿道に飛び出しては応援した。閉幕後の調査では64%の国民が開催して良かったと答えたというから、もはや感染も行き着く先まで行くしかないだろう。

 埼玉県でも神奈川・千葉と同様、8月2日から8月31日まで、不要不急の外出自粛、県を跨ぐ移動を制限する三回目の緊急事態宣言が発出され、菅総理もオリンピック閉幕後早速、極めて重大な時期であり、不要不急の外出、お盆の帰省や旅行は極力控えるよう呼びかけている。国内のコロナは現在感染力の強いデルタ株に置き換わりつつあるが、ペルーで猛威を振るっている世界最悪の死亡率というラムダ株が、既に7月20日に国内に入っていることが、8月6日になってようやく明らかにされた(その後13日になると案の定この感染者がオリンピック関係者であることも判明)。

 日本列島に向けて三つの台風が近づいており、8日未明には10号が関東に最接近して雨を降らせたが、9日の予報は回復に向かうようなので、とりあえず不要不急ながら近場のハイキングに出かけることにした。コロナの影響で遠くの高山に行けず、近場の低山にハイカーが集中し、それに比例して特に単独ハイカーの遭難が相次いでいるそうだが、私のやっていることが正にそれで、同じ轍を踏まないよう心して掛からねばならないだろう。
 今回設定したのは、西武線の西吾野駅から関八州見晴台に登り、奥武蔵グリーンライン沿いに顔振(こうぶり)峠まで歩き、峠の茶屋で食事して吾野駅に降りるというものである。全行程は5時間半、12時半には降りてくるという熱中症の危険を考慮すると妥当なスケジュールだろう。
 西吾野駅、吾野駅とも日貸し駐車場がないので、今回は電車でのアクセスとなる。西吾野駅で下車し、駅前に置かれた登山ポストに届を放り込み、準備運動してから、6時36分登山を開始した。
 駅から坂を下って橋を渡ったところで右折する。西武線のガードをくぐると道なりに左折し、少し行くとY字路がある。右に行くと先ほどの川を越える橋なのだが、手持ちの地図ではこのY字路の手前を右に入る道を案内しており、はて? 川だし、そんな道ないけどとY字路を右折して橋を渡ると、橋のたもとにある『吾笑楽』という茶店の前に『高山不動パノラマコース→』という道標が立っていた。
 右折すると川の中に古い橋脚がふたつ立っているのに気が付いた。今では橋としての機能はないが、地図で案内していたのはおそらくこれだろう。民家を過ぎると『←パノラマコース』の道標がある。
 
 パノラマコースと言っても展望は特にない。駅から1時間25分で高山不動尊に到着した。こんな山中に不相応なほど巨大建築物の本堂は圧巻で、その左右どちらでもいいのだが、左側のトイレの裏からぐるりと裏側に回ると、宝蔵殿の裏から関八州見晴台に登る道が伸びている。見晴台は不動尊の奥の院でもあるらしい。
 登ったところは山上尾根を走るツーリング道路の奥武蔵グリーンラインで、台風の影響からか、この辺りは風を含んでパラパラと雨が降っていた。10台ほど置けそうな駐車場の奥に見晴台への道があり、少し登るとこんもりした丸山というピークを経て、また車道に飛び出した。どうやら単なるヘアピンカーブのショートカットだったらしい。
 カーブのところに立派な御影石の標柱があり『関八州見晴台入口』と彫られている。向かいは数台置けそうな駐車場で、雨の中一台のクルマが停まっていた。
 山頂には小ぶりながらちゃんとした建屋の奥の院と東屋が建っていて、先ほどのクルマの主らしい家屋連れが東屋のベンチでくつろいでいた。雨の中私が登ってきたことを察知した父親がベンチを詰めて隙間を作ってくれたが、コロナ禍に一家団欒を踏みにじることもないだろう。掌で謝して必要な記録写真のみ撮り、すぐに立ち去ることにした。
 尾根の反対側から風雨が巻き上げており、関八州はおろか100メートル先も見えない。ここからグリーンライン沿いに顔振峠まで行く予定だったが、雨風をついて冒進する気にもなれず、ここで予定を断念して元来た道を戻ることにした。

 グリーンラインから下ると風は収まり雨脚も弱まった。高山不動尊の分岐標識があり、左折すれば元来た道だが、真っ直ぐ行くと『不動三滝・西吾野駅』とある。
 ははあ、このまま下っても芸がない。せっかくだし、それじゃあ滝見物でもして帰ろうかと、予定していなかったルートに踏み込んだ。遭難とは得てしてこうして起こるものとの思いが頭をよぎったが、このまま行くことにした。
 真っ直ぐ行くと広場になっていて、お墓がいくつかあり行き止まりになっていた。道標はなく、はてこの先の道はどこかいなと探すと、お墓の左手に降りる道が続いていた。
 すこし降りるとスラリと真っ直ぐ伸びた杉林の中に、一本だけひどくいびつな木が立っていた。大きく膨らんだ幹の真ん中がウロと呼ぶにはあまりに異様で、腫瘍に侵されたようにデコボコとコブになって膨らんだり穴が開いたりしている。あたかも幾人かの人間が木に取り込まれて苦悶の表情を浮かべているように不気味だった。呪いを受けた遭難者の成れの果てにも見えた。
 この下山道はチャートの露岩が多く、雨で濡れると氷のように滑る。予定外のルートに踏み込んでいる今、滑落や骨折をするわけにはいかないのだが、生憎ストックを持ち歩いていないので、転倒しないよう危ない箇所は横を向いてカニ歩きで降りた。

 高山不動分岐から13分で最初の不動三滝・白滝の入り口に着き、そこから5分ほど登ると、黒い岩肌をさらさらと舐める様に流れる滝がある。落差は小さく、昨日から雨の割には水量が少ないが、なるほど土台の岩の黒さに滝の白さが引き立っている。すぐに引き返して10分で二つ目の不動ノ滝の入り口に着いた。
 そこから12分ほど登ると、のけぞって見上げるほどのオーバーハングした崖の上から、空中を落下する滝がある。崖は立派で落差はあるものの、たださえ少ない水量が宙に散ってしまい、着水時にはシャワー程度でしかない。
 不動ノ滝入り口に戻って少し降りると、すぐにコンクリート舗装された車道へ飛び出した。ここには不動ノ滝への案内標識はあるものの、次の大滝への案内はなかった。さて左右どちらへ進むべきか。手持ちの地図を見ても分からず、とりあえず下っている右へ行ってみたが、結果的には間違いだった。左が正解だった。なぜなら、右の車道を下りて行くと、道の左の土手下に、それらしい登山道が通っていることに気付いたからである。あれは大滝から下ってきた道に違いない。行き先を目で追うと、この先の車道で合流しているようだ。
 苔むして滑りやすくなった濡れたアスファルト舗装の車道を下って行くと、連続ヘアピンのところに大滝入り口の道標が立っていた。ここから登山道を登り返して大滝まで11分、不動ノ滝入り口からだと32分かかった。下から登って来る分には間違えない案内配置だが、上から降りてくる者にとっては不親切と言わざるを得ない。間違えた分タイムロスとなった。
 大滝は三滝の中で最も水量が多く、落差も滝壺もあり、もっとも豪快なものだった。
 さて、三滝も全部見たし、ここまで下ると先程まで執拗に上から追っかけて来ていた雨も熄み、晴れて蒸し暑くなってきた。連続ヘアピンまで戻り、あとは車道をひたすら駅まで下るのみだ。

 少し下ると途中で車道の頭上を跨ぐ高架橋が現れた。西武線にしては早すぎるし、全体が防音壁の様なもので蔽われていて異様だった。車道はV字谷の底なので、高架の右端はV字の右側の斜面に突き刺さり、道路を跨いだ左端は工場のような建屋に入って、その先でV字の左の山に突き刺さっていた。
 あとで調べて分かったことだが、これは武甲鉱業のベルトコンベアだそうで、武甲山から採掘した石灰岩を、23.4キロ離れた日高市の太平洋セメントまで運んでいるらしい。6基のベルトコンベアを5箇所の積換所で繋いで、全体のほとんどはトンネルだが、この露出した高架と建屋は、積換所のひとつ、高畑積換所とのことだった。
 気温がぐんぐん上昇する中、連続ヘアピンから37分歩いてようやく西吾野駅までたどり着いた。

 駅は集落よりも高台にあるため、百メートルほど車道の坂を登らねばならず、地元住民にはちょっと使い勝手が悪そうだなと思ったが、これが本日最後の試練となった。
 登山道とは違い、坂道とはいえ公道の途中で疲れて立ち止まるなぞ、ハイカーにとってあるまじき行為であり、両手を膝に突くなどもってのほかだ。他に誰が見ているわけでもないが、ここは己との勝負だった。ラストスパートのつもりでノンストップで登り切ったが、余力のすべてを吐き出し、これが今回のコース中もっともハードな区間となった。
 今日は雨に降られたこともあり、スタートからゴールまで、リュックも降ろさず、座りもせず、4時間半終始無休憩のままだった。

●登山データ
2021年8月9日(月曜日)
西吾野駅(標高250M)→関八州見晴台(標高771M)、標高差521M

西吾野駅(6時36分出発)→パノラマコース→高山不動尊(8時01分/滞在時間10分)→関八州見晴台(8時34分)、登り所要時間:1時間58分
山頂滞在時間:01分
関八州見晴台(8時35分)→高山不動尊分岐(8時56分)→白滝分岐(9時09分)→白滝(9時14分/滞在時間02分)→白滝分岐(9時20分)→不動ノ滝分岐(9時24分)→不動ノ滝(9時36分/滞在時間04分)→不動ノ滝分岐(9時48分)→道間違え→連続ヘアピン大滝分岐(10時09分)→大滝(10時20分/滞在時間05分)→連続ヘアピン大滝分岐(10時36分)→西吾野駅(11時13分到着)、下り所要時間:2時間38分
全行程:4時間37分

登山目次
Home
Copyright © 1996- Chishima Osamu. All Rights Reserved.