Practice Makes Perfect/ツツジ山〜刈場坂(かばさか)峠〜正丸峠
西武秩父線・正丸駅がスタート地点
正丸駅の日貸し駐車場にクルマを停める
発券機を操作して前払いする
24時間券で500円。駐車券をフロントガラスのところに置いておく
駅の改札脇に登山届があるので忘れずに出そう
ツツジ山への登山道入り口は標識がないので分かりにくい。地図を見て登った先は民家の庭先に入って墓地から車道に上がるものだったので、最初からこの車道を登るべき
林道・北川正丸線の標識が目印 林道の途中にツツジ山への登山道入り口がある
三田久保峠
小ツツジ山山頂直下の急登区間。あまりの急角度のため踏み跡があちこち錯綜しているが、最大傾斜線に沿って登る。アキレス腱が切れそうな今回の最難関
小ツツジ山
小ツツジ山から一旦下って次のピークに登ると、また小都津路山の標識があり、その下に小さく大都津路山と書かれている。ややこしい
ツツジ山山頂(標高879M)
2014年版の昭文社刊『奥武蔵・秩父』の地図ではこの場所は横見山となっており、2015年の吉備人出版『奥武蔵登山詳細図』では刈場坂山となっている
ツツジ山山頂からの眺め
山頂を少し下ると奥武蔵グリーンラインの車道に出る
刈場坂峠。昭和初期、西武鉄道(当時は武蔵野鉄道)が初めて作ったスキー場、奥武蔵スキー場がこの辺りにあった
刈場坂峠からの眺め。堂平山
刈場坂峠の様子。駐車場とトイレあり
刈場坂峠から大野峠方面に向かう
刈場坂峠のかつての繁栄の跡だろうか。別荘地風の廃墟が続いている
牛立久保から虚空蔵峠へ向かう
牛立久保から虚空蔵峠までは緩い下りで一息つける
一旦車道に出て、東屋の建つ虚空蔵峠から再び登山道へと入る
正丸峠までアップダウンが連続する修行区間に突入
登って下るとサッキョ峠
サッキョ峠からの登り。アップダウンの繰り返しは己との戦い
登って下ると旧正丸峠。ここからでも正丸駅に降りられるが予定通り次に進む
旧正丸峠からの登り。心が折れそうになる
登ったところが川越山
次のピークが正丸山
正丸山を降りれば正丸峠。後は降りるだけだ
頭文字Dにも登場する正丸峠に建つ奥村茶屋

豚肉を甘辛ダレで仕上げた名物の正丸丼
奥村茶屋の駐車場から店の裏手に回り
急傾斜な階段を正丸駅めがけて降下する
登山道は川と一体化してるが蛭がいないのは幸い
集落に出た
しばらく車道を下ると西武線の線路が
正丸駅の斜め階段に到着

ツツジ山〜刈場坂(かばさか)峠〜正丸峠

2021年7月22日(木曜日)

 この日は海の日で祝日である。本来7月19日(月)だったものが、東京オリンピック開幕に合わせ変更されている。開会式が行われる明日23日(金)は、本来10月の体育の日からシフトしたスポーツの日であり、閉会式が行われる8月8日(日)は、8月11日(水)の山の日を移動し、翌9日(月)は振り替え休日である。この内閣官房の発表は前年12月21日に行われたもので、当然すでに市中に出回っているカレンダーはそうなっていない。
 一方の新型コロナはというと、6月20日に解除された東京都の3回目の緊急事態宣言は、7月23日から8月22日まで、4回目の発出となり、オリンピック期間が丸々含まれることから、関東一都三県での開催はすべて無観客となり、パブリックビューイングも軒並み中止された。順調かと思われたワクチン接種は停滞し、新たな予約枠は未定となり、65歳未満の接種が終える見通しは立たなくなった。
 四連休初日とあり、あくまで自粛を促す自治体の思惑とは裏腹に、早朝から県外ナンバー車やバイクの集団が列をなして秩父に入ってきている。私はワクチン接種が済むまで県外遠征登山を諦めており、地元秩父周辺の、山上まで車道の通じた山に意義を見出そうとしている。
 関東では7月16日に梅雨明けしたとたん連日の猛暑となり、高温多湿の低山歩きは熱中症に陥る惧れが高い。無理のない範囲として、西武秩父線の正丸駅からツツジ山を経由して、刈場坂(かばさか)峠に上がり、正丸トンネル上の市界尾根を正丸峠まで歩く周遊コースを設定した。体調次第では中断して正丸駅に降りるエスケープルートがいくつかある。

 正丸駅の日貸し駐車場は前回11年前に来た時とは違い、機械精算式になっていた。24時間で500円の駐車料は変わらない。ボタン操作でクルマのナンバーを打ち込むとレシートが出てくるので、それをフロントガラスの見やすいところに置いておけば良い。駅の改札横に備え付けられた登山ポストに届を入れて登山を開始した。
 まずは国道に出て正丸トンネルを目指す。見上げれば行く手に飯能市と横瀬町の境となる山並みが屏風のように立ちはだかっており、その分厚い土手っ腹を全長2キロのトンネルがぶち抜いているわけだが、よく考えてみれば、右手の刈場坂峠から稜線に上がって、トンネル上の稜線を山なりにてくてく左手に渡り、今出発してきた正丸駅の反対側までぐるりと回って降りてくるという計画は、改めて原寸大で可視化してみると、今更ながらこの暑さで耐えられるかしらと一抹の不安を覚えなくもない。この程度の山歩きは過去に何度も経験しており、まあ今回も大丈夫だろうと多寡をくくってそれ以上深く考えることを熄め、登山口を探した。
 トンネル手前の信号機まで行かないうちに右に入る登山道があるはずだが、なんの標識も無くわからない。トンネルを目前にして仕方なしに右へ上る車道に入ると、すぐに民家に突き当たり、民家の庭先に『ツツジ山→』の小さな標識があるのを認めた。右は民家の敷地に通じている。その上には車道を示す白いガードレールが見え、どうやら民家の庭先を通って車道に上る趣向らしい。それなら最初からあの車道を登って来ればよかったと思ったが、手持ちの地図にはこの車道じたい載っておらず、入り口まで戻るのも面倒なので、庭先を通らせてもらい、お墓の前から車道に上った。これは地図の記載と現地の案内双方に問題がある。
 この車道は林道北川正丸線といい、お墓から少し歩くとツツジ山の登山道入り口の標識が立っていた。
 
 今回のコースは小さなアップダウンが多く、暑さとも相まって、それなりに心身にストレスを及ぼすが、小ツツジ山山頂直下の急登は、本日の核心部と言える区間だった。あまりの急傾斜に登山道が定まらず、道を示すテープも無く、あちこち踏み跡が錯綜している。急すぎてアキレス腱が伸びっぱなしになり、しまいには断裂するのではないかというくらいの痛みに襲われる。足を滑らせて転げ落ちれば無論タダでは済まない。なんとか左から巻こうとしている踏み跡を辿ったところ、途中で道が消失していて、仕方なく尾根筋めがけて斜面を直登したところ、どうやらピークらしきところにまろび出た。傍の杉の木に『小ツツジ山』と手書きされた小さな木札が取り付けられている。
 小ツツジ山から一旦下り、次のピークに登ると、そこには『小都津路山』の立派な標識があり、その下に『大都津路山』と手書きされた小さな木片が付いていた。ややこしいが、手持ちの地図にもこの場所は『大ツツジ』となっているので、木片の方が正しいと思われる。
 大ツツジ山から一旦下って次のピークへ登ると『ツツジ山』と書かれた標識が立っていた。手持ちの地図では『横見山』となっているが、現地には『ツツジ山』以外の表記はない。
 この山頂は単なる通過点に過ぎず、何の思うところもないが、一応今回の最高所ということで、この日初めての座り休憩を容れた。
 
 山頂から少し降りると、奥武蔵グリーンライン・刈場坂峠の車道である。ここまで人ひとりにも会わなかったが、この峠には祝日ということもあって、クルマやバイク、自転車で来ている人たちが数人いた。
 この辺りには、昭和初期、西武鉄道(当時は武蔵野鉄道)が初めて手がけたスキー場があったという。その名も奥武蔵スキー場といい、埼玉に天然雪のスキー場があったこと自体、今では驚きである。
 当時の西武線の終着駅は吾野駅で、そこからバスに乗って今の正丸駅付近まで行き、後は板を担いで歩いて登ったという。ゲレンデにリフトはなく、一本滑っては足で登って滑ったというから、想像するだに大変な労力である。それでも当時上越新幹線も関越自動車道もない時代だったので、東京近郊で滑れるスキー場として割りかし盛況だったらしい。
 その後の雪不足や戦争突入により、奥武蔵スキー場は消滅してしまうが、当時あったとされるレストハウスなどの痕跡は、今は残っていない。
 刈場坂峠から車道を降りれば正丸駅に戻れるが、体調に問題ないのでハイキング続行である。気温は高いが意外に風が吹き抜け過ごしやすい。別荘地のような廃墟の続く道を少し歩くと、牛立久保の分岐点に出る。ここから虚空蔵峠、サッキョ峠、旧正丸峠、正丸峠と稜線歩きが続くが、峠というのは山のこちら側から反対側に抜けるための道なので、当然越えやすい山と山の鞍部に作られ、逆に峠と峠の間は山という構造になる。つまり稜線に沿って歩く場合、山頂を巻く道が作れないほど切り立った状況ならば、道はおのずと狭い尾根上となり、いちいち尾根に沿って登っては降りるを繰り返さねばならない。すでに前半の登りパートは終了しており、後半は多少のアップダウンこそあるものの、基本的には下りパートと多寡をくくっていたところ、この『多少のアップダウン』が思いの外きつかった。
 
 虚空蔵峠は東屋の建つ車道である。車道を降りれば正丸駅であり、次のサッキョ峠を目指すなら目の前の丸太の階段を登らねばならない。ただの登りならいいが、そこに下りの選択肢がある場合、あえて登りを選ぶことは文字通り苦難の道であり、精神的苦痛を伴う。
 丸太階段をピークまで登ってから下り、虚空蔵峠から25分でサッキョ峠に着いた。峠の先は例の丸太階段の登りだが、峠とは名ばかりで、ここから正丸駅に降りる道も反対の芦ヶ久保に下る道もなく、この辺りが正丸トンネルの真上にあたるため、工事によって消失したのか、ここは登り一択だ。
 丸太階段をピークまで登ってから下ると、サッキョ峠から23分で旧正丸峠である。ここからは正丸駅に降りられる。このまま登りを選ぶなら、またしても丸太階段である。
 この局面で登りを選ぶことは、ともすれば発狂する惧れもあるが、この程度を克服できずして県外遠征など烏滸(おこ)がましい。頽(くずお)れそうになる躰を膝に両手をついて堪え、なんとか這い上がってみると、そこには珍しく山頂標識が立っていた。『川越山』と書かれている。少し歩くと今度は『正丸山』の標識があった。
 ようやくやり遂げたという、晴れやかな気持ちに包まれた。ここまで来れば後は降りるのみである。自分に打ち勝った証として何か褒美をとらせたかった。下ったところが正丸峠であり、お誂(あつら)え向きに峠のドライブインが店を開いていた。

 峠のドライブインというのは、下にトンネルが開通した途端、廃れて閉店しがちである。現に私自身、正丸峠に来たのは1982年のトンネル開通いらい39年ぶりだ。
 正丸峠は元は国道だが、トンネル開通以前は、秩父の大型トラックや大型トレーラーは、積載時には過酷な峠越えを避け、寄居から小川町経由で飯能に出ていた。稀に腕に覚えのあるドライバーは空車の時には普通車に混じってこの狭い峠道を越え、大型同士でもお互いなんとかうまいことすれ違っていたものである。
 トンネルが開通してから峠の交通量は激減したはずだが、1988年に起こった東京埼玉幼女連続誘拐殺人事件の舞台となったこともあり、心霊スポットの噂が立ったことと、漫画『頭文字D』の走り屋のコースとして紹介されたことで、わざわざ不便なこの峠を訪れる人はそれなりにいたのかもしれない。
 ともかく、漫画にも登場する奥村茶屋が、不定休とはいえ今でも営業しており、最近のテレビ番組でも紹介されるほどの名物料理もあるとのことで、これは是非立ち寄って食さねばなるまいと思っていた。到着したのは11時46分だったが、客は誰もいなかった。
 店頭に椅子を並べていたオヤジさんに、汗臭いけどいいですか、と訊いたところ、どうぞどうぞというので、入ってすぐの席に座り、名物の正丸丼と秩父メロンソーダを注文した。
 豚の焼肉に秘伝の甘辛ダレをかけた、都会の飲食店にはない田舎料理らしい素朴な美味さだった。
 私が食べていると次から次に客が入ってきて、見る間にテーブルが満席になり、皆正丸丼を注文した。
 店の奥の開いている窓の外に『←正丸駅』と書かれた標識が立っていたので、店のお姐さんに、正丸駅に行くにはあそこから降りるのかと訊いたところ、
「歩きですか?」
 と訊くので、歩きです、と答えると、店の奥からご主人らしき人を連れてきて、私の質問を反復した。ご主人は、
「駐車場から店の裏を回ってあそこから降りてくだい」
 と教えてくれたが、これは店の敷地に侵入することになり、たまたま店に寄って窓から標識が見えなかったら、これは分からなかったに違いない。言われた通り店の裏に回ると店のトイレがあり、その先に伊豆ヶ岳方面と正丸駅方面の分岐標識が立っていた。ちなみにここ奥村茶屋の駐車場にクルマを置いて伊豆ヶ岳へ登る人もいるらしく、登山者用に茶屋の駐車場を1,000円で提供していた。

 店の裏に回ってみると、建物が崖っぷちの傾斜地に櫓を組んで乗っているのにはギクリとした。先月、大阪の傾斜地に建つ住宅が倒壊したり、熱海の盛り土が土石流となって住宅を押し流すニュース映像を見たばかりである。この辺りの地盤の堅牢さを願うばかりだが、ともかくその険しい崖に沿って急傾斜な階段が続いており、手すりにつかまって階段を降りると、登山道に水の流れが合流して川と一体化していた。以前群馬の山中で似た状況で蛭に噛まれたことがあり、注意深く足許を観察しながら降りたが、結局この山に蛭がいないのは幸いだった。尤も今まで秩父のどの山でも蛭に出遭ったことはないのだが。
 しばらく降りると集落の舗装道路に出たが、ここから駅までが案外長く、木陰のない強い日差しの中、アスファルトの照り返しもあり結構辛かった。西武鉄道のガードをくぐれば正丸駅の斜め階段である。

●登山データ
2021年7月22日(木曜日)
正丸駅(標高290M)→ツツジ山(標高879M)、標高差589M

正丸駅(6時56分出発)→三田久保峠(7時42分)→小ツツジ山(8時44分)→大ツツジ山(9時02分)→ツツジ山山頂(9時19分到着)、登り所要時間:2時間23分
山頂滞在時間:12分
ツツジ山山頂(9時31分)→刈場坂峠(9時44/休憩05分)→牛立久保(9時53分)→虚空蔵峠(10時15分)→サッキョ峠(10時40分)→旧正丸峠(11時03分)→川越山(11時20分)→正丸山(11時27分)→正丸峠(11時46分/食事休憩24分)→正丸駅(12時56分到着)、下り所要時間:3時間25分
全行程:6時間00分

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