Practice Makes Perfect/妙法ヶ岳(神庭洞窟〜三峰山表参道〜裏参道)
神庭(かにわ)交流広場駐車場にクルマを置かせてもらう。トイレの奥が神庭・大輪遊歩道
神庭洞窟への分岐
荒川の浸食によってできた神庭半洞窟
解説看板によると縄文時代の遺跡とのこと
小さい穴が奥へ続いているようだが、人は入れそうにない
分岐穴は他にもあるが、やはり狭くてこれ以上は進めない
洞窟の少し上にある神庭鍾乳洞 エントランスは一見行き止まりのようだが
ロフトに上がってみると
少し広くなっており水も流れている
小さい穴がいくつかあるが人は入れそうもない
洞窟探索を終え、荒川沿いの神庭・大輪遊歩道を辿る
前日の雨で桟橋が滑る
竜門の滝
階段を登って
三峰山表参道に合流
倒れそうな巨木を細木が支えている
滝行が行われる清浄の滝
清浄の滝
神域の杜らしい捩れたシオジの巨木
枝が幹に巻き付く様に捩れた不思議な杉。いったいどういう力が働いたのか
空き家かな? 玄関に表札出てるけど
奥宮遥拝殿に到着
奥宮遥拝殿からの奥宮・妙法ヶ岳
随身門をくぐり
三峯神社拝殿へ
狛犬ならぬ狼が居座る三ツ鳥居
門前町を通って
奥宮・妙法ヶ岳へ向かう
奥宮入り口の鳥居
地図によると奥宮の少し手前が妙法ヶ岳の山頂になっており、この岩の上辺りがそのように思われるが、道は奥宮へと誘導されている
この辺りが標高1,329メートルの妙法ヶ岳山頂かな?
山頂を通り越して鋼板足場を一旦下り、次の鋼板足場を登り返せば
急勾配のコンクリート階段が現れ

最後の短い鎖場をクリアすれば
登山道のどん詰まり、山の突端に建つ三峯神社奥宮に到着する。後日調べでは奥宮の標高は1,332メートルであり、やはりここが妙法ヶ岳の山頂で間違いないようだ
山の突端なのでこれより先には進めない
奥宮からの展望
帰りは裏参道から神庭目指して降下する
ロープウェイ山頂駅跡の脇に裏参道降り口がある
裏参道は特に見所もないが、重機の入らない山道にコンクリートの電柱が延々続いているのが不思議だ。人力では運搬も建柱も無理だろうし、ヘリコプターで建てるには難度が高過ぎるように思う
などと考えてるうちに神庭集落に到着

妙法ヶ岳(神庭洞窟〜三峰山表参道〜裏参道)

2021年6月28日(月曜日)

 新型コロナウィルスが日本に上陸蔓延して既に一年半が経過し、ようやく医療従事者や高齢者にワクチン接種が行き渡った。オリンピックをひと月後に控えた東京都では、2021年4月25日から続けていた三回目の緊急事態宣言を、予定の5月11日からひと月余り延長した6月20日を以って解除とし、蔓延防止等重点措置に移行した。
 しかしこれまでと同様、解除した途端に感染者は増え始め、6月19日にウガンダから入国したオリンピック選手団9人のうちの一人が成田空港の検疫で陽性判定され留め置かれものの、他の8人は濃厚接触者であるにも拘らず、そのまま受け入れ先の大阪にしれっと移動し、同じ飛行機の乗客80人もまったくのスルーという驚嘆すべき事態が起こった。一年半経っても尚、オリンピック開幕まで残り一ヶ月であるにも拘らず、未だこんな想定もできない杜撰な水際対策の現実に、一年半自粛の繰り返しを強いられ続けた日本中の国民が耳目を疑った。既に国内のコロナ関連倒産1710件、失業者は10万人に達している。
 その4日後の6月23日にはウガンダチーム二人目の陽性者が見つかったばかりか、他にフランス、エジプト、スリランカ、ガーナと過去にも陽性者が入国していたことを政府が隠蔽していたことまで発覚した。
 武漢ウィルスも次々と変異を繰り返し、イギリス型(アルファ株)、南アフリカ型(ベータ株)、インド型(デルタ株)と感染力が次第に増し、東京都の新規感染者も既に半数が強力なデルタ株に置き換わりつつあるという。更には現行ワクチンのほとんど効かないデルタプラスやペルー型(ラムダ株)も今後順次入ってくることが危惧される中、オリンピックの準備は着々と進んでいる。

 さて私はというと、居住地域での接種券は未だ届かず、職域接種は受け付け初日に会社が申し込んだものの、未だ順番が回って来る気配がない。とりあえず県外遠征や地元の深山に行くのはワクチン接種後と決めているので、昨年同様、地元秩父の山頂まで車道の通じた山に歩いて登って、無聊の慰めとすることにした。ターゲットは三峰山・妙法ヶ岳(標高1,329M)である。
 三峰山とは、雲取山、白岩山、妙法ヶ岳の三山の総称とのことだが、現在では三峯神社のことをそう呼ぶのが一般的の様だ。
 13年前の2008年に、三峯神社の駐車場から雲取山を往復した際に白岩山の山頂は通過したが、メインルートから外れる妙法ヶ岳は登らず仕舞いだった。
 2012年頃から、三峯神社で毎月1日に頒布(はんぷ)する御神木入りの《白い氣守り》が爆発的ヒットとなり、関東屈指のパワースポットとして高いご利益が注目を集め、全国から訪れる観光客の車列で国道は大渋滞を引き起こし、西武秩父駅から通常1時間15分で行ける路線バスが6時間掛かったとか、救急車が渋滞に巻き込まれて通れないなど、秩父地域で大きな社会問題となった。
 2018年に頒布が休止されるまで、この狂瀾は続き、以降騒ぎが収まるまで私がこの山に近付くことはなくなった。それから三年が経ち、さすがにもう平静を取り戻した頃だろうと、今回のコロナ禍登山を思いついた訳である。
 三峯神社の奥宮にもなっている妙法ヶ岳は、標高1,000メートルの神社の駐車場からではほんの散歩程度に過ぎないので、昔中学生の頃学校行事で登った、かつてロープウェイの懸かっていたルートを登ることにした。三峰山表参道という古道である。
 
 2007年まで秩父鉄道で運営していた三峰ロープウェイの山麓駅は、標高400メートルの大輪(おおわ)集落にあり、表参道の起点もここになる。しかし今回は国道を大輪から少し上った次の集落、荒川対岸の神庭(かにわ)から登ることにした。神庭には縄文人が暮らしていたという神庭洞窟と神庭鍾乳洞があり、この二つの探索を今回の登山に織り込んでみた。
 神庭洞窟、半洞窟とも言い、荒川の流れが石灰岩の岸壁を穿ってできたものだという。現在の秩父ミューズパークはかつて秩父原人が棲んでいた秩父長尾根遺跡として話題になり、秩父原人チブーというキャラクターまで作って盛り上がったが、秩父で発見された縄文遺跡の多くは、当時発掘調査を請け負っていた東北旧石器文化研究所の藤村元副理事長の《神の手》による捏造だったことが発覚した。藤村が予め埋めておいた石器を、マスコミや野次馬も含めた衆目の前で掘り出して見せるというイリュージョンに人々は沸き立ったが、後に手品のタネが割れると途端に人々の不興を買い、町興しも期待されていた秩父原人チブーは、県の遺跡登録抹消とともに虚空の深淵へと葬られた。
 この神庭洞窟には東北某の魔の手は入っておらず、縄文時代の石器や動物の骨が出たとかで、動物の解体等、狩猟キャンプに使われていたのではないかと解説看板には謳われている。
 半洞窟の少し上に神庭鍾乳洞がある。新調したヘッドライトを点けて両方入れるだけ入ってみたが、小さい穴は奥に続いているものの、登山開始間もなくで服をあまり汚したくなかったので、探索は入れるところのみで打ち切った。残念ながら無学な私では、ここの面白さを堪能するに及ばなかった。

 梅雨の最中、この日は前線の間隙を縫って晴れ間もあるが、前日まで雨だったため荒川の流れは激しく、沿岸のハイキングコースの桟橋も濡れて滑りやすくなっている。山登りにおいて何より一番身近で怖いのは、スリップによる転倒である。私も過去何度もこれで怪我を負っており、一昨年は背中に突き刺さった木の根が危うく胸まで貫通して死ぬとこだった。すんでのところで回避したが、冗談では済まされない事態に一瞬で陥るところが登山の恐ろしいところである。
 よく滑る遊歩道を行くと、途中に竜門の滝というのがある。滝を見てから遊歩道を登ると、石畳の敷かれた大輪からの表参道に合流する。
 
 前述した通り、表参道を登るのは中学生の学校行事以来二度目である。もっと蒸し暑さを想像していたが、高い湿度も意外にひんやりしている。秩父の他の山と違い、やはり何か神域ならではの、冷気が滞留しやすいとかの構造的な理由があるのだろうか。途中滝行も行われるという清浄の滝を見て、神社の境内入り口であり、表参道の終点でもある奥宮遥拝殿に着いた。ここに立つと右手に見えるのが奥宮・妙法ヶ岳である。
 随身門をくぐり、三峰神社拝殿に着いたのは竜門の滝から2時間06分後と、ネットでダウンロードした観光ガイドマップのタイムを僅かに上回れた。ここまで標高差600メートルを登ってきたわけだが、清浄の滝から上の後半は予想外のきつさだった。

 平日でもあり、神社の境内は閑散としていた。社務所もかつてはアイドルコンサートの物販並みの2時間待ちの行列ができていたそうだが、今は誰もいない。神社横のトイレを使わせてもらったところ、庭の掃除をしていたオバちゃんが、おはようございますと声をかけてきたので、つい懐かしく思い、興雲閣の支配人のC.Kさんはまだいらっしゃいますか、と尋ねてしまった。
「会長ですか? いますよ」
 と怪訝そうにいう。頭にタオル、顔はマスクで半分隠れた状態ではテロリストと疑われても仕方がない。
「か、会長?」
 なるほど、氣守りの力だろうか。時の流れとはいえ、大した出世である。
 もう10年以上前、神社の宿坊たる興雲閣に、たまに仕事で来ていた時期があり、その度世話になった旨オバちゃんに話したところ、表情(かお)がパッと明るくなり、
「事務所に居りますからどうぞ寄ってください」
 という。
 当時、仕事に来ると必ず興雲閣の食堂でお昼をご馳走してくれた。興雲閣は拝殿と廊下続きになっており、この食堂は昇殿参拝する人の待合室も兼ねていた。そうした人たちに混じって作業着姿の私たちだけが黙々とメシを食っており、食べ終わると、飛んできたハエを箸で摘まんだりして遊んでいた。夏でも気温が低く、ハエも動きが鈍いのか、宮本武蔵が秩父の熊五郎相手に見せた技の習得に嬉々としていたのも今にして思えば懐かしいが、そんな思い出も先方は忘れてるかもしれないし、会わなくとも達者ならそれでいい。ワクチン接種も受けていないし、まだ妙法ヶ岳への道半ばである。なんとか取り次ぎたそうにしているオバちゃんに辞去を申し出、登山に戻ることにした。
 
 宮本武蔵の二刀流は、ここ三峯神社で開眼したとされている。武蔵野に草庵を結んでいた武蔵は、少年弟子の伊織に請われて三峯神社の月祭りにやって来る。そのルートは無論今日登ってきた表参道である。武蔵は神楽太鼓を叩く舎人(とねり)の両手に持った撥(ばち)を見て二刀流の合理性に気付く。
 翌朝武蔵と伊織は奥の院へと向かうが、途中、杜(もり)の中で、仇敵である鎖鎌の達人・宍戸梅軒の一党に襲われる。梅軒の両手から変幻自在に繰り出される分銅鎌による中近距離多段攻撃に押されながらも、二刀を以って奮戦し、ついに梅軒を唐竹割りの一刀両断にしてしまう。
 武蔵は神域を犯した罪を神社に自訴するが、神社の宝蔵破りの冤罪を着せられ、今でいう秩父警察署に連行されてしまう。
 神社の宝蔵には社寺の宝物の他に寄附者の浄財が現金として蓄えられており、梅軒はこれを野盗山賊から守る警備隊長として雇われていたのである。警備不在の折、宝蔵を破ったのは、木曽奈良井宿の大蔵という男で、その正体は関ヶ原の戦いで敗れた石田三成の盟友・大谷刑部の家来であり、その犯行目的は徳川政権へのテロだった。

 三峯神社から奥宮への残り標高差300メートルはことのほかきつかった。体力精神力の限界を痛感した。表参道では誰にも会わなかったが、神社から奥宮に行く人は往復で10人ほどいた。なんとかガイドマップの参考タイムを僅かに上回る1時間07分で奥宮に到着した。
 山頂は祠が祀られているのみで、あまり広くもない。ゼリー食品一個とミニ羊羹ひとつを口に入れ、山頂滞在時間12分で下山に移った。
 ガイドマップをよく見ると、奥宮と妙法ヶ岳の山頂は同一ではなく、少しずれている。登山道のどん詰まりの山の突端に奥宮があり、階段と鎖とで登山者は知らぬ間に奥宮に誘導されてしまうのだが、その途中の鋼板足場の階段が整備された岩山がどうやら山頂らしい。手持ちの2007年版の昭文社の登山地図も同様だが、帰宅後、山と渓谷社刊『奥秩父・大菩薩・両神山』のガイドブックには、1,329メートルピークの先に、三峰奥宮1,332メートルの記載があり、これが妙法ヶ岳の頂とされていた。なるほどこれならすべてがスッキリするが、この迷走はいったい何なのだろう。
 
 三峯神社の門前まで戻り、今度は降下点となる裏参道を探す。
 この裏参道、観光ガイドマップにこそ載っているが、手持ちの2007年版の昭文社の登山地図には記載がない。博物館前の辻に立つ標識に『←三峰公園』の標記を確認し、門前土産屋前の車道を歩いて行くと、やがて『神庭・岡本バス停3.7km→』と書かれた標柱と、かつてロープウェイ山頂駅があった場所に出た。
 すでに駅舎も鉄塔もなくなっているが、索道のあったあたりは樹木がU字溝状に伐り開かれ、駅舎のあったあたりは綺麗に整地されてトイレが建っていた。その片隅にシャクナゲ園と地図看板があり、それに裏参道が明記されているのを確認すると、ひとまずホッとしてトイレを使った。

 シャクナゲはすでに時期を終えている。後はここからひたすら降下するだけで、表参道の様な見所は何もないが、この道にはずっと東京電力のコンクリート電柱と、NTTの鋼管柱が続いている。おそらく麓の神庭辺りから電力線と通信線を山の斜面に沿って一直線に三峯神社まで引っ張り上げているものだろう。東電とNTTは今でこそ共架柱を用いるが、旧電電公社時代は、この様にそれぞれの電柱を並んで建てる非効率を繰り返していた。
 ところで、コンクリート製の電柱は重くて人力では運べない。この様な重機の入れない山中では、2メートルほどの鋼管をつなぎ合わせるパンザ柱を使うのが普通なのだが、この延々と続くコンクリート柱は一体なんなのだろうか。ヘリコプターを使って建てたとしか考えられないが、それともパワースポットならではの神通力をまとった醜男(しこお/強くたくましい男)でもいたのだろうか。
 電話線も太い。寒冷地の山間部では積雪による断線耐性を考慮し、同じ回線数でも市街地のものより倍以上太いケーブルが用いられる。それを山の上から引き下ろしたとはいえ、この急斜面を一直線に直降りするのはかなりきついだろう。
 などと考えているうちに麓の神庭集落に着いた。ロープウェイ山頂駅跡からの所要時間は、ガイドマップをちょっと上回る1時間04分だった。

 クルマに戻って足をチェックすると、右足踵に靴擦れが出来、爪が一本剥がれかけていた。これまで全行程5時間超過では、左膝のスポーツサポーターなしには、歩くのに支障をきたすほどの靭帯の痛みに襲われていたが、今回車道の通じた山と油断して、迂闊にもサポーターを忘れてしまったにも拘らず、6時間半耐えられたのは幸運だった。ただ、心身ともに、熱中症とも脱水症ともつかない、予想を超えるかなりヘロヘロな状態にまで追い込まれたのは、今後の登山活動に暗雲を落とすことになった。

●登山データ
2021年6月28日(月曜日)
神庭交流広場駐車場(標高383M)→妙法ヶ岳(標高1,332M)、標高差949M

神庭交流広場駐車場(6時27分出発)→神庭洞窟(6時37分/洞窟及び鍾乳洞探索22分)→竜門の滝(7時10分)→三峰山表参道→清浄の滝(7時51分/休憩3分)→三峯神社(9時16分/休憩11分)→妙法ヶ岳山頂(10時34分到着)、登り所要時間:4時間07分
山頂滞在時間:12分
妙法ヶ岳山頂(10時46分下山開始)→ロープウェイ山頂駅跡(11時53分)→三峰山裏参道→神庭交流広場駐車場(12時57分到着)、下り所要時間:2時間11分
全行程:6時間30分

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