Practice Makes Perfect/金ヶ嶽〜釜伏山〜登谷山〜皇鈴山〜愛宕山(野上駅から)
秩父鉄道野上駅の日貸し駐車場にクルマを預けて登山開始
高砂橋を渡り正面の金ヶ嶽へ向かう
金ヶ嶽登山口
登山道分岐。左右どちらでも山頂へ至るが、左は荒れているので右を行くよう案内されている。左を行ったところ確かに荒れていた。
金ヶ嶽(標高382M)山頂の春日神社
金ヶ嶽ハイキングコースの標識。この番号通り赤い矢印を信じて進むのが賢明である
チェックポイント11。赤矢印は左の葉原峠を指しているが、目指すのは右の塞神(さいじん)峠である。ということはここは植平峠だろうか。その誤認が以降の彷徨のはじまりとなった ? 車道に出た
? 車道に佇む標柱には塞神峠は左とある。これがハイカー用でなくて一体何だというのか? ? 塞神峠へ向かう道は下っているので、GPSアプリを使って山に分け入る。死の彷徨が始まった
?? 標柱だ。塞神峠は左とあるが、左に尾根はない。尾根は右である。ここでようやく目指すところが塞神峠ではなく右の葉原峠である事を確信した
!! チェックポイント12。なんのことはない。チェックポイント11からおそらく2分ほどで来られるところを30分も費やしてしまった。よもやよもやである
釜山神社の標柱。もう大丈夫だ
チェックポイント13。ここが植平峠
チェックポイント15。仙元峠
塞神峠に到着。ここからは明瞭な車道歩きだ
釜伏山(標高582M)山頂
釜山神社
釜伏峠
登谷山(とやさん)を蔽うソーラーパネル
山頂とは逆方向の登谷無線中継所に寄り道
登谷山(標高668M)山頂

茱萸(ぐみ)ノ木峠
皇鈴山(みすずやま/標高679M)山頂
愛宕山(標高655M)山頂
愛宕山山頂下広場の東屋はコンクリート床なので火気使用も安心
東屋でカップラーメンとコーヒーの昼食
金石水管橋を渡り野上駅へ戻る

金ヶ嶽〜釜伏山〜登谷山〜皇鈴山〜愛宕山(野上駅から)

2020年11月16日(月曜日)

 8月末に痛めた腰を9月のハイキングで更に悪化させてしまったため、雨天続きの10月はおとなしく過ごし、二ヶ月間の療養を経て、ようやく運動不足とストレス解消にとミドルレンジの登山を計画した。
 コロナ禍は収まるどころか『Go toキャンペーン』の後押しもあって、全国的な第三波のうねりを見せ、一日の全国の感染者数は過去最高を更新している。二度目の緊急事態宣言が出されれば経済が立ち行かなくなり、倒産、失業、自殺者が急増すると言われており、ワクチンのない現状のまま感染者が急増すれば、重症者のベッドが満床になり医療機関が崩壊すると言われている。コロナはただの風邪とする向きもあるが、SNSでの感染者の克明な実況レポートでは、決してただの風邪ではないと警告している。感染経路も、これまでの『夜の街』クラスターから家庭内感染へと、新たなフェーズに入っているが、現政府の方針は経済優先である。
 2012年12月21日に『古い世界は死に絶え、新たな世界に生まれ変わる』とした古代マヤ文明の『世界滅亡』予言を今になぞらえれば、なにか妙にしっくり納得出来る。

 11月に入ってすでにイエティや軽井沢のスキー場がオープンしており、昨シーズン休業していた狭山スキー場もリニューアルを終え営業再開を果たしているが、とりあえず私は、群馬か越後湯沢のスキー場が全面オープンするまで、当面オフトレに勤しむ方針である。
 といって、地元秩父に登るべきこれといった山もないのだが、二ヶ月前にクルマで稜線まで上って失敗した釜伏山・登谷山(とやさん)・皇鈴山(みすずやま)を、今度は麓から登ることにした。秩父鉄道・野上駅を起点に、金ヶ嶽(かねがだけ)経由で、標高差542メートルの稜線に登り上げる往復7時間の行程だ。

 朝6時。野上駅の日貸し駐車場にクルマを入れる。駅前の駐車スペースのうち、月極以外は一日310円の日貸しに充てられている。有料急行の停まる駅にも拘らず、この時間駅員はいないので、料金を支払うのは戻ってからになる。
 荒川に架かる高砂橋を渡ると、妙に尖った異形の山が目につく。これが本日第一の山・金ヶ嶽である。信号を渡ったところに登山口の鳥居が立ち、『金ヶ嶽』の解説看板が立っている。
 登山口から13分登ったところで分岐標識があった。長瀞町観光協会が設置した小さな看板で、『金ヶ嶽ハイキングコース・チェックポイント06』と書かれている。右へ行くと次なるチェックポイント(CP)07で、左へ行けば二つ飛ばしてCP09だが、荒れ道のためお勧めしませんと書かれている。
 多寡が低山ハイキングレベルの話なので、敢えて荒れ道を行ってみた。
 太い倒木が幾本も行く手を塞いでいるが、チェーンソーで切断され道は確保されている。しかし途中で道がよくわからなくなり、木に縛り付けられたピンクのテープを辿るうち、いつしかコースを外れて斜面を直登していた。畢竟(ひっきょう)これが今回一番のハードな区間となった。
 尾根に出るとすぐに山頂の春日神社に着いた。参拝だけ済ませ、次なる釜伏山を目指す。
 釜伏山から愛宕山までは、前回クルマで辿った通り、それぞれの山頂直下の稜線を車道が結んでおり、車道を跨ぐ形でいくつもの峠がある。クルマで越えられる塞神(さいじん)峠、釜伏峠、茱萸(ぐみ)ノ木峠、二本木峠と、歩いて越える葉原峠、植平峠、仙元峠である。地図を見ると金ヶ嶽から稜線に出たところは植平峠であり、以後、仙元峠、塞神峠、釜伏峠と辿ることになる。つまり次に目指すべきは植平峠である。
 山頂がCP09で、少し下った分岐のところにCP08があった。真っ直ぐ行けばCP07の野上駅方面、左に行けばCP10の葉原峠方面となっている。目指すのは葉原峠ではなく植平峠なのだが、ここはひとまず葉原峠へと向かう。
 CP11の分岐に来ると、左が葉原峠(CP12へ)、右が塞神峠となっていた。この二つの峠の中間にあるのは植平峠である。ということは、標識には書かれていないが、ここが植平峠だろうか。とすると、次に目指すのは塞神峠ということになる。CPの順路は飽くまでも『金ヶ嶽ハイキングコース』の順路であり、釜伏山や皇鈴山を想定しているわけではない。そんな莫迦なルートを歩く物好きはいないのだろうが、つまり、ハイキングコースとはここでお別れということになる。
 右に行くと民家が現れ、突如車道に飛び出した。

 ? ここはどこだろうか。数軒の家の建つ集落である。突如頭の中の地図と合致しなくなったが、秩父の低山では地図と現地が合致しないのは過去に経験済みであり、まあマイナー登山ではよくある事よと思ってしばらく車道を進むと、路傍の草叢(くさむら)に標柱が埋もれているのを発見した。このまま進めば塞神峠、戻れば葉原峠とある。ところが道なりに歩くと道は下りはじめ、しかも道にロープが張られてこれ以上の侵入を阻んでいた。
 ? アスファルト舗装されたこの車道は公道ではないのか? こんな事していいのか? 意味が分からなかったが、道は明らかに下っており、この先に釜伏山に通づる尾根は見出せなかった。むしろ逆である。今降りて来た方こそ尾根に通じており、明らかに何かがおかしい。
 地図を見ても解読できず、スマホのGPSアプリを起動してみると、やはり逆を示していた。迷った時は迷った場所まで戻るのが鉄則である。CP11まで戻ろうかとも思ったが、GPSにはここから尾根に登る道も表示されていたので、それを辿ってみると民家の庭先に入ってしまった。どうやら空き家のようだが、軒先を通って裏手に回ってみると、杣道があるのを発見した。
 誰も通らなくなって久しいのか、枯れて朽ちた竹が左右から何本も道に倒れて行く手を阻み、廃道化が進んでいた。それを掻き分けてしばらく進むと道がなくなり、仕方なしに尾根めがけて斜面を登ると、T字路に出てそこに標柱が立っていた。左が塞神峠、右が葉原峠とある。ちょっと左に行ってみたが、釜伏山に通づる尾根はなく、見えるのは青空しかない。つまり空中である。これは一体何処を示しているのだろうか。『インディ・ジョーンズ最後の聖戦』みたいな不可視の橋でも架かっているというのだろうか。まったく不可解だが、どうやら塞神峠を目指すこと自体が間違っていると結論付けるしかないようだった。見えない橋に足を踏み出したインディ・ジョーンズのように、敢えて目的地とは反対方向の葉原峠にルートを変更した。
 T字路まで戻り、葉原峠方面に向かうと17秒後にCP12に出た。

 おそらくは、CP11からCP12までの所要時間は2分程度のものだったと思われる(後日の実測では3分)。それを思わぬ彷徨に30分も費やしてしまった。よもやよもやである。穴があったら入りたい。標柱の案内の仕方が分かりにくいのも一因だが、これは予め長瀞町観光協会のホームページから『金ヶ嶽ハイキングコースマップ』をダウンロードしておけば防げた問題である。遭難など有り得ぬ車道の通じた低山ハイキングごときに、事前情報など不要と侮った驕りが招いた結果だが、集落の入り込んだ里山特有の地図にはない迷宮構造は、余所者が一度入ったら出られなくなる昔の忍者の隠れ里の趣さえあり、ともかく今回の退屈な低山歩きに意外なプチ遭難のパッションを与えてくれた。

 植平峠(CP13)のT字路に出ると『日本水・釜山神社』と書かれた標石があり、ようやく規定のルートに戻れた安堵感に胸をなでおろした。
 祠のある仙元峠(CP15)を通り越すと塞神峠の車道に飛び出した。やはり私の予定していたチェックポイントは葉原峠などではなく、はじめから塞神峠で合っていたのである。なぜ塞神峠に行かせないような、無用な混乱を招く案内の仕方をするのか疑問だが、何らかの理由が隠されているのだろうか。
 ともかく、ここまで来れば、後は二ヶ月前に辿った通り、釜伏山、登谷山、皇鈴山と、連続するなだらかなアップダウンを淡々とこなすだけである。車道の途中から釜伏山に登り、山頂から釜山神社の裏手に降りてくると、神社の境内で落ち葉を掃いていた小学生くらいの児童が、かなり遠くから私を認め、掃く手を止めて直立の姿勢を取り、
「おはようございます」
 と挨拶してきた。
 彼我の距離は40メートルほどあるが、私の他には誰もいないので、私に挨拶したのは間違いない。熊鈴を着けず、上下モスグリーンの周囲に溶け込む服装で、暗い森の中から降りてきた私を早々に発見したこの子供は無論只者ではない。落ち葉を踏む音で察知されたのだろうか。私も挨拶を返したが、今日は平日というのに、この子供、学校はどうしたのだろうかと不審に思った。コロナ禍のご時世なので、(落ち葉掃除)大変だね、ご苦労様、とだけマスクの中から声をかけて、それ以上の詮索はしなかったが、神社の隣に宮司宅と思われる家があるので、そこの子かもしれない。とすると彼は神社の後継ということになり、さしづめ今は出仕奉公というところか。
 誰にも逢わない平日の単独マイナー登山なので、コロナ禍とはいえマスクなど不要なのだが、このところ雨が降らず空気が乾燥しており、喉を痛める惧れがあったため、今日は敢えてマスク着用である。適度に呼吸を阻害し、ガスコンロを詰め込んだリュックの重さとも相まって、一応それなりの負荷を掛けてのトレーニングの体裁を取っているのだが、思わぬ子供への挨拶に大人のマナーを示せたのは幸運だった。
 神社に参詣し、二ヶ月前に転倒した階段を改めて観察すると、何の変哲もないただの階段だった。何故ここで転倒したのだろうか。単に濡れていただけでは腑に落ちない不可解さだった。

 神社の参道を抜けたところが釜伏峠で、そこからしばらく車道を歩くと登谷山の山頂斜面いっぱいを埋め尽くしたソーラーパネルの発電所が現れる。
 登谷牧場の駐車場を挟んで、右の尾根を登れば登谷山山頂だが、左を登れば遠くからでもそれと分かる登谷山のシンボルのアンテナ鉄塔である。その両方に登り、登山道で茱萸(ぐみ)ノ木峠まで下ってまた車道に出て、すぐに皇鈴山に通づる柵の整備された登山道に入る。駐車場と展望台に開発された山頂を素通りし、少し森の中を歩くとすぐにまた車道に戻るが、道を横断すれば最終目的地の愛宕山に到着する。
 山頂は登谷山や皇鈴山に比べれば狭いが、すぐ下の天文台の裏手にテーブルとベンチが置かれていて休憩できる。登って来た道を少し戻ると、アンテナの建っている公園のような広場があり、そこの東屋のベンチに腰を下ろしてこの日初めての休憩を容れた。
 東屋のすぐ下は車道で、時折クルマやバイクが行き交う風情のなさだが、空気が乾燥しており、枯葉だらけの山頂で火を使うことは躊躇われたので、コンクリートの床で覆われた東屋で、ガスコンロでお湯を沸かし、カップラーメンとドリップコーヒーの食事を楽しんだ。

 52分の休憩の後、帰路に着いた。帰りは塞神峠まで車道を黙々と歩いた。往路は塞神峠から愛宕山まで稜線伝いに2時間08分を要したが、帰りの車道歩きは半分の55分だった。背中のリュックがガスコンロを置き忘れてきたかと思うくらい妙に軽く、何も背負っていないかのような清々しさだった。二ヶ月前に釜伏山で何かに取り憑かれて階段で転倒して以来、ずっと調子が悪く、お祓いの仕方も分からないので放置したままだったが、どうやらそれが取れたようだった。もしかすると、憑きモノを背負った私に気付いたあの出仕見習いの子供が、わざわざ掃除の手を止めてまで私に挨拶したのは、そのためだったのかもしれないと思った。だとすると、彼は非常に有能な祓魔師であり、将来立派な宮司になるに違いない。などと考えながら、すっかり身軽になった体で、飛ぶようにして山を下った。
 長瀞の荒川に架かる、歩行者専用の金石水管橋を渡って野上駅に戻ったのが13時33分だった。登り所要時間4時間26分、下りは半分の1時間56分、全行程は7時間14分と、まずまずの運動量となった。

●登山データ
2020年11月16日(月曜日)
野上駅(標高140M)→皇鈴山(標高679M)、標高差539M

野上駅(6時19分出発)→金ヶ嶽登山口(6時31分)→CP06(6時44分)→金ヶ嶽(CP09/7時06分)→CP11(7時27分)→道迷い→CP12(7時57分)→植平峠(CP13/8時12分)→仙元峠(CP15/8時29分)→塞神峠(8時37分)→釜伏山(9時11分)→釜山神社(9時23分)→釜伏峠(9時28分)→登谷無線中継所(9時47分)→登谷山(9時57分)→茱萸ノ木峠(10時06分)→皇鈴山(10時23分)→愛宕山(10時45分到着)、登り所要時間:4時間26分
山頂滞在時間:52分
愛宕山(11時37分下山開始)→茱萸ノ木峠(11時54分)→釜伏峠(12時13分)→塞神峠(12時32分)→金石水管橋(13時18分)→野上駅(13時33分到着)、下り所要時間:1時間56分
全行程:7時間14分

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