Practice Makes Perfect/丸山・日向山
芦ヶ久保道の駅第二駐車場から大野峠を目指す
熊さんにお願いという看板
前年(2019年)の台風19号の爪痕が未だ残っている
大野峠。丸山林道も台風被害による崩落で通行止めになっている
丸山山頂(標高960M)の展望台
展望台から武甲山を臨む

武甲山の掘削ベンチに2017年頃から現れた謎の要塞の全貌がほぼ見て取れる

県民の森・学習展示館
台風で折れた巨木
日向山山頂(標高627M)
横瀬町農村公園のローラー滑り台で道草

丸山

2020年8月17日(月曜日)

 コロナ自粛で4月からスキーにも登山にも行けず、すっかり引き篭もり生活を余儀なくされていたわけだが、7月からの第2波を押しての『Go To Trabel キャンペーン』発動を受け、ブヨブヨに弛んだ醜態の実力や如何と、現状把握のため地元秩父の丸山(標高960M)に登ってみた。
 丸山という名前は大人になってから知ったもので、子供の頃は高篠山(たかしのやま)と呼んでいた。高篠山という名は地図に載っておらず、丸山鉱泉や丸山林道があることから、なるほど丸山が正しいのかと不得要領のまま認識を新たにしていたのだが、この日、丸山林道の大野峠にあった解説看板には、丸山は最高峰の名前で、この辺り一帯の山々の総称を高篠山というと書かれているのを見て、なるほど『八ヶ岳』みたいなものかと長年の溜飲が下がる思いがした。
 この山は丸山林道を含む奥武蔵グリーンラインが山上を穿っており、飯能や越生(おごせ)へのツーリングコースとなっているため、普段であればわざわざ歩いて登る山ではないのだが、昨年(2019年)の台風19号で林道が破壊され通行止めになってしまったことから、静かな山行を楽しめる僥倖となったわけである。

 芦ヶ久保道の駅第二駐車場にクルマを置き、5時35分登山開始。まずは国道を20分ほど上って赤谷集落の入り口まで行く。辻の標柱に『大野峠・丸山』とあるが、その上に奇妙な掲示がある。
『熊さんにお願い。あなたの棲む地域に、人が音を出しながら立ち入るので、どうか襲わないでください。横瀬町・登山者一同』と書かれている。無論熊に宛てたものではなく、熊鈴を着けないハイカーへの痛烈な皮肉である。これがルート中いたるところにある。
 集落の車道から登山道へ入るところに養蜂農家があり、この辺りで5月21日に熊が目撃されたと書かれている。コロナ自粛中、山に人が入らなかったことから、秩父一帯で人里での熊の目撃情報が相次いでおり、熊の活動範囲が広域化していることを窺わせる。熊鈴で人を避ける熊がいる一方、熊鈴を着けていて襲われたケースでは、熊鈴が熊を呼び寄せたと推測されている。私も登山を始めた当初は着けていたが、今は着けていない。熊鈴の是非については稿を改めるとして、結果的に熊が人間を嘗(な)めて人里にまで行動範囲を広げるのは、お互いの不幸を避ける意味でも看過できない問題だろう。

 登山道と言っても勾配は非常に緩やかで、歩いても歩いても一向に高度を稼げないもどかしさがある。ところが渡渉点を越えると一転勾配を増し、気温も急上昇したことから、大野峠に辿り着いた頃にはすっかりヘロヘロの汗みどろになっていた。
 大野峠から埼玉県県民の森に通ずる林道には通行止めのロープが張られているが、峠の東屋の傍から階段を登ると、見晴らしの効いたパラグライダーの滑空所に着き、そこから『関東ふれあいの道』と称した森の尾根道を経て、丸山山頂と、それを越えて県民の森に出ることができる。
 森の尾根道は、秩父の平地では全く聴かないクマゼミの「ジジジジジジジジ」という啼き声が、やたら大きく非常にうるさい。しかし普段はミンミンゼミやツクツクボウシやらのメジャーどころしか聴かないので、何か生態系の異なる場所に踏み込んだようで、あながち悪い気分でもない。
 パラボナアンテナがいくつもくっついた鉄塔を左折すれば、すぐに白い巨大なコンクリートの展望台が立ちはだかる山頂に到着する。ここまでの所要時間は2時間16分と、意外にも武甲山より30分も余計にかかり、意外に莫迦にできない山懐の深さと歩き応えに、ちょっとこの山に対する認識を見直した。

 高さ10メートルほどの展望台に上がると全周囲が見渡せ、無料で覗けるニコン製の望遠鏡4基が設置されている。武甲山が正面に見渡せ、2017年頃から秩父市民の巷で話題になっていた、掘削ベンチ上の要塞の全容もほぼ見て取れる。
 敗戦後の高度成長期において、日本中の各地で石灰岩の山は削られ、川砂利は浚(さら)われ、海砂は採取され、代わりにゴミで埋め立てられ、山砂利を採るため更に山は削られた。煤塵(ばいじん)と排ガスによって大気は汚染し、川も海も水質汚染と不法投棄で腐臭にまみれ、汚染された魚を食べた人が公害病で苦しんだ昭和の時代。猛烈なスピードで焼け野原のバラックから、クルマ、クーラー、カラーテレビを有する総中流社会にまで生活基盤を押し上げた無謬(むびゅう)の経済政策を支えたのは、こうした資源を有する土地の犠牲あってのことである。
 私も秩父人として、この武甲山についてはいつか稿を割かねばとは思うが、この丸山の頂に建つ巨大なコンクリートの塊は、経済復興の陰で謙虚さを失った驕りの象徴としか映らない。

 まだ朝食を食べていなかったので、36分間食事休憩し、次なる日向山に向かう。
 山頂を降りるとすぐに林道に飛び出し、飛び出した道端にいきなり公園で見かける水飲み場があるのにはびっくりした。こんなところまで水道を引いた傲慢さにいい加減にしろよと憤りを覚えたが、よく見ると道の反対側には公衆トイレが建ち、すでに県民の森の敷地内にあることを窺わせた。近くの標柱が示す文字は県民の森ではなく、学習展示館となっている。
 県民の森は前述した通り、前年の台風被害でアクセス路であるすべての林道が通行止めであり、ホームページによるとコロナ禍で5月いっぱいまで休園していたという。学習展示館に近づくと、駐車場にクルマが数台止まっており、職員と思しき人が建物の中と外に3人ほどいた。職員は通行止めを破って入って来られるようだが、一般の利用客は一人も見当たらない。

 下山路もなかなか長く感じる。昨年替えた登山靴がなかなか足に馴染まず、既に両足の踵のマメが潰れている。途中の日向山にちょっと立ち寄り、横瀬町農村公園の立派なローラー滑り台に興じ、道の駅の駐車場に着いた時には、出発から4時間52分も経っており、予想タイムを超過する態たらくに悄然とした。この調子では、これ以上時間のかかる山には到底耐えられない。まずはとにかく、登山靴の問題を解決しないことにはどうにもならない。

●登山データ
2020年8月17日(月曜日)
芦ヶ久保道の駅第二駐車場(標高310M)→丸山(標高960M)、標高差650M

芦ヶ久保道の駅第二駐車場(5時35分出発)→赤谷(5時57分)→大野峠(7時15分)→丸山山頂(7時51分到着)、登り所要時間:2時間16分
山頂滞在時間:36分
丸山山頂(8時27分)→県民の森(8時42分)→日向山(9時36分/休憩6分)→横瀬町農村公園(10時03分)→芦ヶ久保道の駅第二駐車場(10時27分到着)、下り所要時間:2時間00分
全行程:4時間52分

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