Practice Makes Perfect/破風山・ニョッキン
旧日野沢小学校の観光駐車場からスタート
秩父札所34番水潜寺
熊の出没情報。熊は友達。熊ベルを付けずに行く
入山者カウンターを押す
札立峠。越えれば33番、左が破風山、右がニョッキン
破風山(626.5M)山頂
武甲山方面の展望が開けている 山頂を通り越して猿岩へ行ってみる
猿岩から破風山を臨む 猿岩から城峰山方面の展望
札立峠まで戻り大前山・ニョッキンを目指す 如金(ニョッキン)さまは金精大明神で生々化育の神とある。つまり性器崇拝である
ニョッキン様に登ってみる 不遜にも金具を打ち込んだヤツがいる。金具なんかなくても登れるよ
降りる時の補助にロープのみ持って登る 岩の上はゴツゴツしており出っ張りにロープを懸けられる
ニョッキンは思っていたより小さい 大前山(653M)山頂。標識がなければわからない

天狗山山頂を往復して大前下山口に戻る
秩父華厳の滝に立ち寄る

破風山・ニョッキン

2015年10月22日(木曜日)

 秩父札所巡りもいよいよ佳境となる34番水潜寺である。
 別に札所巡りが目的ではないが、秩父の山を一通り登るというコンセプトの元、水潜寺の裏山の破風山(はっぷさん/標高626.5M)に訪れた。
 水潜寺の駐車場にクルマを入れると、ここは参拝者用の駐車場なので登山者はここから三百メートル下がった旧日野沢小学校の観光駐車場を利用するよう案内が出ていた。
 旧日野沢小学校前の道路は拡幅工事をしており、片側交互通行の信号機が付いている。観光駐車場はこの工事区間内にあり、工事業者の資材置き場や駐車場にも充てられている。まだ時間が早いので誰も来てないが、工事車両がやってくればクルマを出せなくなる惧れもある。まあその時は言えばよかろうと、身支度をして水潜寺に向かって歩きだした。

 登山道に真っ直ぐには行かず、まずは水潜寺に立ち寄り安全祈願をする。水潜寺は西国・坂東・秩父それぞれ33観音霊場結願(けちがん)の寺だそうで、観音堂前には、そこに立って拝めば百観音霊場を巡ったのと同じ効果があるという石板が敷かれている。まことに親切な、クイズ番組で言えば、最終問題は百点です的諧謔だ。
 観音堂の右手には岩壁がそそり立ち、その真ん中に狭いふたつの穴が開いている。観音巡りが終わったらここをくぐって俗世に戻るという胎内くぐりの岩穴で、つまり女陰と子宮を表しており、後の伏線として潜っておきたかったのだが、崖の手前には柵が設けられ、立ち入り禁止となっていた。『落石・落木があり危険です、怪我をしても責任は負いません』という看板が立っている。
 柵の脇をすり抜け、階段を昇った先の岩穴に行ってみると、入り口にも進入禁止の立て札が出ていた。昨今、事故の管理責任を取らされる風潮のためか、安易にこうした措置が採られ勝ちである。そこまで進入してほしくないのなら敢えてこれ以上進まないが、コンプライアンスにがんじがらめとなって身動き取れなくなっているこの閉塞感は、日本社会全体の問題でもあるが、もう少し各々自己責任という概念を見直した方が良いのではなかろうか。

 境内を下り登山道の入り口に行くと、入山者のカウンターと熊の目撃情報があったという注意喚起が掲げてあった。まあ山だから熊くらいいるだろう。山菜採りの人が襲われたという話もよく聞く。登山は最初から危険が内在しているので、山岳遭難は遭難者の自己責任ということになっている。
 この登山道は札立峠を越えて札所33番へ至る巡礼道で、峠と言っても大した道ではなく、水潜寺からはすぐに着いてしまう。峠を真っ直ぐ降りれば33番、尾根を右へ行けば大前山とニョッキン、左に行けば破風山山頂である。『ニョッキン』は後述するとして、ひとまず山頂へと向かう。
 山頂からの展望は開けているが、休むことなく素通りし、尾根を下って猿岩へと向かう。猿岩は特に驚くような大きな岩でもないが、登ってみると目の前に破風山の山頂が見渡せる。山頂といってもただのこんもりした森にしか見えないが、岩の上でリュックを降ろして少し休憩した。
 再び山頂に戻り、札立峠を通り越して次はニョッキンへと向かった。

 ニョッキン。
 如金峰とも如金さまとも言い、男根信仰の象徴たる岩塔である。胎内くぐりの女陰と性器崇拝のセットということになるだろう。
 しかし意外に小さい。もう少し怒張した岩峰をイメージしていたが、可愛いオチンチンといったところである。
 ニョッキンの傍らに解説看板が立っており、読んでいるとスズメバチが一匹、ブ〜ンと近寄ってきた。私の眼の前30センチのところでピタリとホバリングしている。斥候バチである。
 一匹と侮ってこいつを手で振り払ったりしたら大変なことになる。攻撃対象としてマーキングされ、巣から出撃した本隊によってなぶり殺しにされるのである。ここは一旦静かに通り過ぎる。斥候蜂の間合いから脱すれば、それ以上は追って来ず引き返して行く。
 これが山の掟である。こういうことを弁えてさえいれば、いらぬトラブルに巻き込まれることもない。
 しかし困った。今日はこのニョッキンに登る予定なのである。ニョッキンは神なので、もしかしたらヤツは眷属なのかもしれない。ニョッキンを一旦は通り過ぎたものの、見渡したところ登攀ルートは解説看板の裏となるので、目的を達するためには看板まで引き返さねばならなかった。
 看板に近づくと、すかさずブ〜ンと出てくる。眼前30センチまで来てホバリングしている。看板を通り過ぎると引き返して行く。
 ははぁ、どうやら看板の傍に立っている樹から半径2メートルがヤツの哨戒範囲らしい。樹にはもう一匹が待機していたが、巣がどこにあるのかまでは分からなかった。看板の裏手からニョッキンの根元に周るにはギリギリの間合いだが、慎重に周ってみると蜂は追ってこなかった。しばらく様子を見ていたが、どうやら大丈夫そうなので、リュックを下ろして登攀に取り掛かった。

 ニョッキンは想像していたよりだいぶ小ぶりで、登攀と言っても3メートルほどしかない。神聖な男根神であるにも拘らず、不遜にも岩釘が一本打ち込まれていた。古いものらしくすっかり錆び付いている。
 角度はほぼ垂直だが、岩肌はゴツゴツしていて登山靴のままでも充分いける。但し岩は登るよりも降りる方が難しいので、念のためロープを持って登った。
 頂上は狭い。ぐるりと周囲を見渡して、他にすることもないので降りることにする。岩の上にアンカーボルトは打ち込まれていないが、ゴツゴツした出っ張りにロープを回して懸ければ補助にして降りられる。
 リュックを背負い、看板の前に回る。すかさず斥候蜂がブ〜ンと出てくる。木の前を通り過ぎて2メートル離れればヤツはそれ以上は追ってこない。ロジカルというか、斥候にも斥候なりのマニュアルとコンプライアンスがあるのかもしれない。

 大前山がこの日の最高地点だが、山頂と言っても登山道の途中に看板が立っているだけで、なければ到底気が付かない。山頂を過ぎると大前集落への下山口があり、ここから下る予定なのだが、一旦これを通り過ぎ、その先の天狗山へ向かう。ここには山頂らしい祠が祀られていた。

 登山道を降りて県道へ飛び出す。後はこの車道を下れば駐車場に戻れるのだが、逆方向に少し登って秩父華厳の滝に立ち寄ってみた。なかなか水量もあり立派な滝である。
 駐車場に戻ってみると工事車両が数台入っていた。観光客は私だけだったが、退路は確保されていた。

●登山データ
2015年10月22日(木曜日)
旧日野沢小学校駐車場(標高237M)→大前山(標高653M)、標高差416M

旧日野沢小学校駐車場(7時37分出発)→水潜寺(7時46分)→札立峠(8時25分)→破風山(標高626.5M/8時37分)、駐車場からの所要時間:1時間
→猿岩(8時48分/登攀・休憩:17分)
→破風山(9時16分)→札立峠(9時26分)→ニョッキン(9時37分/登攀・休憩:19分)
→大前山(10時08分)→大前分岐(10時14分)→天狗山(10時19分)
→大前分岐(10時26分)→秩父華厳の滝(10時56分/休憩:11分)→旧日野沢小学校駐車場(11時31分)
全行程:3時間54分

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