Practice Makes Perfect/日向山
花崗岩が露出している日向山(標高1,660M)西壁の雁ヶ原

矢立石登山口の駐車場
登山口には様々な注意書きがある
ひっそりと三角点の佇む山頂
山頂から少し歩くと雁ヶ原。突如風景が一変する
辺りは一面のガスに蔽われている 吸い込まれそうな急斜面。滑り落ちたらひとたまりもない
ようやくガスが霽れてきた 雁ヶ原の前衛ピーク
風化浸蝕にしては何か作為的な卑猥さを感じさせる造形 飽くことない風景が広がる

南アルプスの中にあって、低山ながら異形な景観を楽しめる日向山
花崗岩の風化浸蝕により出来た奇岩と白砂のゲレンデが広がる日向山雁ヶ原

錦滝方面への急斜面
錦滝

日向山(ひなたやま)

2013年10月21日(月曜日)

 南アルプスと一口に言ってもその範囲は非常に広大で、中央自動車道の北杜市辺りから見えるそれはほんの北端に過ぎない。すなわちオベリスクが特徴的な地蔵岳と、白く荒涼とした山頂を持つ甲斐駒ヶ岳であり、南アルプス最高峰の北岳や仙丈ヶ岳はこの壁の後ろに一歩引いているし、更にその奥深くに塩見岳・赤石岳といった三千メートル級の山々が秘境の趣を以って脈々と続いている。
 そうした巨峰群にあって今回選んだのは、駒ヶ岳最北端に伸びる八丁尾根の先端に、ぽつんと飛び出した日向山(標高1,660M)である。

 前回の駒ヶ岳と同じく国道20号線の道の駅はくしゅうから山裾に入り、平坦部からスタートする黒戸尾根登山口駐車場を横目に、林道をひたすら登って行く。少々心細くなる狭く薄暗い林道を5キロほどグネグネ上って高度を稼ぐうち、矢立石登山口の駐車場に到着する。
 駐車場といっても、少し広くなった路肩に斜めに十数台が停められるだけのスペースで、頭から駐車すると帰りに満車になった場合ターンできないので、朝の空いているうちにバックで駐車しておくのが賢明だろう。

 矢立石登山口から山頂までの地図上参考タイムは僅か1時間30分で、前回の黒戸尾根のそれと比べれば6分の1にも満たない。登山道の勾配はいたって緩く、『日向山ハイキングコース』というプレートが木に打ち付けてあるのがいかにも初級者コース然としている。
 アメダス設置箇所を少し登ると、三角点への分岐がある。樹木で視界の利かない中に三角点がひっそりと佇んでいて、山頂の標識はない。
 三角点は測量のための基準点であり、山頂を示すものではないが、見晴らしの好い場所が選ばれるという点で、大方の三角点は山頂に立っている。ここは見晴らしが悪いものの地図で確認してこれより先を見渡すと、道は下っているのでやはりここが山頂と思われた。

 少し歩くとこの山の核心部である雁ヶ原(がんがはら)に到着する。辺り一体ガスに蔽(おお)われていたが、雪原を思わせる一面真っ白な花崗岩と白砂のゲレンデが幽玄と広がっていて、深く急峻な斜面が地獄の漏斗のように落ち込んでいる。下を覗き込むと吸い込まれそうで、足を滑らせたら奈落まで転げ落ちそうである。ここまでの行程が初級ハイキングコースだっただけに、青天の霹靂という印象も受ける。

 さて。ここで気になることがふたつあった。
 ひとつは、山頂の標識がここに立っていることであり、もうひとつは、その山頂標識に通行規制の注意書きが貼ってあることである。
 先ほどの三角点の設置場所は山頂ではないということだろうか。こちらの方がより山頂らしいから便宜上そうしているということだろうか。おそらく後者と思われるが、問題は通行規制の注意書きの方だった。
『平成23年の台風被害のため、山頂から錦滝へは下山禁止、錦滝から山頂へ登るのは構わない』
 という旨が書かれている。
 実はこれは矢立石登山口にも書かれていたのだが、迂闊にも見落としていたため、雁ヶ原に来てはじめて気付くという失態を犯していた。但しこのことは、平成25年10月現在において、北杜市観光協会のホームページにも、山梨観光ネットのホームページにも書かれておらず、急傾斜なので気を付けて通行するよう書かれているにとどまっている。
 台風被害による登山道崩落なら、当然通行止めにしてしかるべきだが、登りなら良いとは、つまり登山道の崩落ではなく、単にハイカーの技術的問題にその本質があると思われた。つまりここからは、これまでの緩やかなハイキングコースとは打って変わって、だまし討ちのような急傾斜であり、初級者にとっては衝撃的な恐怖となるに違いなく、おそらく過去に滑落事故等の通行トラブルがあったことへの台風被害にかこつけた行政対応と想像された。
 こうしておけば事故が起こっても行政側の責任はないという主旨であるが、こうした行政対応にどこまで恭順するかは、この山のみならず、山登りにとってひとつのテーマであろう。

 一面の雲海から八ヶ岳が頭ひとつもたげている以外何も見えない。いつもの長距離登山では山頂滞在時間が短いのだが、この日は余裕の行程なので、ガスが霽(は)れるまで白砂のゲレンデでのんびり待機することにした。
 風向きによるものか、時折強烈な獣臭が漂ってくる。こういうきつい臭いは熊かもしれず、周囲をガスに巻かれているだけにちょっと不気味だ。周囲に何の遮蔽物もない、転げ落ちそうな斜面にいてはどうにも対応しようがないので、籠城戦の効きそうな岩場の高台に身を移した。
 そのうちにガスが霽れて、異形な石像群が見えるようになってきた。視界が利くと共に、獣臭もなくなったので、指定コースの逆走とはなるが、急斜面を錦滝方面へと下った。

●登山データ
2013年10月21日(月曜日)
矢立石登山口駐車場(標高1,123M)→日向山(標高1,660M)、標高差537M

矢立石登山口駐車場(8時15分出発)→日向山/雁ヶ原(9時25分)、登り所要時間:1時間10分
山頂滞在時間:1時間00分
雁ヶ原(10時25分)→錦滝(10時45分/休憩20分)→矢立岩登山口駐車場(11時30分)、下り所要時間:1時間05分
全行程:3時間15分

登山目次
Home
Copyright © 1996- Chishima Osamu. All Rights Reserved.