Practice Makes Perfect/蓼科山
七合目登山口駐車場から登山開始
最初はこんな感じ
将軍平に建つ蓼科山荘
蓼科山荘からは濡れた大きな石の登山道となる
山頂の一郭に建つ蓼科山頂ヒュッテ
蓼科山山頂(標高2,530M)
蓼科山の山頂部は広い 山頂中央に建つ蓼科神社奥宮
ガスっていて幻想的な山頂 岩石が山頂から白樺湖へ落ち込んでいる

雲が霽れた。しらかば2in1スキー場と白樺湖が眼下に
下山途中、蓼科山荘でコーヒーブレイク

蓼科山(七合目登山口から)

2013年8月2日(金曜日)

 諸事情により、前回の登山から二ヶ月弱空けてしまった。このままでは運動不足甚だしく非常に不味いのだが如何ともし難い。せめてごく軽い登山でもと、蓼科山へやってきた。
 秀麗な円錐形の蓼科山へは東西南北からいくつかの登頂ルートがあるが、どれをとっても時間はさして掛からない。とりあえず最もポピュラーな北西寄りの七合目登山口から登ることにした。

 白樺高原国際スキー場の前からクルマで上ると、やがて駐車場にトイレ、そして登山口を示す鳥居が現れる。鳥居前の駐車場は既に満車だったので、一段下がったトイレ下の駐車場に停めた。平日とはいえ、学校が夏休みになったこともあり、子供連れのハイカーが多いようだ。白樺湖を中心としたリゾート地であり、日本百名山の中では、山頂までの所要時間がお手軽とあってか、かなり人気が高いことが窺える。

 蓼科山はこれまで私の中では、スキー場の借景以上の存在ではなく、登山対象にはならなかった山である。地図上参考タイムも1時間40分で登れるとあって、散歩程度の負荷しか掛からない。
 ただ、この年(2013年)の夏は記録的に暑く、低山や長丁場では衰弱しきった心身がとても耐えられないだろうという弱気からピックアップされたものである。
 スタート地点からして標高1,900メートルもあるため、気温はちょうど良かった。快適な足取りで、特にどうということもなく、ルートの中間点である蓼科山荘に到着した。小屋の庭にグッズ販売ブースが出ているあたり、さすがに有名観光地である。
 そのまま小屋を素通りし山頂へ向かう。
 蓼科山荘からは登山道の様相がそれまでと一変する。歩きにくい濡れた大きな石がゴロゴロした急斜面となり、時折鎖が施されていたりする。下山者とのすれ違いも多く、特に子連れが多いので、すれ違いや追い越しには気遣いが必要である。
 この状態が山頂まで続くのだが、標高差630メートルの割には、あっけなく蓼科ヒュッテに着いてしまった。ここは既に山頂の一郭である。

 蓼科山の山頂は円形で広く平らである。火山の火口がそっくり埋まって真っ平らになった感じで、外周の縁(ふち)が幾分盛り上がり、中央部は少し凹んでいる。一様に大きな石がゴロゴロしており、この日ガスで視界がいまひとつだったため、何か他の星に降り立ったような幻想的な光景だった。
 蓼科ヒュッテに近い火口の縁に三角点が設けられ、少し離れた中央部には月着陸船を彷彿させるような小さな人工物が置かれている。蓼科神社奥宮である。
 神社に参詣し、更に先に進むと、うっすらと靄の向こうに何か立っている。『2001宇宙の旅』のモノリスを彷彿させる物体で、映画のモノリスのシーンに使われた楽曲、『レクイエム』が頭の中で不気味に鳴り響いた。それはただの風景指示盤だった。

 山頂に懸かっていた雲が霽(は)れてきた。転げ落ちそうな大きな岩が山肌一面蔽っている様は一見の価値がある。よく積み上げたものだと感心する。眼下にはしらかば2in1スキー場と白樺湖を俯瞰できる。時刻は10時前と少し早いが、せっかく登ったのでここで腰を下ろして昼食にした。

 平日とはいえ山頂にはやはり人が多い。山頂滞在時間50分で下山に移る。
 途中、蓼科山荘で休憩することにした。まったく疲れていないが、『ケーキセット』の貼紙に思わず足を止めてしまった。
 たやすく誘惑に負けるか? それを無視して壁をひとつ乗り越えるか? しばらくの葛藤の末、時間の余裕もあるし、たまには贅沢してみるのもいいだろう、せっかく山の上で登山者相手に商売してるのである。登山者は素直に経済協力すべきという妥協のもと、ケーキセットとアイスクリームを注文した。
 山荘のお姐さんが、
「外で食べますか? それでしたらお持ちいたします」
 というのでウッドテラスに一人陣取った。
 このテラスの階段上り口には『テラスでの休憩は有料です』と書かれている。金のない連中は庭の地べたに座り込んで休憩しており、ウッドテラスのテーブルを使っているのは私一人だった。つまり独占である。こんな山上でも金さえ払えばちょっとしたブルジョア気分に浸れるとは、この差別化がちょっと滑稽だった。
 ところが、突如この秩序が破られる事態が起こった。
 下から登って来た子連れのハイカーが、衆目の中、庭を突っ切り、おもむろにテラスに上がりこみ、テーブルをひとつ占拠し、リュックから弁当を出して食べ始めたのである。
 山荘に何を注文するでもなく、『有料』という貼紙はこの下賤の親子によって真っ向から無視された。
 ところが、私に食事を運んできたお姐さんは、この親子に何も言わなかった。庭で販売ブースを営んでいる男も何も言わない。無論私も言わなかった。
 親子は弁当を食べ終えると貼紙をちらりと見て、登山道に戻っていった。
『有料』とは一応書いてあるが、山上でのことでもあり、目くじら立てるほど厳格なものではないということか。山上のルールは基本的には自然法則のみであり、人間の決めたルールやマナーは、所詮は登山者ひとりひとりの良心の上に辛うじて成り立っているに過ぎず、容易く破綻してしまう。小さなことだが、子供への教育は親の責務であり、教育を受けられなかった子供は可哀想であると感じた出来事だった。

●登山データ
2013年8月2日(金曜日)
七合目登山口駐車場(標高1,891M)→蓼科山(標高2,530M)、標高差639M

七合目登山口駐車場(8時25分出発)→蓼科山荘(9時15分)→蓼科山山頂(9時45分)、登り所要時間:1時間20分
山頂滞在時間:50分
蓼科山山頂(10時35分)→蓼科山荘(10時50分/休憩20分)→七合目登山口駐車場(11時45分)、下り所要時間:1時間10分
全行程:3時間20分

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