Practice Makes Perfect/武尊山
武尊牧場スキー場の駐車場から登山開始
ゲレンデを登る。本コース中最もきつい区間
ゲレンデトップから登山道へ入る
最初は整備された穏やかな散策道
途中、ミズバショウが数株咲いていた
次第に登山道に現れる残雪
避難小屋。もしかして中に死体がないか一応検める エクトプラズムのようなものが写っているが…
ようやく武尊山山頂が見えてきた 行く手を遮る倒木
雪解け水で川と化している登山道
大きな雪田
セビオス岳のベンチ 中ノ岳目指して雪田を登る
中ノ岳直下の鎖の掛かる岩場
中ノ岳山頂を巻くように登山道は稜線から外れる
残雪、泥濘、竜頭の滝と、非常に歩きにくい
穴が開いているので注意。踏み跡以外で雪が黒ずんでいるところも危険だ

ガスで山頂は見えないし、かすかな踏み跡と方向感覚だけが頼りだ…
日本武尊(ヤマトタケルノミコト)
どうやらこれが山頂のようだ…
武尊山山頂(標高2,158M)に到着
カップラーメンとコーヒーとデザート

武尊山(ほたかやま/武尊牧場スキー場から)

2013年6月10日(月曜日)

 夏季登山オフトレ七年目。
 仕事の通勤都合で寝不足と疲労が恒常化しており、休日くらいゆっくり寝たいという欲求に抗えなくなりつつあるこの頃、冬のスキー回数もめっきり減り、加齢によるものか体重は増え、いつの間にか腹の肉も掴めるまでになってしまった。このままでは不味いと思いつつも、どうにも改善に踏み切れない悶々とした日々が続いている。
 過去の登山履歴を読み返すと、夜中の2時に起きて日帰りで10時間歩くとか、スキーのためのトレーニングと称して、様々ぎりぎり困難な状況に敢えて取り組んできたが、現況ではこのような無謀は中高年登山者の迷惑遭難事故に繋がりかねないので、とりあえず無理のない行程を組んで、何とか体力維持に努めるという折衷案以外是非もなさそうである。

 今回は軽い足慣らしのつもりで武尊山を選んだ。行程としては余裕を持ち、それによる後遺症がどの程度仕事に影響するかを検証する。それによって今後の計画も自ずと決まってくるだろう。
 武尊山の登山ルートはいくつかあるが、迷うことなく武尊牧場スキー場からのアプローチを選んだ。このスキー場は夏山リフトを運行しており、金さえ払えば標高1,480メートルのゲレンデトップまで運んでくれる。但しこの年の運行開始は二日後の6月12日からであり、スキー場での山開きの神事と共に運行が開始される。
 運行時間は8時30分〜16時00分までで、この時間内で山頂を往復するには、やや脚力が必要だろう。
 武尊牧場スキー場の稜線反対の東俣駐車場から登れば、往復二時間の短縮が可能だが、この駐車場への林道は2008年の土砂崩落以来、この日現在通行止めで使えない。
 スキー場の駐車場は二段構えだが、上段のスキーセンター前には夏山リフト営業の準備や、ゲレンデの土木工事といった関係者のクルマが並んでおり、営業期間前でもあるため下段の駐車場に置いて登山を開始した。

 武尊山は、関越道・沼田インター付近から一見してそれと分かる独立峰で、武尊牧場の他、スノーパルオグナほたか、川場、たんばら、宝台樹(ほうだいぎ)といった、片品・水上エリアのスキー場のメインフレームにもなっている、スキーヤーにとって馴染み深い山である。
 武尊牧場のゲレンデも無論滑ったことはあるが、夏にあらためて登ってみると、かなりの急勾配なことに瞠目(どうもく)する。今回登ったスラロームコースは、最大斜度30度の急斜面だ。
 スキーをしない人にとっては、30度という角度が急斜面といわれてもピンとこないだろう。三角定規の一番ゆるい角度が30度であり、そう聞くとたいしたことなさそうだが、実際にこの斜面を目の当たりにすると、絶壁の様に見えるから不思議である。
 尤(もっと)も、スキーヤーというのは斜面に対して垂直に立つよう訓練されているので、急斜度でも体に掛かる負荷はともかく、視覚的には斜度をあまり感じないようにできている。ところが、夏に常人に立ち返って歩いてみると、これは重力に対して鉛直に立つことによるものだが、とんでもない急斜面に驚かされるのは滑稽である。
 リフトなら数分のところを、45分掛かってゲレンデトップのリフト降り場に到着した。結果から言うと、このゲレンデ登りが今回のコース中最大の難関だった。

 工事中のゲレンデから登山道の標識を辿って行くと、遊歩道の整備された『水源の森』散策コースになる。ダケカンバやオオシラビソといった巨木の森で、ちょっとした湿地にミズバショウが咲いていたりする。勾配はほとんど感じない。
 散策周遊コースが終わると登山道っぽくなる。勾配はそれほどないが、残雪に覆われるため道を見失いやすく、倒木に行く手を阻まれ、雪解け水が川となって、ところどころに泥濘の沼地を作っている。

 途中に避難小屋が佇んでいる。
 まだ山開き前だし、中に遭難者の白骨死体でもあるかもしれないので、一応義務的に中を検(あらた)める。
 引き戸が不気味だ。
 ぐわらりっ!!
 ……
 …何もない…

 登山道はますます過酷な様相を呈してくる。登山道に流れ込む雪解けの水量が多くなり、勾配のあるところでは階段状の滝のようになり靴が水没する。登山靴はタングが一体となった構造なので、辛うじて内部への浸水はないが、熱が奪われ足が次第に冷たくなってくる。
 勾配のないところでは沼地化しており、凄まじい泥濘は避けようもない。足首までもぐり、靴が真っ黒になる。
 川になると綺麗に洗い流せる。また泥濘で汚れる。また川。そして雪田。これが断続的に続く。そのため軽アイゼンも面倒で着けないが、雪田が急勾配だったりすると足許が滑る。この繰り返しには辟易した。
 やがて雪上にベンチが顔を出している場所に着く。標識はないが、どうやらここがゼビオス岳のようだ。ここから先は雪田の面積が大きそうなので、ベンチに座って軽アイゼンを装着する。
 ゼビオス岳とは変わった名前である。どのような意味と由来があるのだろうか。ネットで調べてみたが分からなかった。

 いきなりロープと鎖の岩場である。
 アイゼンを外し、鎖にすがって岩場を登ると、どうやら中ノ岳山頂近くの稜線に出たようだが、雪田に付けられた古い踏み跡は稜線を外れて下っていた。武尊山頂はガスで見えない。地図を出して確認する。
 どうやらルートは中ノ岳には登らず、稜線の反対側に一旦降りるようだ。少し降りると『中の岳南の分岐』の標識に行き当たった。武尊山頂まであと『0.8km、高低差60M』とある。
 ここからは雪の斜面のトラバースである。ガスで山頂が見えないため、古い踏み跡だけが頼りだ。ちなみに新しい踏み跡はない。
 ところどころ雪に穴が開いているので要注意である。この辺りには三ツ池というのがあるらしく、雪を踏み抜いて池に落ちる危険がある。雪が黒ずんでいるところを避けながら進むが、ガスで視界が奪われ、道迷いで遭難しそうである。

 突如ガスの中から神仏像が現れた。山名の由来になっている日本武尊(ヤマトタケルノミコト)である。別名ヤマトヲグナとも言い、天皇の息子に生まれながら、天皇から疎まれ、国の平定のため、草薙剣(くさなぎのつるぎ)を携えて九州や関東の反乱軍や荒ぶる神々と闘い続け、心身ともに疲労困憊し、死んで白鳥になったという悲劇の人である。

 登山開始から誰にも会わなかったが、山頂には十人ほどの先客がいた。中高年登山者のパーティーである。おそらく、最短時間で登れる水上宝台樹ルートから来たものだろうか。それまで厳かだったこの山行も、ここで状況が一変した。
 この中高年パーティー、非常にうるさい。どうでもいいことをひっきりなしに、しかも抑制が効かないのか、怒鳴るような大声でしゃべっている。しゃべっていないと死ぬかのようである。
 あまりここに滞在したくなかったが、12時を過ぎていて空腹だったので、仕方なく片隅に腰を下ろして昼食にした。今回の昼食はガスコンロ持参のカップラーメンとインスタントコーヒーである。デザートのフルーツ缶詰もある。ちょっとした贅沢を満喫する予定だったが、このうるさい連中によって台無しになった。

●登山データ
2013年6月10日(月曜日)
武尊牧場スキー場駐車場(標高1,071M)→武尊山(標高2,158M)、標高差1,087M

武尊牧場スキー場駐車場(8時00分出発)→ゲレンデトップ(8時45分)→避難小屋(9時55分)→ゼビオス岳(10時35分/休憩10分)→武尊山山頂(12時10分)、登り所要時間:4時間10分
山頂滞在時間:40分
武尊山山頂(12時50分)→ゼビオス岳(13時45分)→避難小屋(14時15分)→ゲレンデトップ(15時05分)→武尊牧場スキー場駐車場(15時30分)、下り所要時間:2時間40分
全行程:7時間30分

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