Practice Makes Perfect/碧岩・大岩
大岩山頂から見た碧岩(標高1,125M)

三段の滝駐車場
三段の滝まで遊歩道を行く
鉄梯子を登る
三段の滝に到着
滝を登りきると、渡渉を4度繰り返す
三段の滝・上段。この脇を登る
碧岩への分岐
初心者が登るには危険だ
碧岩最難所の岩登り。意外に難しい 碧岩山頂(標高1,125M)

碧岩山頂から見た大岩
碧岩を降下して大岩へ向かう
大岩へは痩せた岩稜登りだ
大岩山頂(標高1,133M)

碧(みどり)岩・大岩

2012年10月17日(水曜日)

 群馬県南牧(なんもく)村の県道93号線を西へと進んで行くと、村の中心部である学校や消防署のある辺りで突如前方に異様な山影が現れる。双耳峰というにはあまりに鋭すぎる二本の岩峰は、異様な湾曲を帯び、まるで地中から突き出た鬼の爪を思わせる。差し詰め古代中国の怪物を封印したという蚩尤(しゆう)塚である。左の爪が大岩、右が碧岩となっている。
 妙義山・荒船山を筆頭に、この辺りは魔界の山を彷彿させるような奇山・奇岩が多いが、この碧岩・大岩も異様さでは遜色がない。

 群馬県南牧村といえば、日本一の限界集落などといわれる過疎地域である。昨今の不景気で地方に仕事はなくなり、地方での生活はしにくくなったといえるが、そうした荒波を如実に受けている印象は否みようもない。
 クルマ一台分の道幅しかない道路の両側に家並みが密集する砥沢(とざわ)集落を抜け、学校跡のあるY字路を左に進むと、やがて左手に『三段の滝』の看板が見えてくる。短い橋を渡ったところが、三段の滝用の駐車場になっていて七台ほどが停められる。8時半に到着したが平日とあって誰もいない。駐車場には綺麗なトイレがあり、登山靴の泥を洗える屋外水栓や、登山届のポストも設置されていて好意的ムードが伺える。

 朝は晴れているが、台風21号の接近に伴い関東でも午後から雨との予報である。降り出す前には下りてくる予定で8時50分に登山を開始した。
 まずは三段の滝を目指し、勧能浄水場の脇を抜けて居合沢の遊歩道を遡上する。丸太を組んだ桟橋は一部で腐朽しており、滑りやすいので要注意だ。沢には小さな滝がいくつもあり目を楽しませてくれるが、ひどく鬱蒼とした暗い森が心理的圧迫感を加えてくる。無論この圧迫感は自分自身が創り出しているものに過ぎず、それは自身の抱えるストレスに起因するものだが、こうした自身との対話を楽しめるのも孤独な単独登山ならではのもので、特にこうした訪れる人も少ない寂峰は打ってつけの環境といえる。
 鉄梯子を登ると三段の滝である。駐車場からの距離は1,050メートル、時間にして30分の行程だ。見上げる一番上の滝は落差と水量があり迫力がある。

 遊歩道が整備されているのはここまでで、ここから先は一気に勾配を増し、登山道の様相に豹変する。寂峰故か踏み痕不詳箇所も少なくない。何しろ最も落差のある最上段の滝に沿って急勾配を登らねばならないのだが、油断していると誤った踏み跡に誘導されやすく道を見失いやすい。あまり滝から離れないところで踏み跡を探すのがコツだ。
 滝の上に出ると更に分かりにくく、結局渡渉を四回繰り返した。道が分からなくなったら対岸をチェックするのが第二のコツだ。
 二子岩への分岐を過ぎると道は更に勾配を増し、滑りやすい粘土質の斜面をほとんど直登に近い恰好で登ることになる。私はこのところストックを携行しないのだが、滑落を予防するには転ばぬ先の杖として、あったほうがいいだろう。
 やがて稜線に出ると、碧岩への分岐標識が現れる。

 碧岩は、登れるのはロッククライマーのみかと思うほどの鋭い岩峰だが、そうした区間は意外に少なく、ちょっとした岩登りの心得さえあれば、登攀用具がなくてもどうにか登って降りてこられる。私も念のため用具を携行したが結局は使わず仕舞いだった。
 10メートルほどの岩壁にロープが数本垂れ下がっているが、取り付いてみると意外に難しい。まっすぐ上に登るのなら簡単だが、岩の建て付け角度に対して進行方向が左に傾いているため、左に重心が偏りやすく、重心の移動と保持が意外と難しいのである。ホールドはあるが、重心のバランスを崩さずに登りきるには、ある程度の技術と経験が必要で、まったくの初心者が登るには危険なレベルと言えるだろう。
 取り付けられているロープも、一部で括(くく)り付けられた木が根元ごと地面から抜けていたり、今にも抜けそうなほど頼りない箇所もある。ロープはあくまでも補助程度に考えて過信しない方がいいだろう。

 碧岩の山頂からは荒船山の山頂である経塚(きょうづか)山や、立(たつ)岩、鹿(かな)岳などの奇山群が一望でき、こうした景観は西上州ならではのもので味わい深い。一渡り楽しんだら碧岩を降下して大岩に向かう。
 大岩にはロープに頼るような絶壁はないが、痩せた岩稜を這い登らねばならず、高度感はさほどないが、落ちれば命に関わることに変わりはないので過信は禁物だ。大岩山頂稜線から振り返れば、先ほど登った碧岩が意外に急峻なことに驚かされる。

 山頂での食事はゼリーとビスケットである。すべて期限切れだ。
 大きな登山では、むすびやカップ麺を持参するため、非常食のゼリーやビスケットには一切手をつけない。そのため期限切れになるわけだが、捨てるのも勿体無いので陽の短くなる秋の登山には、こうしたお手軽ハイキングを設定し、いわば残飯処理に当たるわけである。
 味気ない食事が済んだらさっさと下山する。下山路は登ったルートをそのまま引き返すだけなのだが、それにも拘らず道を見失いやすい箇所が数箇所あるのはどうした訳だろう。途中で間違った尾根に誘導されてしまった。
 土がふんわりと軟らかくなったら、それは既にコースを外れているサインである。分かる場所まで引き返し、コースの痕跡を慎重に探らねばならない。
 鬱蒼とした暗い森を抜けると、いつの間にか空はどんより曇っていた。12時50分に駐車場に着いたら雨がポツポツと降ってきた。駐車場に他のクルマは一台もなく、山中でも全く誰にも会わなかった。

●登山データ
2012年10月17日(水曜日)
三段の滝駐車場(標高536M)→大岩(標高1,133M)、標高差597M

三段の滝駐車場(8時50分出発)→三段の滝(9時15分)→碧岩分岐(10時15分)→碧岩(10時30分/休憩10分)→碧岩分岐(10時55分)→大岩(11時15分)、登り所要時間:2時間25分
山頂滞在時間:20分
大岩(11時35分)→三段の滝(12時35分)→三段の滝駐車場(12時50分)、下り所要時間:1時間15分
全行程:4時間00分

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