Practice Makes Perfect/日光白根山
五色山から五色沼越しに臨む奥白根山(標高2,578M)

金精トンネル日光側の駐車場から出発
金精峠は意外にも険しい道だ
金精峠に佇む社
金精山までは更に険しくなる
金精山(標高2,244M)から男体山と湯の湖を臨む
日光湯元温泉に通ずる国境平
五色山山頂(標高2,379M) 前白根目指して尾根道を往く
前白根山頂(標高2,373M)は広い 奥白根と五色沼
避難小屋 奥白根への最後の登り
奥白根山頂の溶岩ドーム
噴火口跡か
山頂の標識だ
山頂に到着

丸沼スキー場からゴンドラでお手軽ハイカーが次々に登ってくる
溶岩帯を弥陀ヶ池へ急降下する。
遠くに菅沼が見える。
弥陀ヶ池
再び五色山に登って外輪山一周完了

日光白根山(金精トンネル登山口から)

2012年9月14日(金曜日)

 前回の登山から1ヶ月半のブランクを作ってしまい、体はすっかり鈍ってしまっている。
 酷暑も幾分か和らぎ、これから秋に向けて天候の安定期に入り、日照時間の詰まるぎりぎりのこの頃が最も登山に適した時期である。本来ならば12時間級の登山計画を組みたいところだが、仕事の都合ですっかり心身とも疲弊してしまっている現状では、とてもそんな行程は組めないどころか、果たしてどれだけ体力と精神力が落ちているのか再検証しなければならなかった。
 家から2時間圏内で、登山行程7時間というスペックから選んだのが日光白根山(標高2,578M)である。

 群馬県には白根山が二つあり、便宜上ひとつを草津白根山、もう一方を日光白根山と称している。日光白根山は、栃木県日光市と群馬県片品村の県境に跨り、丸沼高原スキー場のゲレンデトップから間近に見えることから、スキーヤーである私にとっては馴染深い山である。スキー場のゴンドラが通年運行していることから、お手軽ハイカー御用達の山にもなっている。
 今回はゴンドラは使わず、菅沼登山口から登る計画を立てた。

 冬季は通行止めの丸沼スキー場から奥を目指す。封鎖ゲートより奥に入って行くのは実に20年ぶりである。道はゲレンデに沿って登って行き、やがて菅沼が現れる。登山口はほど近いはずだが、右手にあるドライブインの駐車場にはロープが張られていた。このことは少なからずショックだった。出鼻をくじかれた気分だった。
 登山口はこのドライブインのすぐ脇を入ったところなのだが(帰りに確認した)、この時は事前知識がなく、そのことを知らなかった。まだこの先なのかなと迂闊にもここを通り過ぎてしまい、そのまま金精トンネルまで行ってしまった。
 かつては有料だったトンネルも今では償却されている。路肩にクルマを寄せて地図を見直すと、トンネルを抜けた栃木側にも登山口がある。ざっとコースタイムを計算して、敢えて菅沼に戻らずここから登ることにした。この程度の山ならどこから登ってもたいした違いはないだろうとの驕りが働いた。

 この日は朝6時に家を出たので、登山を開始できたのは8時半だった。もともと菅沼を8時の予定だったので、既に30分のビハインドを負っている。金精トンネルの方がコースタイムも幾分長いが、まあこの程度の山なら問題ないだろう。駐車場には登山届けのポストが設置されていたので、備え付けの用紙に記入して提出した。
 登山道を登って行くとトンネルの上は金精峠である。古来峠といえば、旅人が往来し、物資運搬の馬匹も通ったというイメージだが、金精峠はとてもそういったニーズに適わない様相を呈している。ひどく急峻だった。
 残暑厳しいこの日の気温も既にずいぶん上がっている。登山開始早々から貧血気味になり、顔から血の気が退いてきた。
 この症状はかつて一度経験していた。数年前、苗場山に登ろうとした時、開始前に雨が強く降ってきたため、急遽武尊山に変更した時である。三国峠の反対側の武尊山は晴れていたが、気温が高く、登山開始早々貧血に襲われ登山を断念したのだ。
 このときの考察では多分に精神的な問題であり、つまり予定していなかった何のイメージも持ち合わせていない登山にモチベーションを見出せず、つまりやる気のない登山が、山に撥ね返されたものと結論付けた。山は心技体の充実が不可欠であり、いずれか欠ければ登れないのだと、この時知ったのである。
 今回もそれに似ていた。予定を急遽変更し、何のイメージもできていなかったこのコースに気持ちが着いて行かなかった。それが著しいやる気のなさとなって、貧血状態という拒絶反応となって現れたのだろう。
 こんなことに何の価値も見出せなかった。もうやめようと思った。集中力を欠いた状態で続ければ遭難する惧れがある。

 やめるのは容易い。容易いが、同時にダメ人間になることもまた容易に想像できた。
 ジレンマの中、妥協案として、せめて五色山まで登ろうと思った。五色山まで登れば奥白根山が見える。せめて見てから降りようと、歯を食いしばって登り続けた。
 やっとのことで金精峠まで上がった。非常に辛かったが、登山開始から僅か25分しか経っていなかった。金精山は山頂付近に亀裂が生じているとの注意喚起の看板が自治体・警察・森林管理所連名で立てられていた。道は急峻で過酷だった。
 やがて樹林帯を抜けると五色山山頂だった。視界は一気に開けていた。
 この程度の山と莫迦にしていたが、五色山から見る五色沼と奥白根山は、久々に感慨深さがこみ上げてくるものがあった。心身を侵していた毒が抜けるようだった。ここまで来て良かったと思った。リュックを降ろして10分間の休憩を容れた。

 日光白根山の山頂は、現地の表示では奥白根山となっている。
 五色沼を噴火口に見立てると、五色山から尾根伝いに前白根、奥白根と外輪山の様相を呈しており、そこをぐるりと一周歩けるようになっている。小規模ながら富士山頂を彷彿させた。
 五色沼の対角に位置する奥白根山の高さと外輪山のアップダウンや距離を目測しても、これまでの経験に鑑みて、別にたいしたことないように見えた。調子が悪いと言っている割に、ここまでのタイムはまずまずだった。ここまで来たらやるしかないとの気力が、ようやく充溢(じゅういつ)してきた。山頂目指して登山を続行した。

 山頂部は溶岩ドームである。あちこちに岩の突出部があり、あちこちに登山道が分かれ、祠やら山頂標識らしきものがあちこちに立っている。一体どこが真正の山頂なのかよくわからない。噴火口跡のような広場もあり、山頂部はさながら火山庭園の様相を呈していた。しかも既に大勢の人でごった返していた。ここまでほとんど人に会わなかったことから、彼らは皆、反対側から登ってきたゴンドラ組と思われた。
 ようやく山頂札のある岩峰に辿りついた。この頃には山頂部は俄かに雲の中に入り、下から吹き上げてくる風が冷たかった。山頂から少し離れた岩陰で昼食をとり、寒いので20分で下山に移った。
 外輪山一周のため、弥陀ヶ池目指して降りた。溶岩帯のガラガラの足場の悪い急斜面だった。弥陀ヶ池から五色山に登ると周回完了である。金精峠目指して樹林帯に入り、急峻な道を降下した。

●登山データ
2012年9月14日(金曜日)
金精トンネル駐車場(標高1,843M)→日光白根山(標高2,578M)、標高差735M

金精トンネル駐車場(8時30分出発)→金精峠(8時55分)→金精山(9時35分)→国境平(9時55分)→五色山(10時20分/休憩10分)→前白根(10時50分)→避難小屋(11時15分)→奥白根山(12時10分)、登り所要時間:3時間40分
山頂滞在時間:20分
奥白根山(12時30分)→弥陀ヶ池(12時55分)→五色山(13時45分)→金精山(14時15分)→金精峠(14時40分)→金精トンネル駐車場(14時55分)、下り所要時間:2時間25分
全行程:6時間25分

登山目次
Home
Copyright © 1996- Chishima Osamu. All Rights Reserved.