Practice Makes Perfect/二子山(西岳上級者コース・ローソク岩)
二子山・西岳U峰(標高1,166M)

股峠北側の駐車場
北側の登山口
登山口に設置されている数取器を押す
僅か3分ほどで股峠へ到着
赤線が西岳上級者コース、青が一般コース
今回は上級者コースへ
かつては鎖が懸かっていたらしいが、度重なる苦情によりすべて撤去された旨が、設置者の苦悩交じりに書かれている というわけで上級者コースに鎖はない
登攀用具なしでも登れるが、両神山や妙義山なら鎖の付いているレベルであり、やはり一般的とは言えない 高度感も結構ある
西岳T峰からU峰を臨む 眼下に臨むローソク岩
西岳(U峰)山頂
西岳V峰へ続く稜線ルート
高度感のあるヤセ尾根。落ちれば死ぬ こちらから見るローソク岩は、大小ふたつの岩が寄り添っている
岩稜も終端、叶山が間近になれば降下地点も近い
降下地点。岩の×印が目印
本日唯一の鎖場 岩稜の根元に出る
ローソク岩の入り口 ローソク岩
登攀点を探して一回りしてみる 右の隙間から登れそうだ
ローソク岩頂上
頂上にはゴツイ金具が打ってあった

ローソク岩頂上からU峰の岩壁を見上げる
ローソク岩基部からU峰と右にT峰を見上げる

信じ難いことだが、クライマーはこんな垂直壁を登るらしい
祠エリア。少し挑戦するも、まるで太刀打ちできない
とりあえず今日は持ち帰りだ

二子山(西岳上級者コース・ローソク岩)

2011年11月18日(金曜日)

 国道299号線から民宿登人の先の林道に入り、少し行ったところに、四年前に登った二子山の登山口がある。西岳と東岳からなる二子山の鞍部の股峠へと通ずる南面の登山道である。
 今回はここを素通りし、クルマを林道の奥へと走らせる。徐々に高度を上げながら幾つものカーブを抜けると、意外なほど立派な二子山トンネルに迎えられた。ここをくぐり抜けると二子山の反対側の北面である。
 二子山の岩稜は、南面からだと首が痛くなるほど見上げなければならないが、北面からだと莫迦(ばか)にされたようにすぐ目の前に見える。林道はいつの間にか稜線の北面直下を通っていたのである。
 北面の登山口には七台分ほどの駐車スペースがあり、登山口には登山届代わりに数取器が置かれている。ハイカーはこれをカウントして入山する。
 南口からだと40分ほどかかる股峠までの道程が、北口では僅か3分である。登山というにも及ばない。

 二子山は東岳・西岳ともに猛烈な垂直断崖であり、その壁にはロッククライマー達が施したハーケンやボルトによって、実に160本もの登攀ルートが開設されている。
 山には地権者がおり、山は誰もが自由に登っていい『国民みんなの財産』というわけではない。岩壁も無論地権者の財産であり、そこにハーケンやボルトを打ち込む行為や、伐採行為、岩壁の基部まで行くための新たな登山道の開設等が、果たしてどのような手続きを経て行われているのか興味深いところである。

 少し余談になるが。
 ロッククライミングには、アルパインクライミングとフリークライミングの2種類がある。
 アルパインクライマーは、山の頂上を目指す過程で、より困難なルートとして岩壁登攀を選択しており、基本的には登山者である。
 通過が極めて困難な巨大オーバーハングなどは、ボルトを打ち込み、アブミを掛けて、それを足掛かりにして登り、氷壁登攀では、ピッケルやアイゼンが使用される。
 対して、フリークライマーは、登る手段はあくまでも自身の肉体のみであり、使用する用具は墜落防止の安全策(プロテクション)に限られる。室内の人工壁競技から発展したスポーツ性の高いクライミングで、ロープやボルトをつかんだだけで減点されるというような、厳密なルールに則った競技であり、山頂に行くこと自体は目的ではない。

 フリークライミングの世界では、多分にゲーム性が高いからなのか、対象となる岩壁に対し、クラスやグレイドというランク付けをかなり緻密に行っている。
 要約すると、
 クラス1=歩いて登れる程度
 クラス2=手を添えながら登れる程度
 クラス3=3点支持を要する
 クラス4=ロープを要するが、安全確保のための器具(プロテクション)は不要
 クラス5=プロテクションや、ビレイヤー(確保者)が必要
 クラス6=アブミやアイゼンなど登攀を助ける用具が必要(人工登攀=エイドクライミング)
 となり、フリークライミングはクラス5に入る。
 クラス5は、更に細分化されたデシマル・グレイドというものを設定している。つまり、同じクラス5であっても、その難易度の違いに応じて、5.0〜5.9まで10段階にランク付けしている。
 ところが技術や用具(クライミングシューズ)の発達により、従来エイドクライミングによってしか登れなかったクラス6の岩壁にも、フリークライマーが登れるようになってしまった。
 フリーで登れる岩壁は、どんなに難しくともクラス5であり、従来の上限は10進法に則って5.9だった。6.0以上は人工登攀のクラス6になってしまう。
 そうしたことから、クラス6の岩壁にクラス5が内在する形になってしまい、辻褄合わせが必要になった。
 10進法を突き破った、5.10(ファイブ・テン)以上というグレイドの登場である。
 5.10以上のグレイドは更に細分化され、5.10a〜5.10dのように、4段階に区分けされた。
 5.13a以上が上級グレイドとなり、最上級グレイドは現在5.15bまで開設されているという。
 そしてこのことが、アルパインクライマーとフリークライマーとの間に確執を生んでゆくことになる。
 従来、アルパインクライマーの領域だったクラス6の岩壁にフリークライマーが入り込み、アルパインクライマーが開設したエイドクライミング用のボルトを撤去して、新たにクラス5のルートを開設してしまうという問題が起こった。ルート開設者にはルート名を付けるという名誉があり、ボルトの撤去はルートの破壊を意味している。こうしたルートの所有権を巡り、地権者そっちのけのトラブルに発展しているのである。

 余談が過ぎた。
 つまり二子山は、一面ではそういう山だということである。一般登山者からは見えない次元で、熾烈な世界が展開しているのである。
 160本あるルートのうち、150本以上が5.10a以上であり、最上級は5.14dだという。無論一般ハイカーには登攀不可能であり、そのような道を見つけることすら困難である。股峠から西岳へ登るには、一般コースと上級者コースの、ふたつのコース以外目には映らない。

 前回は自らの実力を鑑み、迷わず一般コースを登ったが、それから四年の経験を積み、今回は上級者コースを登ることにした。
 上級者コースにはかつては鎖が付いていたらしいが、この日現在すべて外されている。コースの入り口には以下のような注意書きが貼られていたので要約すると、
『登山者の安全を思い、私財と個人の労力をもって鎖を付けてきたが、多くの登山者から鎖は不要だとか、もし鎖が外れたら責任を取ってくれるのか等の不評を購い、やむなくすべての鎖を取り外した』
 という意味のことが書かれている。
 この鎖を付けた人、また外せと言った人が、地権者または地権者から許可を得た人なのかどうかは一切不明だ。

 そういうわけで、上級者コースに鎖は一切ない。
 岩壁登攀に多少の心得があれば難しくはないが、垂直に近い壁を3メートルほど登るような箇所もあり、妙義山や両神山なら鎖が付いているレベルでもあることから、やはり一般向けとは言えそうもない。但し距離は短い。程なく西岳T峰の山頂に立ててしまう。

 2007年版の地図には、二子山は『東岳』と『西岳』のふたつしか記載されていない。つまり『二子山』という名前のとおり、ピークはふたつであり、麓から見てもそう見える。
 しかし実際に登ってみると、西岳山頂の更に西側に、もうひとつのピークを認識せざるを得ない。初めて登った人は『三つ子山』かと困惑するだろう。
 ロッククライマーの間では、この謎のピークをV峰と称し、最高標高地点のあるピークはU峰として、この疑問を解消している。更には上級者コースから辿り着く最初のピークはT峰となっていて、西岳は計三つのピークの構成という認識になっているようだ。

 T峰からU峰を経て、V峰まで稜線を縦走する。改めて冷静に見てみると、なかなか侮れない岩稜である。特にU峰からV峰に掛けては、尾根幅も狭く、高度感も充分ある。初めて登ったときはずいぶん危険な山だと思ったものだが、二度目とあってか、恐怖や不安は感じなかった。
 稜線の西端まで行くと、眼前に山頂を削られた叶山が痛々しい。太平洋セメントによる石灰岩の採掘現場であり、武甲山とともに消滅を約束された山である。
 二子山も同じ石灰岩の山である。いつまでこの姿を保っていられるだろうか。

 二子山にはもうひとつの見所『ローソク岩』がある。それを見に行った。
 U峰の根元に、それは突き立っている。
 ほぼ垂直の岩壁を見上げると、ルートを示すハンガーボルトがいくつか打ち込まれている。これはとても私には登れないが、せっかくここまで来たからには、何とか他に登れそうな箇所はないかと、未練たらしく岩の根元を一巡してみた。
 岩の背後に周ってみると、何の凹凸もない垂直壁に、重力を無視したかのようなルートが刻まれている。クライミングシューズのフリクション(摩擦力=岩に張り付くように滑らない)がどのようなものなのか分からないが、岩肌には一切何の凹凸もないように見える。これを登れるのはヤモリの類だけとしか思えない。今現在の私の常識からは、まったく異次元の技としか思えなかった。
 更に反対側に回って見ると、ローソク岩は大小ふたつの岩からなっていて、その接する隙間から何とか登れそうだった。
 リュックを下ろし、ロープを持って登ってみた。狭い岩の隙間に体を擦りながら、どうにか頂上まで登ることができた。少しうれしかった。
 見上げると巨大なU峰が頭上に覆いかぶさって来る。信じ難いことだが、これを登るクライマーもいるのである。現に右手のT峰には、4人のクライマーが取り付いていた。先生と呼ばれるオジサンと、3人のオバチャンのパーティーだった。
 ローソク岩の上に佇み、しばらくそれを眺めていると、何か切ない気持ちになった。

 ローソク岩を降り、西岳の根元を歩いてゆく。この道はやがて股峠に戻れるのだが、その手前に祠が奉られている岩場があった。
 ここにもいくつものルートが開設されている。その中から出来るだけ簡単そうなルートを探した。
 それはなかった。どれもこれも、そういったレベルではなかった。
 しかしその中から、敢えてひとつを選び、試しに登ってみた。
 到底太刀打ちできなかった。
 何かが込み上げてくるのを感じたが、どうにもならない現実だった。

●登山データ
2011年11月18日(金曜日)
登山口駐車場(標高923M)→二子山・西岳(標高1,166M)、標高差243M

登山口駐車場(8時50分出発)→股峠(8時53分)→西岳上級者コース→U峰山頂(9時35分)、登り所要時間:45分
山頂滞在時間:15分
U峰(9時50分)→V峰(10時10分/休憩10分)→ローソク岩基部(11時00分)→ローソク岩頂上(11時15分/休憩25分)→祠の岩場(岩壁登攀練習)→股峠→駐車場(12時30分)
全行程:3時間40分

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