Practice Makes Perfect/荒船山
内山峠駐車場
コースは概ね緩く、下りもある
一杯水
一杯水から10分ほどで広くなだらかな山頂部に到着
ツリフネソウ
艫(とも)岩展望台
200メートルの断崖を覗き込む 覗くとこんな感じ
空母の甲板にも例えられる真平らな山頂部には、意外にも小川が流れている 南北2,000M×東西400Mの山頂部は、想像していた岩畳ではなく、さながら空中庭園の様相だった
『皇朝最古修武之地』の石碑
かつてここは神々の激闘の地となるところだったと書かれている
荒船山(経塚山)山頂(標高1,423M)

艫岩の断崖
内山峠付近から見た荒船山・艫岩
ノアの箱舟にも思えてくる

荒船山

2011年8月12日(金曜日)

 2011年の夏も、連日の猛暑と激しい雷雨に見舞われている。
 熱中症は山岳遭難の要因でもある。長時間の過酷な登山は避けるべきだろうし、14時頃には始まる滝のような豪雨も山中では遭いたくない。畢竟(ひっきょう)、朝の涼しいうちに登り、雷雨が始まる14時までには降りてくるという消極策の下、選ばれたのは荒船山(標高1,423M)だった。

 群馬県下仁田町と長野県佐久市の県境にある荒船山は、遠くからでもその異様な形状から人目を惹く山である。その非常に横長で真っ平らな形状は、さながらタンカーか航空母艦の趣があり、その『甲板』上がどうなっているのか、一度は登って確かめたい衝動にも駆り立てられる。
 国道254号線・内山峠付近から見える北壁・艫(とも)岩は特に圧巻で、2009年には著名な漫画家が転落死したことから話題になった。

 家を6時頃出発。お盆休みの帰省ラッシュが始まりかけている詰まり気味の上信越道を下仁田インターで脱し、国道254号線で内山峠に向かう。
 天気はほとんど快晴だったが、何故か荒船山にだけ雲が懸かっていた。艫岩も見えない。
 少し残念だったが、このところの猛暑の中、お蔭で涼しい登山が出来るだろうと気持ちを持ち直した。
 今日は軽めの調整登山なので、身支度も至ってシンプルだ。故障している左膝をかばうサポーターは蒸れるので割愛。普段履いているCW-Xも暑いのでなし。ローカットシューズに、くるぶし靴下、短パンという山を舐めきったクールビズスタイルだ。

 駐車場に7時少し過ぎに到着。そこからの登山道は一見えらく見当違いな方向に迂回していて、おまけに下りが多く、雲で山も見えないため、本当にこの道で合っているのか次第に不安になってくる。やがて『荒船山頂まで2.7km』の看板に遭って眉を開くが、道はあの猛烈断崖を登るイメージとは程遠く、こんな調子で果たして地図上参考タイムの1時間30分であの断崖の上に立てるのか、その不安までは払拭しきれない。この緩やかさは『一杯水』まで続く。
『一杯水』は岩肌を流れ落ちる水で、ここからようやく断崖の登山道となる。といっても、妙義山のような鎖場はなく、岩肌には階段状にステップが切ってあるので特に難しくはない。
 と、それも束の間、崖区間は10分程で終わり、山頂部に着いてしまった。一面の熊笹に覆われた真っ平らな山頂台地には、『みんなで楽しむハイキングコース』という看板が立っていた。
『……』
 一抹の虚しさを覚える。
 その名の通り、ここだけ見ると、そのあたりの公園の遊歩道とさして変わらない。しばらく歩くと休憩小屋があり、すぐその先に少し開けているのが艫岩の展望台だった。

 艫(とも)とは船尾のことである。
 南北2,000メートル、東西400メートルの巨大甲板を持つ航空母艦の船尾に当たるのが、この艫岩だ。
『みんなで楽しむハイキングコース』でありながら、転落死まで出したこの断崖が、柵はおろか注意書きすらないのは意外にも感じる。
『みんなで楽しむ』とは、どの程度の人までを想定しているのか不明だが、まあ、山とは本来こうしたものであるという、変に譲れない厳しさも垣間見えて興味深い。
 先程まで山を覆っていた雲もすっかり霽(は)れ、眼下に高速道路が蛇のうねりを為しているのが俯瞰できる。覗き込むと、樹木のため岩肌が見えず、二百メートル断崖の吸引感は特にない。下には一面の樹海が広がっている。

 一見真っ平らな山頂の荒船山だが、空母の艦橋のように一部突出した最高地点がある。それが経塚(きょうづか)山であり、富岡や佐久から眺めると、舳(みよし=船首)のあたりに鮫の背びれのように出っ張っているのがそれである。
 山頂台地は、最初想像していた木陰などまったくない一面の岩畳とはまったく違っており、岩の上には土が堆積し、森林が形成され、小川まで流れていた。さながら空中庭園の様相であり、下界から隔絶されたかのようなこの楽園は、もしかするとノアの箱舟なのではないかとまで思えてくる。
 この空中庭園の中原に『皇朝最古修武之地』という石碑が建っている。道から少し外れているため、股下まである草を掻き分けながら近づかねばならない。解説文を意訳すると、
 神々の時代、天照大神(アマテラス)によって獣肉を食すことを禁じられた諏訪の建御名方神(タケミナカタ)は、海の幸を求めて関東への侵攻準備を始めた。これを知った関東の経津主神(フツヌシ)と建御雷之男神(タケミカヅチ)は、協力して信州境のこの地に迎撃陣を構えた。軍神同士の激突とあっては計り知れない損害がでる。これを憂慮したアマテラスは、孫のニニギを派遣し、この地で両者を和睦させた。とある。
 なるほど。それは凄い。やはりタダの航空母艦ではなかったのである。天空に近いこの台地は、神々の戦場にこそふさわしい。

 経塚山の山頂は、陽もあまり差し込まず、地面も湿っていた。昼食を摂るような時刻でもないので、10分の休憩で下山に移った。
 まだ、だいぶ時間が早いので、隣の兜岩山まで行こうかとも一瞬考えたが、無理に熱中症や雷雨の憂き目を見ることもない。体力の余剰に物足りなさもないではないが、無事に下山してこその登山である。予定通り、元来た道を引き返した。

●登山データ
2011年8月12日(金曜日)
内山峠駐車場(標高1,064M)→荒船山(経塚山/標高1,423M)、標高差359M

内山峠駐車場(7時25分出発)→艫岩展望台(8時35分/休憩10分)→経塚山山頂(9時15分)、登り所要時間:1時間50分
山頂滞在時間:10分
経塚山山頂(9時25分)→艫岩展望台(9時55分)→内山峠駐車場(10時55分到着)、下り所要時間:1時間30分
全行程:3時間30分

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