Practice Makes Perfect/乾徳山
乾徳山(標高2,031M)と富士山

林道を50Mほど入った駐車場
林道を12分ほど歩くと登山口に到着
国師ヶ原まで登ると乾徳山が姿を現す
山頂付近は岩登りの連続となる

最大の難関・天狗岩。これを登れば山頂だ
乾徳山山頂
山頂から見た富士山

乾徳山(けんとくさん)

2009年8月28日(金曜日)

 暗く苔むした原生林には、鹿や栗鼠(リス)などの野生動物が駆け回り、明るく開けた高原には様々な高山植物が咲き乱れる。ピラミッドを登るかのような岩場の急登から、鎖にすがっての危険な岩登りまで、登山道は緩急変化に富んでいる。
 山頂は森林限界から頭ひとつ突出したかのような観があり、全方向に広がる山並みの中、一際目を惹く富士山が登頂の褒美のように迎えてくれる。
 標高2,031メートルの中規模山とは思えない、登山要素のあらかたをコンパクトに凝縮した登山の雛形のような山、それが乾徳山の概要である。

 国道140号線から乾徳山入口の大きな看板に従ってクルマを走らせると、まもなく徳和の集落にたどり着く。
 そのまま進むと集落の行き詰まりのT字路になるが、その少し手前に、登山者用に舗装整備された無料の駐車場が用意されている。この日は平日のためか、誰もこの駐車場を利用していない。ここを通り越して、この先のT字路を左折して林道へ進入してみる。
 T字路のところに釣りセンターがあり、その奥50メートルほど入ったところに未舗装の駐車場がある。ここにも誰もいない。
 下の舗装駐車場からでも大差ないが、今回はここからのスタートとする。

 ここから登山口まで林道を12分ほど歩く。
 ここには登山届を提出する受付箱がない。クルマを置いたところにもなかったが、下の舗装駐車場にでもあったのだろうか。今となっては是非もなく、今回は未届けの登山となった。

 最初は暗く鬱蒼とした森の中を、きつくもない勾配が続く。
 途中で林道を三度横切るが、既に潅木が生え、元の森林に戻りかけており、林道の機能はしていない。
 途中、登山口から30分ほどで銀晶水、更にそこから40分ほど登ると錦晶水という水場があり喉を潤せる。
 塩ビパイプから水がちょろちょろと出ているが、これは地中から湧き出たものではなく、沢になって流れている水にパイプを添えて取り出したに過ぎない。
 山には鹿などの野生動物もおり、大腸菌ゼロの聖水とも思えないが、話の種に錦晶水を一口飲んでみた。

 錦晶水を過ぎると俄かに勾配が緩み、森林を脱した明るい高原になる。この辺りが国師ヶ原で、正面に乾徳山がピラミッドのような急勾配を見せている。ここまでの楽なハイキングのままでは終わらない様相を感じさせる。

 国師ヶ原の十字路をまっすぐ進むと登山道は再び勾配を取り戻す。背丈ほどに生い茂ったススキの丘陵を登ると、扇平の稜線に出る。登って来た道を振り返ると、富士山が一望できる。
 扇平から再び森林に突入すると、足許は埋もれたピラミッドの石を登るような様相に変わり、これまでにない急登になってくる。
 やがて森林を抜けると巨大な岩壁が姿を現し、鎖にすがって登る腕力勝負になる。無論、途中で手を離せば転落しての大怪我は免れない。

 もう岩しかない。山頂はこの上以外にありえない。これを登るのかという最終関門『天狗岩』だ。高さは約20メートル、傾斜およそ60度、下7メートルほどは鉈(なた)で断ち割ったような真っ平らな岩盤だ。
 滑らかな岩肌には、多くの登山靴の摩擦でできたブラックマークが擦り込まれている。
 鎖にすがって登れば問題ない。前半の平滑岩盤さえクリアすれば、上半分は鎖なしでも息をつけるので、落ち着いて登ればそこが頂上である。

 森林限界を超えた三千メートル級高山を彷彿させる露岩の山頂が意外だ。全周囲に展望が開けている。
 中でもすぐ目を惹くのは富士山だが、金峰山や国師ヶ岳、大菩薩嶺といったところが眉に近い。
 山頂はあまり広くなく、足場のよくない尖った岩ばかりなので、行動は慎重を期したい。足を踏み外して転げ落ちれば命の保障がないのも雛形登山の範疇である。

 まったくの余談だが、この日私は朝食を摂っていない。今回のささやかなテーマとして、朝食抜きの登山を試してみた。
 最初の2時間は平気だったが、それを過ぎると空腹を覚えてきた。構わず登り続けるとその10分後には失速し、登山開始から2時間40分で山頂に着いたが、最後はヘロヘロだった。
 まあ、そういうことが分かったというだけである。下山のために少し食事を摂った。

 40分の山頂滞在の後、下山に移る。登って来た道ではなく、巻き道を下ってみた。
 地図では下山道などと書かれているが、石板のような岩が急峻な山肌に沿って滑り台の様に並べられた格好で、足許がいい状態とは言い難い。岩なので踏み痕が分かりにくく、木に付けられたリボンのみが頼りである。雨で岩が濡れていたらかなり滑るだろう。
 そんな急勾配をしばらく降りると、今度は等高線に沿った巻き道となり、国師ヶ原の十字路まで暗く鬱蒼とした原生林がしばらく続いた。

 視界の隅でガサッと大きな生物が動いた。一瞬ギクリとしたが、登山道の下にいる一頭の鹿だった。
 この夏は天候不順が続き、秩父の大滝でも、早くも熊の目撃情報が報告されている。
 カメラを向けると鹿は瞬時に身を翻し、斜面の下へと逃げ去った。
 その直後である。今度は登山道の上、つまり私の背後でガサッと音がした。しまった、さっきのヤツは囮だった。単純な陽動作戦に攻撃に有利な頭上をあっさり取られてしまった。
 反射的に振り向くと2頭の鹿がこちらを凝視していた。私に一瞥をくれ、すぐに行ってしまった。熊でなくて幸いだった。

 徳和の集落から下った国道140号線近くに、市営温泉施設「笛吹きの湯」がある。湧出量が豊富で、浴槽からお湯がガボガボ溢れている。ぬるい露天風呂が今回の雛形登山の締めくくりに気持ちよかった。

●登山データ
2009年8月28日(金曜日)
駐車場(標高908M)→乾徳山山頂(標高2,031M)、標高差1,123M

駐車場(6時40分出発)→登山口(6時52分)→国師ヶ原(8時00分)→扇平(8時30分)→乾徳山山頂(9:20分到着)、登り所要時間:2時間40分
山頂滞在時間:40分
乾徳山山頂(10時00分下山開始)→巻き道経由→国師ヶ原(10時50分)→登山口(11時42分)→駐車場(11時50分到着)、下り所要時間:1時間50分
全行程:5時間10分

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