Practice Makes Perfect/南天山
南天山 中津川林道・鎌倉橋を渡った所の駐車スペースと登山口

沢登りコースで最初に現れる滝
コース中最大規模の方円滝
南天山山頂(標高1,483M)

南天山

2009年8月12日(水曜日)

 バイアスタイヤがパンクしそうなくらい尖った石の路面が延々と続く。
 道の真ん中には雨の流れが作った深さ20センチほどの溝が穿っていて、線路を走る列車のように溝を跨いだままクルマを走らせる。
 対向車に出会った場合の対処だろうか、ところどころの溝にはタイヤを通す幅くらいに石が詰めてあるが、誤って溝にタイヤを落とせば自力での脱出は困難だろう。
 埼玉県大滝村(現秩父市)から長野県川上村へ通ずる長距離ダートコース、それが中津川林道である。
 平成10年に国道140号線雁坂トンネルが開通して以来、この道を走る人はずいぶん減ったと思われるが、かつて運転免許取り立ての頃、ポンコツ車を駆ってこの林道を越境し、野辺山や清里にドライブに行った思い出が数回ある。その頃の林道の様子というのは、概ね前述のようなものだった。以降、久しぶりにこの林道を訪れた。

 かつて営林署のゲートのあった場所は、森林科学館とか、こまどり荘とか、渓流釣り場とかの立派な施設に様変わりしており、ゲートの先の営林署宿舎跡だけが、当時の面影を残すくらいだった。この先から路面はダートに変わり、素掘りの隋道に忘れていた記憶も蘇る。
 と言っても、そんな思いも束の間、たいして走ることなく、やがて鎌倉橋に到着する。ここが今回の登山口となる。
 ここまでは前述のような酷い道ではない。ごく普通の林道である。川沿いの路肩が少し広くなっているので、ここにクルマを停める。

 この林道のすぐ横を中津川が流れており、2年前(2007年)の台風9号では、この手前の出合付近で道幅の半分が川に抉られ崩落した。今年も台風9号が過ぎたばかりだが、秩父地方での影響は少なく、川の水量もさほどではないが、駐車場から足許近くを流れる川を覗いてみると、増水時の駐車は躊躇われるだろう。

 登山口で届を出し、8時20分に登山開始。案内板には、
『体験の森歩道、南天山まで3.2km』
 とある。手持ちの地図には山頂への登山路は一本しか載っていないが、ここの案内板では尾根コースと沢コースの2本が描かれている。尾根コースは地図表記のあるコース、沢コースは未知のコースである。ここは確実な尾根コースを登り、下りは沢コースを検証することにする。念のため案内板をデジカメに収める。

 南天山(なんてんざん)。
 山全体丸ごと秩父市内にあるものの、地元に住んでいながら、登山趣味を持つまでまったく聞かない名前だった。名前もどこか秩父っぽくない。
「あれ、何てぇ山でぇ?」
「何てぇやま…、なんてんやま…」
「……」
 そういうノリで決まったとしか考えられない。そもそもこの辺りの盟主たる両神山からして、ヤマトタケルが八日見たというダジャレである。ヘンな言い方だが、一体どういう経緯でこういう人の口にも上らない山が存在するのか、不思議だった。

 まあ、それはともかく。
 実際に登ってみると、中津川の支流となる鎌倉沢沿いを遡上する登山路は、滑りやすい場所に鎖を施すなど、よく整備されている。次から次に現れる大小の滝が目にも新しい。
 最も規模が大きいのは、登山口から30分程で到着する方円の滝だ。
 この滝は地図上では『法印の滝』となっているが、現地の表示では『方円滝』となっている。落差は15メートルほどで、そのすぐ下の5メートルほどの滝との二段構えだ。
 その後も沢の左岸と右岸を行ったり来たりしながら登って行くが、降雨後でもあり、濡れた丸木橋や木の根が滑り、思うようにペースが上がらない。方円滝から30分ほどで尾根コースと沢コースの分岐点に着いた。
 予定通りに尾根コースを選ぶと、やっと山腹をジグザグに高度を稼ぐ登山路となる。
 10時05分山頂到着。所要時間は1時間45分だった。ほぼ地図上参考タイム通りである。

 山頂はあまり広くもないが、大ナゲシや赤岩尾根と同質の脆い露岩が見受けられる。あいにくと雲が低いが、この山頂からの眺めは好い。両神山をはじめとする周囲360度の展望が開けている。群馬県に抜ける林道のトンネルとか、地図にはない林道の存在とか、地元秩父人の目にも普段見ることのない新鮮な風景が広がっている。中でも群馬県境の宗四郎山辺りの山腹一面、稜線まで迫る伐採痕が凄まじい。まるで山肌一面重病に侵されたような斑模様だ。

 しばしの休憩の後、下山に移る。
 下山路は予定通り沢コースにとる。地図に載っていない未知のコースだが、登山口に案内板がある以上、標識もおそらくはしっかりしているはずである。
 沢コースとは言え、最初は尾根伝いに歩いて行く。尾根なのでアップダウンがある。登って来た道を戻れば下る一方だったのにと少し後悔する。
 ……
 この時点で、私の登山者としての資質に何か変化が起きていることは、もはや疑いようもなかった。登山に対する限界が近付いているのかもしれない。
 途中一箇所、尾根から降下する踏み痕が続いていたが、標識もないし、案内板にあった降下ポイントよりも早い。ここは下りの誘惑を断ち切り、尾根のアップダウンを続ける。
 山頂から20分ほど尾根を歩くと、突如、『この先行き止まり』の標識が立っていた。その下には別の標識が朽ち倒れていて、『鎌倉橋』の文字が読める。どうやらここが沢コースの降下点のようだ。
 しばらく急勾配の山腹斜面をジグザグに降りて行くと、やがて沢に合流し、降下点から20分ほどで尾根コースとの合流点に到着した。

●登山データ
2009年8月12日(水曜日)
鎌倉橋駐車場(標高810M)→南天山山頂(標高1,483M)、標高差673M

鎌倉橋駐車場(8時20分出発)→方円滝(8時40分/休憩5分)→沢コース・尾根コース分岐(9時10分)→尾根コース経由→南天山山頂(10時05分到着)、登り所要時間:1時間45分
山頂滞在時間:35分
南天山山頂(10時40分下山開始)→沢コース降下地点(11時00分)→沢コース・尾根コース分岐(11時20分)→方円滝(11時35分/休憩5分)→鎌倉橋駐車場(11時55分到着)、下り所要時間:1時間15分
全行程:3時間35分

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