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序盤は杉林のジグザグ登山道を行く |
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時折り雨がぱらつき、非常に蒸し暑い |
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尾根道になると落葉樹が多くなる |
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辛い登山もようやく山頂 |
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熊倉山頂(標高1,426.5M) |
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熊倉山の山頂看板 |
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秩父市街から見た熊倉山 |
熊倉山
2009年7月25日(土曜日)
熊倉山(くまくらやま)。
名前はよく聞くが、秩父盆地を囲繞(いにょう)する山並みのうち、一体どれがそうなのか、実はよく知らなかった。
名前は子供の頃から知っていた。当時、新聞の埼玉版によく出ていたからである。登山者が行方不明になったとか、死体が出たとか、そういった記事がよく載っている山だった。
秩父の山といえば、まず姿が明瞭な武甲山と両神山があり、次いで名前が知られているものに雲取山と甲武信岳がある。
熊倉山は、秩父市街から見える山にもかかわらず、いわばその他大勢の口であり、名前は聞き覚えがあっても、どれがそうなのか、ほとんど認識されていないというのが実情だろう。
だが仮にも『登山者』を標榜(ひょうぼう)する以上、地元の山くらい順次登っておこうと、かねて思っていたことでもあり、遭難多発の山というのも、いささか興味がないでもなかった。
ちなみに昨年2008年は、全国の山岳遭難事故件数、遭難による死者・行方不明者数とも、統計を取り始めて以来過去最多だったという。今年2009年の夏も既に大雪山や富士山で多くの遭難死者を出している。
この年、7月下旬に関東地方の梅雨明け宣言が出された後、戻り梅雨に見舞われている。どうも天候がはっきりしない。前夜の予報では雨だったので中止のつもりでいたのだが、朝起きて見ると山は軒並み雲に覆われているものの、予報は晴れに変わっていた。
多少躊躇があり、時間も遅くなったが、とりあえず出かけることにした。
もともとの予定では、熊倉山を越えて稜線伝いに酉谷山(とりたにやま)まで行くセットメニューのつもりだったが、スタートから既に2時間のビハインドを負ってしまった。
秩父鉄道・白久駅前から谷津川館前を抜けて、狭隘(きょうあい)な林道をクルマで駆け上がる。しばらく走って峠に達すると、その辺りは道が広くなっているので、ここに路上駐車する。ここが今回の登山口である。
昨年はここから派生する新しい林道工事のため、業者のクルマや重機が優先的に停まっていたらしいが、今年はどうだろう。一部資材が置いてあったり、道路脇の広場の整地跡も新しいが、とりあえず今日は土曜日だし、まあ大丈夫か。
ところが意外な蹉跌(さてつ)が生じた。身仕度に取り掛かろうという時に、突如スズメバチの襲来を受けたのである。
スズメバチが三匹、クルマのガラスにバシバシぶつかってくる。
斥候(せっこう)部隊による威力偵察だろうか。少数とはいえ、斥候バチにマーキングされたら最期、後から来る本軍によってなぶり殺しにされてしまう。
そもそも、いきなりのこの攻撃は一体何なのか。スズメバチの攻撃は秋にこそよく聞くが、この梅雨の時期には聞いたことがない。
しかし落ち着いてよく見ると、ハチではなく虻(アブ)だった。大きさも色もスズメバチによく似ているが、顔が違う。ハエのような顔をしている。
しばらく車内で様子を見ていたが、攻撃は執拗を極め、窓や車体にガンガンあたって来る。
どうしよう。殺虫剤は持ってきていないし、これではクルマから出られない。一歩も登りもしないうちから早速の遭難の危機である。このまま帰ろうか。
否、ここまで来て多寡がアブくらいで中止するのも馬鹿げている。スズメバチならともかく、アブならたとえ刺されても大きな支障はない。そう考えると窓から睨み付けてくるこの虫ケラに急に怒りが込み上げてきた。応援部隊の来る様子もないので車外に出てみた。
意外にも、やつらは私には興味がないらしく、ひたすらクルマが攻撃対象のようだった。黒い車体に反応しているのだろうか。もしかしたら牛に見えるのかもしれない。
ハチと違い、アブの攻撃の理由は吸血にあるわけだが、まあ、私自身に攻撃がないなら別にいい。私の留守中、こいつらがクルマの番をしていてくれるだろう。
熊倉山へのアプローチは、尾根と、その両側の沢との計3コースがある。最短時間で登れる尾根の城山コースを選択する。登山口で届を出して、8時に登山を開始した。
登山道は暗く鬱蒼とした森の中で、ひどく蒸し暑い。勾配も妙にきつい。序盤のジグザグの登山道は肩下がりで、濡れた地面とも相まって滑りやすい。
この辺りは一帯に薄暗くて下草が生えておらず、道とそれ以外の区別が付きにくい。木に着けられたテープが頼りだが、ガスに巻かれたら道を見失う惧(おそ)れは多分にある。
長いジグザグが終わって本格的に尾根道になると、勾配は更に増してくる。しかも休むところがなく、これはずいぶんきつい登山道なのではないかという気がしてくる。下りで足を滑らせたら、どこまでも滑落して行きそうだし、小石でも蹴落とせば、どこまでも転がって行きそうである。
頭に巻いたタオルが飽和して、汗が滝のように流れ落ちる。眼鏡が曇る。速乾性シャツの汗が蒸発しない。うまく呼吸できない。
とにかくひどい湿気に無駄に体力を奪われている気がしてならない。
おまけに新手のアブの一味に執拗に付きまとわれ、足場の悪い中、濡れタオルを振り回して応戦したものの、ついに首筋を刺されてしまった。
ひどくビリビリする。これも遭難だろうか。昨年は持ち歩いていながら遂に使わずじまいだった殺虫スプレーを、今日持って来なかったことに後悔した。どうも今日は調子が悪い。非常に辛い登山になった。
夏山登山は、6・7月の梅雨、8月の雷雨、9月の台風と、雨に見舞われることが多く、この間隙を縫って出かけることになるのだが、遠くの山へ行って雨に断念するのは甚だ面白くない。そのため曖昧な予報の日には、途中断念も惜しくない地元の低山で済ますことにしているのだが、蒸し暑さにだけは閉口する。苦痛でしかない。こういう時期は高山に行けば、さぞ気持ちいいだろうな、などとも悔やまれる。
しかし、見方を変えればまんざらの無駄事でもないだろう。この時期の秩父の低山をやり込んでおけば、来る日の秋の北アルプスに効果を発揮することは想像に難くない。来る日に備えての臥薪嘗胆(がしんしょうたん)と思えば、耐えられないこともない。
眺望は山頂を含めてほとんど臨めない。ただ鬱勃と急勾配の山の中で木を見て歩くだけである。しかも、途中から追い討ちをかけるように雨が降ってきた。
このコースの地図上参考タイムは2時間だが、2時間歩いても山頂にたどり着けなかった。
過去これまでの登山なら、概ね70〜80%の時間で登れたのだが、この日は結局2時間15分もかかってしまい、これまでのワースト記録(113%)となった。それもいつもの4〜5時間クラスの山とは違い、多寡が2時間の登山でこの醜態とあっては、今後の登山計画そのものを瓦解させかねない惨憺たる結果と言える。
雨が降っていることもあり、酉谷山は断念した。
この地図の参考タイムの80%で歩けないと分かった以上どうしようもない。これ以上の難に遭うのは御免である。
この翌日の26日、東京都の男性がこの山で遭難し、その翌27日に無事救助されたという。
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峠の様子 |
3センチくらいあるアカウシアブ |
城山コース登山口と登山届 |
●登山データ
2009年7月25日(土曜日)
城山登山口(標高603M)→熊倉山頂(標高1,427M)、標高差824M
城山登山口(8時00分出発)→熊倉山頂(10時15分到着)、登り所要時間:2時間15分
山頂滞在時間:15分
熊倉山頂(10時30分下山開始)→城山登山口(11時45分到着)、下り所要時間:1時間15分
全行程:3時間45分
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