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上落合橋駐車場。橋の先が登山口
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登山届を出して梯子を上る
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登山道は岩が多く、濡れて滑りやすい
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八丁峠
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八丁峠からは鎖場の連続になる
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降雨後は岩が滑るので要注意
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とにかく鎖が連続する
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ノコギリ状の稜線。ピークのひとつ行蔵峠(行蔵坊)
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行蔵坊から二子山(左上)方面の展望
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西岳へ向けて鎖場の数は更に増す
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腕力勝負にいい加減うんざりする
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西岳山頂(標高1,613M)
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西岳から東岳へ鎖場を下る
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西岳・東岳間は鎖の修羅場だ
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ホールドの悪い濡れた岩場
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これでもかと鎖場が現れる
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登っても登っても鎖が続く
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この区間のタイム短縮は難しい
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鎖場は20箇所くらい続く
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東岳山頂(標高1,660M)
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大キギの岩峰
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東岳から最後の剣ヶ峰までは穏やかな稜線だ
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剣ヶ峰山頂の風景指示盤と三角点
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山頂から上落合橋に直降できる禁断の登山道は、非常に危険なため通行止めである
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集中豪雨で表層土が洗い流され、チャートの岩盤が露出している。こうなると濡れた石鹸の上を歩くのと変わらない。非常に危険な状態だ
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このような土砂流出箇所が3箇所あったほか、全体的にチャートの上に覆いかぶさっている土砂の接着状態が脆弱で、いつ地滑りを起こすか分からない状態だ
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両神山(八丁尾根ルート)
2008年9月8日(月曜日)
2008年の夏は、8月28日から9月7日までの11日間に亘り、異例とも言える局地的集中豪雨が断続的に各地を襲い、台風でもないただの俄か雨が、死傷者まで出す凄まじい被害をもたらした。
不安定な気圧配置はどうやら終息したようだが、思ったより天気はすっきりしない。遠くへ出掛けて雨に追われるより、地元の秩父の未踏峰リストを潰したほうがよさそうである。
先日、大ナゲシ・赤岩尾根縦走から続けて踏破する予定で断念した両神山(りょうかみさん/標高1,723M)八丁尾根ルートを選択した。
両神山の登山道はいくつかあるが、一部は地権者の協力が得られずに廃道となったり、または地主に事前予約して入山料を支払えば登れたりと、事情は複雑なようだ。八丁尾根ルートはそうしたわずらわしさはないが、八丁尾根から最高峰・剣ヶ峰を隔てた反対側の梵天尾根は、どのような理由からか平成12年に廃道となっている。自治体のホームページでは梵天尾根には立ち入らないよう書かれており、それ以降登った人のブログを見ると、標識が裏返しになっていて道に迷ったとか、山中で会った人にここは俺の土地だと云われて不快な思いをしたなどの内容が書き込まれており、事情は穏やかではないようだ。
この山のことを調べるまでは、登山というのは誰の許可も要らないものとばかり思っていたが、どのような経緯からか山の持ち主というのがいて、どうやらその人たちの厚意によって成り立っているらしいということがわかってきた。厚意で開放してやっている登山道に、マナー知らずの登山者が大勢やって来ることは、時に憤慨をもたらすこともあるのだろう。
八丁尾根から梵天尾根へと抜ける完全縦走はやってみたいテーマであったが、そのような事情を鑑みると実現は難しいようだ。
国道299号線の志賀坂トンネル脇から八丁林道に入る。
この林道、先月赤岩岳に登るために来た時は路肩にだいぶ草が生い茂っていたが、この日は綺麗に刈ってあった。八丁トンネルをくぐって道が下りになると、こちらは草が覆い被さっていた。林道入り口から20分ほどで上落合橋の登山口駐車場に到着した。
八丁峠の登山口はトンネルの両側にあり、トンネルの真上にあたる八丁峠までの登山時間は、トンネルの手前、すなわち志賀坂側の方が若干早い。本来この八丁尾根ルートで登る場合、帰りも同じ道を戻らねばならないため、トンネル手前の大駐車場を利用したほうが僅かながら楽なのだが、あえてトンネルを越えた上落合橋を起点とするのはそれなりの理由があった。
両神山はノコギリのようなギザギザした長い稜線を持つ、一見どこが頂上なのかよくわからない山である。ほぼ中央にある剣ヶ峰を最高峰に、北を八丁尾根、南を梵天尾根と呼ぶことはすでに触れた。
稜線縦走というのは、いくつかの支峰や小ピークが連続し、登ったり降りたりを繰り返さねばならない。この八丁尾根ルートは二十箇所ほど鎖につかまって岩場を登り降りするハードなコースであり、ここを往復することは体力的にも精神的にも決して楽なことではない。疲れたら座って休める通常の登山とは違い、腕力重視の鎖登山は気力が潰えた瞬間に滑落事故につながるからであり、集中力を長時間保つことはことのほか困難だからである。
登山に来ていてこれは戯言のようにも聞こえるが、山頂から上落合橋にダイレクトに連絡している禁断のコースの存在が、このような戯言を発する原因になっている。このコースを使えば、帰りは岩場の稜線を通らずに、上落合橋駐車場まで下ることができ、八丁尾根周回コースとしては理想的レイアウトになっているのである。
ただし困ったことに、入り口にも出口にも通行止めの看板とロープが張られている。整備された正規の登山道ではなく、非常に危険だというのがその理由のようだ。看板の設置者は埼玉県秩父農林振興センターとなっている。
以下は余談である。
山登りにおいては度々、自己責任という言葉が出てくる。自分のとった行動の結果について、一切人の所為にせず、発生した損害に対して一切人に尻拭いを頼まないということである。
線路で遊んで事故に遭えば鉄道会社の管理責任だと云い、河川で遊んで事故に遭えば行政の管理責任だと云う。ところが山で遭難したからといって、行政や地主の管理が悪いからだとは云わないのである。崩落しやすい箇所があっても左官工事などしないし、熊やスズメバチも野放しである。山は本質的には管理の仕切れない、自然のままの危険な場所だというのが、登山者にとっては前提なのである。
しかしいくら自己責任といっても、人命に関われば責任の取りようもないし、入れば高い確率で遭難する登山道を行政がみすみす放置しておくとも思えない。通行禁止にしてしまうのが事故を未然に防ぐ最善の策だろうが、地図表記までされている以上、それもなかなか難しいことと言わねばならない。
山頂周辺を立ち入り禁止にしている武甲山といい、どうも秩父の山は登ってもすっきりしない。私自身、山での経歴も浅く、初級者といわれても何ら反駁できない程度で余談が過ぎた。つまりは八丁尾根から剣ヶ峰に登頂し、帰りはこの通行止めの登山道を自己責任において下山するために、クルマを上落合橋に置いたのである。
以上余談。
上落合橋からまずは八丁峠に登る。八丁峠から両神山の最初の支峰である西岳へ向かうと、すぐに岩場と鎖が現れる。以降しばらく鎖との付き合いが続くことになるが、最高峰の剣ヶ峰まで二十箇所ほども鎖が連続するとは、この時は認識していなかった。ひとつひとつは距離も短く、妙義山のような深刻さはないが、とにかく本数が多いので仕舞いには辟易する。
鎖場の登攀(とうはん)は投影上の水平移動距離が短いので、なかなかはかどらない印象が強い。鎖を10メートル登ったところで、投影上は3メートルほどしか進んでいない。
何の標識もないピークがいくつか続き、やっと西岳かと思ったところが行蔵峠(行蔵坊)とかで、鎖を登っても登っても一向に距離を稼げないもどかしさに早くも苛まれる。
オーソドックスな三角錐の山ならば気の持ちようも楽で、無休憩のまま一気に山頂まで行ってしまえるのだが、こういう鋸状の、複数のピークを何度も登ったり下りたりする山は、精神的揺さぶりが大きく疲弊するのも早い。
西岳山頂で最初の休憩を採った。リュックを降ろし、水分を一口補給し5分間休憩する。地図を広げてみて、まだいくらも距離を歩いていないことに落胆した。
西岳と東岳の間はキレットと云っていい大きな登り降りを強いられる。前夜の集中豪雨で非常に滑りやすくなっている岩場は鎖の修羅場と云っていい。何本も何本も鎖を手繰り、やっとのことで東岳山頂に達した。
ここはこのルート中最も展望が開けている。西には赤岩尾根が一望でき、東には大キギの岩峰と、足許からは長大な天武将尾根が伸びていて、遠く武甲山までうねるような山並みが幾重にも連なっている。リュックを降ろして二度目の休憩を採る。ここでは15分休んだ。
東岳から最高峰・剣ヶ峰までは、それまでの鎖地獄とは打って変わって穏やかな稜線となる。この区間は少し飛ばして25分で山頂に着いた。
しかし時既に遅く、到着時刻は10時50分と、出発から2時間50分も掛かった。地図上参考タイムは3時間10分なので、ほとんど短縮できなかったことになる。意外と鎖場が多かったので、速く攻略するには腕力の強化が必要だろう。
山頂は樹木が多く、東岳ほど展望はよくない。リュックを降ろしてビスケットをひとつ食べ、20分の休憩の後下山に移る。
地図を見て禁断の下山道を探す。地図では一般登山道ではないグレーの破線で描かれている。
入り口にはロープが張られ、通行止めの札が掛けられていた。公には通行禁止なので私もあえて推奨はしないが、私が見た概要だけ挙げておく。
登山道として整備されていないということなので、登山は整備された登山道を歩くものだと定義している人は確実に入らないほうがいいだろう。道幅は30センチほどと狭く、肩下がりで土が軟らかく崩れやすい。一部で藪化しており、このような足許の不安定な状態で草をかわすのは、バランスを崩して滑落する危険性が高い。
この山の特徴であるが、この山の骨格は数億年前のプランクトンの殻が堆積した化石、チャートという非常に硬い岩盤であり、今回踏破した稜線の岩場はほぼこれである。濡れると氷のように滑り、濡れた石鹸の上を歩くと想像すればほぼ間違いない。
この下山路の場合、硬い骨格岩盤の上に申し訳程度に土が積もっているに過ぎず、それがこのところの集中豪雨で綺麗に洗い流されて、滑りやすい岩盤が露出した非常に危険な状態になっていた。足を踏み外せば20メートルほど滑落してしまい、落ちれば無論自力での下山は不可能となる。
道の崩落部分は長さ3メートルにも亘り、とても飛び越すわけには行かない。仮に飛び越せても着地点の表層土が崩れて、土砂もろとも滑落するだろう。このような崩落個所は三箇所あった。
もはや引き返すのが無難な選択だが、渡るのなら氷のような岩盤の中に踏み込むより道はない。氷の岩盤の中にグリップの確保できるラインを見つけるには、経験に裏打ちされた眼力が必要であり、実際にグリップを確保するには、斜面に対して垂直に立てるくらいのバランス感覚と、谷底へ滑落する前に向こう岸まで駆け抜けるスピードが必要である。このどれかひとつでも欠ける場合、濡れたチャートを渡るのは自殺行為と云っていい。
渡渉点は三箇所ある。無論いずれも非常に滑りやすい。
川ではルートを見失いやすいので注意が必要だ。一見すると道は川で行き止まりであり、慣れていないとパニックを起こし道迷い遭難に陥る恐れがある。ここは落ち着いて、対岸にルートがあるはずと根気よく探すことだ。
赤いテープが要所に施されているとはいえ、駐車場まであと何キロとかの案内標識など一切ないので、ルートを嗅ぎ分ける勘と、不安に押しつぶされないだけの経験が必要である。途中で分岐が一箇所あるが、今回の主旨からいって通行止めのロープが張られている方をたどった。看板の設置者は駐車場にあったのと同じ埼玉県秩父農林振興センターである。
山頂からの下山時間は1時間ちょうどだった。下山時刻は12時10分。全行程は4時間10分と、これまでの数少ない経歴の中でも最も短い登山となった。
●登山データ
2008年9月8日(月曜日)
上落合橋駐車場(標高1,140M)→両神山(標高1,723M)、標高差583M
上落合橋駐車場(8時00分出発)→八丁峠(8時40分)→行蔵峠(9時20分)→西岳(9時30分/5分休憩)→東岳(10時10分/15分休憩)→剣ヶ峰(10時50分到着)、登り所要時間:2時間50分
山頂滞在時間:20分
剣ヶ峰(11時10分下山開始)→通行止めの登山道経由→上落合橋駐車場(12時10分到着)、下り所要時間:1時間00分
全行程:4時間10分 |
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