Practice Makes Perfect/那須岳(峠の茶屋駐車場から那須連山縦走)
平日早朝すでに7割方埋まっている峠の茶屋駐車場。百名山にも拘らずロープウェイを恃まない自力組の多いのが意外だった
無人の登山指導所のポストに届を放り込み登山開始
散策路をちょっと歩くと登山口だ
スタートしてすぐ稜線鞍部に峰の茶屋跡避難小屋が見えてくる。天気も穏やかだし楽勝の予感しかない。
登山路の五叉路に建つ峰の茶屋跡避難小屋。稜線は風が冷たい
先ずは那須岳の象徴・茶臼岳山頂を目指す
茶臼岳山頂火口巡りの起点
火口跡と言ってもごく小規模の浅い凹みに過ぎない

茶臼岳山頂(標高1,915M)の那須岳神社
那須岳とは那須連山の総称。茶臼岳から見た右の鋭鋒・朝日岳と、左最奥に構える最高峰の三本槍岳
茶臼岳山頂から避難小屋に戻り、朝日岳に向かう前に逆方向の牛ヶ首に行ってみる。亜硫酸ガスを噴出する無間地獄は活火山ならではの見所だ
牛ヶ首から見上げる茶臼岳の溶岩ドーム

避難小屋に戻り朝日岳を目指す
荒々しい崩壊を見せる朝日岳
剣ヶ峰下のローソク岩
恵比寿大黒
今日は楽勝のはずだったが、この辺りは俄かに急勾配だ
鎖に掴まってのトラバース
朝日の肩から見上げる朝日岳山頂
朝日岳山頂(標高1,896M)

朝日岳から茶臼岳と辿ってきたルートを振り返る雄大なロケーション

1900M峰から三本槍岳
清水平

しばらく狭い登山道が続く
北温泉分岐
地味な三本槍岳だが、ここからが案外きつい
那須岳最高峰・三本槍岳山頂(標高1,917M)

那須岳(峠の茶屋駐車場から那須連山縦走)

2023年9月25日(月曜日)

 今年の夏はとにかく暑い。暑すぎる。
 春スキー酣(たけなわ)の3月早々から気温が急上昇し、41都道府県で3月の平均気温が観測史上最高を記録するなど、度重なる雨とも相まって、ゲレンデの雪はあっという間に消えてしまった。
 2020年から3年間猛威を振るった新型コロナも、5月8日を以って2類から5類に移行し、一切の行動制限がなくなったことにより、市井の人出もコロナ前の活況を取り戻し、例によって、大勢に従ってとか、同調圧力とかのノーマスク・ムーブメントが広がっていった。
 感染者数のカウントもなくなり、水面下で静かに第9波の侵蝕が進む中、愚直にマスクをしていた私も、ユニバーサル・マスキング瓦解の前に抗しきれなくなり、7月中旬、遂に感染してしまった。39℃の熱を発し、食事も水も一切摂れず、排便すら適わず、終日悪寒に震え部屋に引き籠もって病臥した。
 翌日37℃に下がったが、仰向けになっても横を向いても腰の激痛により片時もじっとしていられず眠れない。
 3日後に35℃の平熱に戻り、食事も排便もできるようになり、体もだいぶ楽になったので、発熱外来に電話して出掛けてみると、
「陽性ですね」との抗原検査の結果だった。医師から改めて宣告されるのは新鮮なショックがある。
 2類の外出制限は感染症法により発症翌日から7日間とされたが、5類では自由である。医師からは治ったと言っても発症翌日から5日間はウイルスを出し続けるので、職場復帰は会社の指示に従うようにとのことで、結局6日間の自宅療養とリハビリを経てから職場に戻った。この間体重が5キロ減っていた。
 恢復を悦んだのも束の間、今度は後遺症が発症した。突如トルエンを床にぶちまけたような強烈な甘い刺激臭が漂ってきて、しばらくしてから嗅覚障害の幻覚だと気が付いた。
 ひどかったのはその日限りで、翌日にはだいぶ緩和されたが、今でも時おり鼻腔の奥にこびり付いた甘い芳香の違和感は拭えない。

 関東地方の梅雨は6月8日から7月22日までと、まずは平年並みだったが、とにかく毎日がうだるような暑さで、トップギヤに入った高気圧が空を蔽うと、度し難い温暖化の切迫感に身悶えるばかりである。
 とりあえずコロナでどれだけ体力が落ちたか検証しなければならないが、あまりの暑さに出かける気にもなれなかった。

 那須岳は峠の茶屋駐車場からしてすでに七合目に当たり、山頂までの標高差はわずか457メートルに過ぎない。ロープウェイを使うまでもなく、茶臼岳、朝日岳、三本槍岳の那須連山を縦走しても大して負荷の掛からないコースではあるのだが、昨年11月、夏山登山の締めくくりに臨んだ際には、駐車場から上は体ごと持っていかれそうな暴風雪で、少し様子見して断念した経緯があり、侮れない一面がある。
 平日とはいえ、ロープウェイで登れる百名山とあって、昨年の安達太良山同様、百名山ハンターの集団に山頂を恣(ほしいまま)にされる惧れがあり、これは見たくない。関東最大級の111人乗りロープウェイの始発が8時30分、山頂駅までの所要時間は4分、最短ルートでハンターが直近の茶臼岳に到達するのが9時、最高峰の三本槍岳で正午になる見込みだろう。先手を取るため、スタート時間を6時、三本槍到着を10時半に設定した。
 
 夜中の3時に自宅を出て、駐車場に6時少し前に到着した。ところがロープウェイ運行開始前の平日早朝にも拘らず、167台置けるという駐車場はすでに7割方埋まっていた。ロープウェイを恃まない自力ハイカーの多さを意外に思ったが、いささか百名山ハンターという人達を見くびっていたのかもしれない。
 記録的連続猛暑日の炎天地獄も二日前の秋分の日になってようやく終熄し、朝晩秋らしい涼しさへと移ろい、この日も穏やかな登山日和となった。
 駐車場奥のトイレをくぐり抜けて裏手の階段を上がり、整備された散策路を抜けると、無人の登山指導所と鳥居の建つ登山口に出る。指導所のポストに届を放り込んで登山開始。
 登山気分が盛り上がる間も無く、すぐに茶臼岳山頂の溶岩ドームと、稜線上に建つ峰の茶屋跡避難小屋の赤い屋根が見えてくる。全く予想どおり、今回は山登りではなく、単なるリハビリ程度の山歩きよ。と、この時は思った。
 駐車場から37分で避難小屋に到着。ここは五叉路になっていて、この日の予定では幾度もここを通ることになるのだが、先ずは順当どおり、茶臼岳へと向かう。強風とまでいかないが、稜線上はそこそこ風が冷たかった。
 那須岳とは那須連山の総称で、最高峰こそ三本槍岳に譲っているものの、やはりその象徴は溶岩円頂丘に火口跡を持つ茶臼岳である。標高は二千メートルに満たないものの、噴出する毒ガスと強風のため、草木の生えない荒涼とした景観だ。
 山頂部は火口跡に沿って一周できるが、穴はごく小規模で、噴気もなく、池にもならず、那須岳神社の小さな祠と鳥居がひっそりと佇んでいるのみである。
 登って来た道を避難小屋まで戻り、次は朝日岳とは反対方向の牛ヶ首へと行ってみる。牛ヶ首は避難小屋から茶臼岳の円錐山体の等高線に沿って周った反対側で、もうもうと亜硫酸ガスを吹き出す火山活動を見ることができる。広場にベンチも置かれているが、休憩もそこそこに来た道を避難小屋まで引き返し、次なる朝日岳に向かう。
 
 朝日岳は山体崩壊によって二重山稜を形成する鋭鋒で、アプローチに入ってみると、今回の登山がどうやら散歩程度の生ぬるさでは終わらない様相を見せはじめてきた。恵比寿大黒という黄色味が勝った岩塊に差し掛かると、俄かに道が急勾配に転じ、手摺状に施された鎖を手繰ってよじ登らねばならない難所に入る。さすがに百名山、いささか甘く見過ぎただろうか。と思ったのも束の間、すんなり山頂に到着した。とはいえ、ここから眺める茶臼岳とこれまで辿ってきたルートのロケーションは、ここまで登ってきたプチ労苦に応えるに十分な雄大さだった。
 残すは三本槍岳のみである。火口近くの山体崩壊部から一線を画した緑豊かで穏やかな山容は、茶臼岳や朝日岳の荒々しさと比べてだいぶ地味な印象で、言ってみればごくありふれた普通の山なのだが、連山の最高所なので無視するわけにも行かず、まあ朝日岳はちょっと意外だったが、残りは想定どおりの楽勝だろう。と、この時は思った。

 突如異変が生じ、ちょっとした段差に足が上がらなくなった。またもハンガーノックの兆候なのか、昨晩ちゃんと食べたし、今朝もサービスエリアでうどんを食べ、歩行中も適宜ブドウ糖タブレットとアミノ酸スティックと岩塩を摂取している。となるとこの疲労は、コロナで落ちた体重5キロ分の筋力不足が原因だろうか。それならば仕方がない。その検証に来ているのである。
 途中ペースダウンしたものの、栄養補給が間に合ったのか、その後足に力が戻り、なんとか予定どおり10時19分に山頂に到着した。ここで初めてリュックを下ろして座り込み、弁当とおやつを食べてから帰還の途に就いた。

●登山データ
2023年9月25日(月曜日)
峠の茶屋駐車場(標高1,467M)→那須岳・三本槍岳(標高1,917M)、標高差450M
峠の茶屋駐車場(6時05分出発)→峰の茶屋跡避難小屋(6時42分)→茶臼山山頂(7時15分/休憩05分)→峰の茶屋跡避難小屋(7時40分)→牛ヶ首(8時00分/休憩04分)→峰の茶屋跡避難小屋(8時24分)→朝日の肩(8時54分)→朝日岳山頂(9時02分/休憩08分)→朝日の肩(9時16分)→熊見曽根(9時25分)→北温泉分岐(9時54分)→三本槍岳山頂(10時19分)、登り所要時間:4時間14分
山頂滞在時間:29分
三本槍岳山頂(10時48分下山開始)→峠の茶屋駐車場(12時25分到着)、下り所要時間:1時間37分
全行程:6時間20分

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