Practice Makes Perfect/爺ヶ岳(柏原新道往復)
5時09分、平日ながらこの時刻で40台ほど駐められる扇沢橋駐車場はほぼ満車である。暁闇をついて登山開始
駐車場から橋を渡って柏原新道入り口。本日の計画は爺ヶ岳と鹿島槍ヶ岳・北峰までの日帰り縦走である
夜道も二度目とあってヘッドライトの登山も余裕の楽しさ
明るくなってきた。針ノ木岳と扇沢バス停の有料大駐車場
6時11分、ケルン到着
ケルン以降一定間隔で名札が設置されている
登山道の勾配は概ね緩い
岩小屋沢岳
8時04分、種池山荘到着
爺ヶ岳・南峰

2016年に登った針ノ木岳(中央)と蓮華岳(左)。雨の雪渓での遭難ごっこも既に6年前の懐かしい思い出だ
爺ヶ岳。まず最初に南峰、最高峰の中峰(標高2,670M)、一番奥は登れないらしい北峰の三山から成る。

稜線に出てから急にへばって足が上がらなくなり、南峰への登りはことのほかきつかった。この時点で鹿島槍ヶ岳の北峰は割愛となった
雷鳥だ

今年の夏は猛暑日の連続記録も出たが、立山と剱岳は未だ残雪を湛えていた
爺ヶ岳・南峰から鹿島槍ヶ岳

次は最高峰の中峰へと向かう
9時44分、中峰山頂到着。種池山荘からのペースダウンが著しい

中峰山頂から鹿島槍ヶ岳へと続く稜線。もう足が上がらない。心身ともに力尽き、鹿島槍ヶ岳は完全敗北と決まった
遠く真ん中に薄っすらと富士山が見える。富士山の左隣が八ヶ岳。右が南アルプスだ。

痛む足を引き摺ってなんとか登山口まで戻ってきた
扇沢橋を渡ればゴール
13時29分、心身ともにボロボロになり、下山の地図上参考タイムをオーバーしたが、何とか扇沢橋の駐車場まで撤収できた

爺ヶ岳(柏原新道往復)

2022年10月3日(月曜日)

 仕事の都合で慢性寝不足となって以来既に11年が経ち、いい加減これまで自重してきた夜中に起きだしてのアルプス弾丸日帰り登山を久しぶりに敢行することにした。ターゲットは鹿島槍ヶ岳である。
 朝5時から歩き始め、爺ヶ岳を経由して鹿島槍ヶ岳の北峰までを往復する全行程12時間半のプロジェクトで、天候安定期と休日が重なったことから、疲れた体に鞭打ち、秩父の自宅を夜中の1時半に出発した。
 この5月、月山スキー場へ行こうとして、夜中の2時に家を出てすぐに鹿二頭に突っ込まれ、クルマを壊してしまった。それ以降深夜ドライブに対してトラウマを負ってしまい、疲労と慢性寝不足とも相まって、納車して3ヶ月の新車で夜中に出かけることは殊の外苦痛だった。案の定、出発してすぐに秩父で鹿が一頭、大町に入ってから一頭、狐と狸が一匹ずつ道の真ん中に立ちはだかり目を光らせていた。幸いにも先日のような当たり屋ではなかったので、虎口を脱し、無事に朝4時半に登山口である扇沢橋の駐車場に到着した。
 まだ真っ暗だったが、40台置けるという駐車場は月曜にも拘わらず、すでに八割がた埋まってるようだった。あいているスペースに停め、車内で朝食のおにぎりを二つ食べる。真っ暗な駐車場で灯りが漏れ、人の出入りする様子に気付き、どうやらトイレがあるらしいことがわかった。ヘッドライトを点けて行ってみると、仮設がひとつあったものの、座って大便をするのは躊躇われるほど汚かった。事前に高速のパーキングエリアで済ませているので、小便だけさせてもらう。
 トイレの近くに駐車したクルマの脇にいたおじさんに挨拶したところ、様子が変だったので注視すると、クルマは幅50センチほどの排水溝を跨いでおり、ヘッドライトに照らし出されるフロントタイヤはペシャンコになっていた。どうやら溝に気付かず突っ込んでしまい、脱輪の衝撃でパンクしたようだ。おじさんはレッカーを呼んであるので大丈夫と言っていたが、到着した途端の事故の悲しみは如何許(いかばか)りだろうか。私も先日壊したばかりなので気持ちはわかる。
 私の時は事故証明のために呼んだ警察官が「不運とシカ言いようがないね、鹿だけに」と言っていたが、まあ、そういうことなのだろう。
 
 身支度も整い、まだ暗い5時09分に登山を開始した。その間も駐車場に入ってくるクルマのヘッドライトは何台かあり、すでに駐車場は満車状態になっている気配で、平日にも拘わらずさすが北アルプスの人気ぶりよと瞠目する。
 扇沢橋を渡ると柏原新道の入り口である。登山ポストに届を放り込み、暗闇の森に踏み入って行く。ヘッドライトの登山も二度目とあって、もはや何の不安も躊躇もない。余裕ですらある。却って楽しいくらいで、なんだか病みつきになりそうだ。
 北アルプスにしては意外に緩い登山道を快調に無休憩で登り、稜線に建つ種池山荘まで地図上参考タイムの76パーセントの2時間55分で到達した。
 ところが一転どうした訳か、そこから突如異変に襲われた。
 両足の股関節が急にギリギリと痛み出し、腿が思うように上がらなくなった。歩幅が取れず、一歩一歩引きずるように歩くのがやっとだった。
 種池山荘から中峰山頂まで地図上参考タイム1時間のところを、手前の南峰山頂で既に1時間10分を費やし、中峰山頂まではなんと1時間40分も掛かった。そのため稜線に出てからはすっかり歩く障害物と成り下がり、多くの人に道を譲る結果となった。
 計画変更を余儀なくされた。南峰山頂時点で鹿島槍ヶ岳・北峰を諦め、中峰山頂に着いた時すでに鹿島槍そのものを完全に断念した。昨年の御坂山地で発症した痙攣こそなかったものの、ゆっくり歩けばまだどうにかなるというようなものではなく、完全に気力が打ち拉(ひし)がれていた。最初は単に齢(とし)のせいかと思ったが、そうではない違和感を拭えず、考えた末にひとつの結論を導き出した。
 ハンガーノックである。
 
 血液検査でコレステロールと中性脂肪が上限をオーバーしてしまい、医師の奨めもあって3年前から夕食を摂るのをやめている。その後コロナ禍となり、県外遠征や高山を自粛して近場の低山ハイキングばかりしていたので気付かなかったが、昨年の御坂山地と今回の異変の原因は、夕食を抜いたことによるエネルギー切れではないかと思い至った。
 低山ハイキングでは前日の夕食と当日の朝食を抜いても問題なかったが、高山ではそうは行かず、登山開始前に摂った朝食がエネルギー変換される前に低血糖状態となり、突然足が動かなくなったり、痙攣を伴ったり、精神的にも踏ん張りの効かない状態に陥ったのではないだろうか。
 クルマでいうガス欠で、燃料がなくなれば如何に馬力のあるクルマもエンストして動けなくなり、給油する以外どうにもならないのと同じ理屈である。
 飢餓で動けなくなったのを意識した経験は初めてであり、謎も解けて妙に新鮮な気分なのだが、ひどい時は意識を失うというから、転倒して頭を打ったり、崖から転げ落ちる危険もあるわけで、けっして侮れない。朝メシを食って腹は減ってないにも拘わらず、今つまり、そういう状態なのだ。
 9時44分、出発から4時間35分、山頂ではじめてリュックを降ろして座り込み、追加のおにぎりを食べたがパサパサして食べずらく、何の味もしなかった。山頂から薄らぼんやり遠くに見える富士山を眺めながら、無理やりお茶で流し込んだ。

 下山は更に惨めなものとなった。
 右足の親指の爪が剥がれているようでふわふわし、左足の親指もチクチクと痛い。下山は飛ぶように降りるのが今までのスタイルだったが、今日は傷病者のようにダブルストックで体を支え、股関節が痛いので小股でよちよち降りるのが精一杯だった。今まで下山で人に抜かれたことなどないのだが、この日は人気のルートとあって、数え切れない程多くの人に道を譲ることになった。もはや悲痛を通り越して滑稽だった。
 途中休憩は一切しなかったものの、下山の地図上参考タイムを6分オーバーし、全行程では鹿島槍敗北の上、20分オーバーのていたらくだった。
 靴下を脱いでみると、右足の親指は爪が真っ黒に変色して浮き上がっており、左足の親指の腹には血マメが膨らんでいた。

 今回、というかこの3年、山に向き合う姿勢が間違っていたわけで、平地と山を混同し、すっかり驕り嘗めきっていたことを反省せねばならない。とりあえず、ちゃんと次回は計画的に夕食を摂り、ブドウ糖タブレットや蜂蜜なども携行し、エネルギー補給を見直しながら再度確認したい。

●登山データ
2022年10月3日(月曜日)
扇沢橋駐車場(標高1,352M)→爺ヶ岳・中峰(標高2,670M)、標高差1,318M
扇沢橋駐車場(5時09分出発)→ケルン(6時11分)→種池山荘(8時04分)→爺ヶ岳・南峰(9時14分/休憩07分)→爺ヶ岳・中峰(9時44分到着)、登り所要時間:4時間35分
山頂滞在時間:29分
爺ヶ岳・中峰(10時13分下山開始)→種池山荘(11時04分)→ケルン(12時35分)→扇沢橋駐車場(13時29分到着)、下り所要時間:3時間16分
全行程:8時間20分

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