Practice Makes Perfect/雲取山(三峰神社ルート日帰り)
雲取山山頂(標高2,017M)
山頂の様子。右奥の森が今まで登って来た三峰方面

三峯神社駐車場より雲取方面を臨む
登山道入り口
未明の雨も上がり和名倉山が姿を現した
鳥居が登山道。登山届もここで出す
神社領域は杉林だが、やがて雑木林に変化
地蔵峠では俄かに眺望が開ける
秩父宮殿下と勢津子妃のレリーフ
霧藻ヶ峰山頂(標高1,523M)
霧藻ヶ峰から下って10分でお清平
お清平からは痩せ尾根の急登がはじまる
前白岩の肩を過ぎると原生林の登山道となる
前白岩山(標高1,776M)
ときたま眺望が開ける
白岩小屋
白岩山山頂(標高1,921M)。眺望はない
芋ノ木ドッケは山頂直下をトラバースする

下りきったところが大ダワ。
ここからがやっと雲取山の登りとなる
雲取ヒュッテから芋ノ木ドッケを振り返る
立派な造りの雲取山荘
山荘から最後の700メートルの登り。
ここに至ってもまだ山頂の様子はわからない
唐突に山頂が開ける

雲取山(三峯神社ルート日帰り)

2008年6月6日(金曜日)

 2008スキーシーズンも終了し、今年で2年目となる登山トレーニングの開始である。
 まずは足慣らしに地元秩父の雲取山(くもとりやま/標高2,017M)に行ってみることにした。三峰からの稜線縦走ルートを単独日帰りで往復する。
 地図データによると、スタート地点となる三峯神社駐車場から山頂までの距離は往復21.4キロ、標高差およそ900メートル、参考タイムは往復10時間とある。このルートは山懐が深く、雲取山に行くためには、途中、霧藻ヶ峰、白岩山、芋ノ木ドッケと、幾つかのピークを越えて行かねばならず、登っては下るということを何度か繰り返さねばならない。
 とはいえ地図を見る限り勾配は緩そうで、距離こそあるものの難易度的には大したことなさそうに見える。こういう設定でどの程度タイム短縮できるかが今回のテーマである。

 今年(2008年)は例年よりも早い6月早々に関東でも梅雨入りしてしまい、この日の朝も雨が降っていたが、何とかあがりそうなので出掛けてみた。
 三峯神社の駐車場は秩父の観光地によくあるところの有料(500円)だが、自動改札ではなく、朝早く来ても係員はいない。看板には18時で閉鎖する旨書かれているが、見たところそんな様子もないので勝手にクルマを乗り入れる。無人の大型バスが2台止まっている以外ほかに誰もいなかった。
 ゼリーとビスケットの軽い朝食をとり、6時30分に登山を開始する。

 鳥居のところで登山届を出し、神域の雰囲気十分の暗い杉の杜(もり)に入って行く。やがて雑木林となり、しばらくはハイキングコースの様相であるが、未明の雨で道はぬかるみ、頭上を暗く覆う樹木からはバラバラと雨垂れが落ちてくる。標高1,000メートルの早朝にも拘わらず、次第に気温が上がって蒸し暑くなってくる。
 鬱蒼とした杜が延々と続き、目的の雲取山はおろか眺望すらほとんど効かないが、地蔵峠に出ると狭いながらも少し視界が開けていた。この日は未明の雨をもたらした雲が一面の雲海を成しており、それまでの退屈な山歩きを慰めてくれる。
 ここまでは出発から1時間の道程で、このすぐ先に秩父宮夫妻のレリーフと霧藻ヶ峰(標高1,523M)山頂の休憩所がある。

 まずは第一のピークに達したわけで、ここからはいったん下りになる。10分ほど下ると鞍部のお清平に到着する。ここから次のピークである白岩山に向けての長い急登が始まる。
 霧藻ヶ峰まではハイキングコース然だったが、白岩山への登りは時に這い登るような急登である。樹木が鬱蒼としていてわかりにくいが、幅の狭い登山道の両側は転げ落ちるような急角度で落ち込んでいる痩せ尾根である。普通に歩いていれば心配ないが、もし滑落すれば樹木があるとはいえ、この傾斜では遥か下まで転げ落ちるだろう。
 30分ほどで前白岩の肩に出る。ここから登山道は原生林の様相を呈してきて、先程までの蒸し暑さもなくなり爽やかになってくる。
 とはいえ、爽やかでない物体もある。それにハエがうるさく群がっていた。糞である。
 登山道の真ん中に、人の拳大の穴を掘ってその中にしたヤツがいる。人糞大で色は真っ黒。まだ新しく、紙で拭いた形跡はない。こういう芸当が出来る動物は人間以外の一体何だろうか。

 前白岩山(標高1,776M)、白岩小屋を経て白岩山(標高1,921M)山頂到着が9時20分だった。出発から2時間50分無休憩の歩き尽くめなので、ここでリュックを下ろして10分間休憩する。
 相変わらず眺望はほとんどなく、目指す雲取山も見えなかった。ここから芋ノ木ドッケ山頂直下をを経て、またもや道は下りだす。それも今度は、今までの登りを無効にするかのような下りである。帰りにはこれがそのまま登り返しになるのかと思うといささか憂鬱になる。
 この辺りに来ると樹木の根周りに樹脂のネットが巻かれているのが目に付くようになる。巻かれてないのは樹皮が剥がされ、それがもとで腐れ折れているのも多い。鹿による食害であり、こうした倒木が非常に多い。

 白岩からなんと35分も下って大ダワの鞍部に到着した。ここからがやっと雲取山本体の登りとなるわけだが、ここまで既に3時間35分を費やしているにも拘わらず、相変わらずどこが山頂なのかまったく眺望が得られない。
 大ダワから道は男坂と女坂の二手に分かれているが、どちらを行っても雲取山荘で合流する。今回は稜線である男坂を行き、廃屋と化した雲取ヒュッテを経て雲取山荘に出た。

 雲取山荘はずいぶん立派な造りの山小屋である。
 ここまで霧藻ヶ峰の小屋、白岩小屋、雲取ヒュッテといずれも人の気配がなかったが、ここは営業しているようである。登ってくる途中で20人ほどの団体が降りてきたので、おそらく夕べはここに泊まったのだろう。玄関や窓は開け放たれているが、人影は見えず物音も聞こえない。
 山小屋での水は貴重と聞いていたが、このところの雨のためか、庭先の洗面所には黒い塩ビホースから水がドバドバと垂れ流しになっていた。山頂直下ということを考えると不思議なほどの水量である。庭を抜けて階段を昇ると山頂まであと700メートルとあるが、最後の登りも暗い森の中で、ここに至っても尚、山頂の様子は分からなかった。
 山荘から25分でやっと森を抜け出し、唐突に開けた山頂に到着した。10時50分。出発から実に4時間20分を要した。

 地図データでは登り所要時間5時間20分となっているので、1時間の短縮ではある。もうちょっと早く登れるかと思っていたが、途中休憩10分の割には予想外の遅さだった。これは急登区間の少ないコースの性質かと思われ、今後地図を読む上での参考になるだろう。
 それはそうと、4時間以上も歩いて最後の瞬間までずっと森の中というのもどうであろうか。開けた山頂に立ったからといって感慨は何もない。
 それでも、雲取山頂はこのルート中一番の展望が開けていて、天気がよければ富士山が臨めるはずなのだが、あいにくこの日は見えなかった。
 眼前の一座は飛龍山という聞いたことのない山だが、どうやら大洞山のことらしい。和名倉山や霧藻ヶ峰も、もとは違う名前だったようだし、そういうことはこの世界では珍しくないことなのかと認識も新たにした。
 それにしてもこの山頂はハエが多くてうっとうしい。ビスケットと干し肉で軽く昼食とし、40分間の滞在の後、11時30分、来た道を引き返した。
 この時はまさか、これまで経験したことのない極度のペースダウンに陥るなどとは知る由もなかった。

 大ダワの鞍部まで下ると左膝に故障が出てきた。痛みは次第に大きくなってきて、大ダワから白岩山頂までを50分掛けて登ったが、ここで耐え兼ね、たまらずベンチに座り込んだ。左膝はガクガクになっているが右膝には異常はない。左膝は10年前にスキーで痛めているので、それが出ているのかもしれない。
 この関節痛は精神力や体力でどうにかなるものではなく、こうなると著しいペースダウンを余儀なくされる。体力はまだ充分なのだが、先にこれが来るとは想定外だった。この手負いの状態で熊には遭いたくないと思っていたが、ふと森の中からこちらを監視している者がいることに気が付いた。
 案の定、人ではない。

 鹿だ。例の巨木を倒している一味だろう。こちらが気付くと向こうも反応する。カメラを向けるとすかさず飛び去る。ずいぶんと臆病なヤツだ。
 しかし私に関心はあるらしく、10メートルの距離を置いて樹の影からこちらを窺い続けている。容易にこちらの間合いに入る気配はないが、かといって立ち去ろうともしない。これが肉食獣だったら私がエサということだが、可憐なほどの臆病さで人を篭絡しようというのは、エサをおくれということに他ならない。手持ちの食料は干し肉・蜂蜜・チョコレートである。まあ、他をあたってもらおうか。駐車場までの道程はまだまだ遠いのである。天気も暗く曇りだしたので、この対峙はこちらから打ち切った。

 故障を抱えていることもあり、帰路はとにかく遠く感じた。朝から8時間を過ぎた頃から左股関節も痛み出し、左膝に至っては靭帯が断裂するのではないかという激痛に変わった。このため更にペースダウンする。
 霧藻ヶ峰からの下りになると、森はより一層暗く鬱蒼として湿度が高くなる。この下りも長くだるい。ようやく森を脱して駐車場に着いたのが15時55分だった。下山開始から4時間25分と、往路より5分もオーバーした。故障があったので仕方がないが、地図データでは下山タイムは4時間10分となっていて、往路よりも1時間10分早く設定されている。それから見れば大幅にオーバーしてしまったわけで、さすがにこれには大きな衝撃を受けた。
 ある程度の長丁場となった場合、故障によって予定タイムどおりに行かなくなることもわかり、そうなってしまえば、たとえ山小屋に泊まっても2日目の続行は甚だ困難であろうことも認識せざるを得ない。
 今回の無様な結果は、当面の目標である槍・穂高縦走計画に暗雲を落とした。さすがに昨年掲げていた日帰り強行計画は撤廃していたのだが、一泊二日でも怪しくなってきた。
 私はこれまでの登山で杖を使ったことはないが、膝をフォローするためのアイテムとして次回は試したい 。

 余談だが、クルマに戻ると何やらワイパーに紙が挟んであった。ナンバーは控えた、駐車代を払えという旨が書かれていた。

●登山データ
2008年6月6日(金曜日)
三峯神社駐車場(標高1,060M)→雲取山頂(標高2,017M)、標高差957M/往復距離21.4km

三峯神社駐車場(6時30分出発)→霧藻ヶ峰(7時40分)→白岩山(9時20分/休憩:10分/9時30分出発)→大ダワ(10時05分)→雲取山荘(10時25分)→雲取山頂(10時50分到着)、登り所要時間:4時間20分
山頂昼食休憩:40分
雲取山頂(11時30分下山開始)→大ダワ(12時40分)→白岩山(13時30分/休憩:25分/13時55分出発)→霧藻ヶ峰(14時45分)→三峯神社駐車場(15時55分到着)、下り所要時間:4時間25分
全行程:9時間25分

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