Practice Makes Perfect/登山について思うこと(第4話)
令和元年台風19号とコロナ禍による登山自粛騒動
令和元年(2019年)の台風災害により登山道は破壊され、翌令和二年の新型コロナウィルス騒動では外出自粛ムーブメントにより県を跨いでの登山が困難となった。大きな出来事なのでここにまとめておくことにする。
台風19号による登山自粛
令和元年は本来ならば天候が安定して長時間登山が可能になるはずの秋になってから、度重なる災害に見舞われた。
9月9日未明、関東地方に上陸した台風としては観測至上過去最強という台風15号によって、千葉県では3万戸以上の家屋が損壊し、倒木で電線が切断するなど千葉県のほぼ全域が停電し、一ヶ月以上経っても完全復旧できない被害をもたらした。市原のゴルフ練習場の防護ネットの鉄柱が倒壊し、多くの近隣住宅を押し潰したニュース映像が象徴的だった。JR東日本では前年の台風24号以来2度目の計画運休を実施した。
10月12日、またも関東に上陸した台風19号は、関東全域に観測至上最高雨量を更新する豪雨をもたらし、長野県の千曲川や茨城県の久慈川をはじめ、21の河川で堤防が決壊した。長野市の北陸新幹線車両基地が水没し、10編成120輌が2015年の運用開始から僅か4年で全車廃車処分となった。JR東日本は12日昼から13日昼まで丸一日以上の計画運休を実施した。
埼玉県でも川越や東松山で河川の堤防が決壊し、水没したショッピングモールの様子がSNSに投稿された。秩父でも48時間の降雨量が、箱根町の1001ミリ、伊豆市の760ミリに次ぐ、全国第3位の687ミリを記録し、交通の要衝である国道299号線坂氷が土砂崩れで通行止めとなり、開通させるのに4日間を費やした。
登山道も悉く崩落し通行止めとなったが、まずは道路や水道などライフラインの復旧が急務であるため、登山道の修復などされるはずもなく、登山自粛を呼び掛ける自治体が相次いだ。
後に発表された台風19号による被害総額は1兆8600億円と、津波を除いた一つの災害としては統計を取り始めた1961年以降過去最大となり、2019年の全国の水害被害総額も過去最高の2兆1500億円となった。
そんなムードからすっかり登山意欲は失せ、令和元年シーズンの登山終了となった。
コロナ禍による登山自粛
2019年12月、中国湖北省武漢で発生した原因不明のウィルス性肺炎が、1月の春節の中国人の大移動によって世界的大流行(パンデミック)を引き起こした。この新型コロナウィルスの感染者数は、2020年4月現在、世界185カ国におよそ170万人、感染による死者は10万人に達している。単純計算で致死率は6パーセントと、インフルエンザの60倍の威力である。
日本国内の感染者数は4月現在で一万人を超え、感染による死者は200人に上り、致死率2パーセントで推移している。
治療薬もワクチンもないまま感染者は増え続け、病院のベッドは満床となり、軽症者は検査も治療も受けられず、医療現場からはマスクも感染予防の防護服も品切れとなり、不眠不休で働く医療従事者にまで感染の広がる医療崩壊の危機が迫っている。
他人と接触しないことが唯一の感染爆発(オーバーシュート)対策として、中国、イタリア、スペイン、アメリカでは都市封鎖(ロックダウン)による封じ込めに踏み切ったが、国内では北海道知事がいち早く2月28日に緊急事態宣言を出したにとどまり、日本政府は中国の習近平国家主席を4月に国賓として招く予定だったことへの忖度と、7月に東京オリンピック開催を控えていたため、封じ込めの対応が後手に回り、国民もあまり真剣に受け止めず、毎年のインフルエンザ同様そのうち終わるだろうと多寡をくくっていた。
3月29日、タレントの志村けんが新型コロナで入院後急逝したため俄かに危機感が高まり、習近平とオリンピックが延期になってようやく4月7日に政府により緊急事態宣言が発出された。
東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫、福岡の一都六県で仕事以外の不要不急の外出自粛を要請したが、感染者数は日増しに多くなり、食料品、医薬品、日用品販売以外のレストランやカフェは、休業による減益減収に対する補償もないまま概ね営業自粛を受け入れた。全国でコンサートや演劇等のイベントが中止となり、ライブハウスや飲み屋も感染源(クラスター)になったことから営業自粛に追い込まれ、ネットカフェの閉鎖で寝床を失ったネット難民が街に溢れ出し、キャンセル続きの観光業を中心に従業員の解雇や学生の就職内定取り消しなど、経済的被害が拡大していった。
4月16日、都市部以外にも感染が広がっていることから、緊急事態宣言を全国に拡大し、新たに北海道、茨城、石川、岐阜、愛知、京都を加えた13都道府県を「特定警戒都道府県」に指定した。こうした都市部の企業を中心に、満員電車通勤を減らすため、在宅勤務(テレワーク)へシフトしていった。
4月21日、日本山岳会など山岳四団体が緊急事態宣言を受け、登山自粛を呼びかける声明をだした。富士山や南アルプスをはじめとする多くの山小屋では、感染の原因となる『密閉、密集、密接』の三密を避けるため今季休業を決め、それに伴い各自治体とも、当該登山を全面禁止とした。
にも拘らず、そういうことが理解できずに山に入り、挙句遭難して救助を求める登山者が散見され、懸念された通り新型コロナ疑いの遭難者もいて、救助隊員が一時自宅待機を余儀なくされ、救助活動に支障をきたした。
緊急事態宣言期間中は、一世帯2枚の布マスク『アベノマスク』が全国に無料配布され、国民一人あたり10万円の特別定額給付金が配られた。
外国のような罰則付き外出制限でない代わりに、自粛要請を守らない飲食店や県外ナンバー車に対しては『自粛警察』が犯罪まがいの私刑を執行して回った。
感染者数の推移から、全国の緊急事態宣言が解除されたのは、当初の予定である5月6日を越えた5月25日になってからである。
同日付で山岳四団体も、登山再開に向けてのガイドラインを提言した。5人以下の少人数で、都道府県を跨がず、日帰り登山を、という内容である。
東京都独自の指標である東京アラートも6月12日に解除されたが、7月に入ると東京都の一日の感染者数は俄かに100人を超え始め、7月9日には過去最高の224人を記録し、その後も200人超えが続き、17日には293人と、第2波の様相を見せはじめた。
一方で政府は、緊急事態宣言で疲弊した経済を復興させようと、7月22日から国内旅行の宿泊費や交通費が半額になる『Go To Travel キャンペーン』を開始した。但し東京都の感染者数が急増していることから、東京都民のみは対象外とされた。
東京都の感染者数は7月30日に367人、31日には463人と、増える一方である。感染者数の急増は東京にとどまらず、全国へと広がって行き、最後まで感染者ゼロで堪えていた岩手県が、7月29日遂に陥落した。
8月の感染者数は、全世界で4月の11倍の2000万人を超え、1日30万人ずつ増加している。死者は4月の7倍の73万人で、1日あたり6000人増え続け、致死率は少し下がって3.6%である。
国内での感染者数は4月の5倍の5万人、1日1500人ずつ増え、死者は4月の5倍の1000人となったが、1日あたりの死者は一桁でゼロの日も多い。
日本人は外国人と比べ重症化しにくいとの憶測のある一方、恢復した罹患者からは、意識を失うほどの高熱と激痛から恢復した後も、呼吸器疾患の後遺症が続くとの報告もあり、田舎では感染者の特定と嫌がらせのコロナリンチが後を絶たない。
7月末の統計ではコロナ関連の会社倒産は400件、従業員の解雇や雇い止めは4万人を超えており、コロナよりも経済的に困窮して死ぬという危機感が高まっている。
JR東日本では4月から6月の四半期決算が、過去最大の1553億円の赤字となり、JALとANAの航空2社は合わせて2000億円の赤字となった。
お盆休みになると、田舎への帰省は控えるよう要請が出されたり、『Go to』は引き続き行うよう促されたり、登山に行こうにも長野県では首都圏からの往来お断り宣言が出るなど、これが今後本当に解消されるのか、マスクと相互離隔(ソーシャルディスタンス)と不要不急の外出自粛がこのまま続けば、無論スキー業界にも影響は免れない。
屋外で行う登山やスキーにあっては現状を弁えた上で、地域経済を回すには行政の言うことにも臨機応変でいいかと思うのだが、自粛警察の県外ナンバー狩りにクルマを傷つけられても面白くないので、来るなというところには鼻白むしかない。
経済がどうあれ山は無くならないが、スキー場は体力のないところから淘汰されざるを得ず、そうした潮流は最早止められないだろう。
(2020年8月)
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