Practice Makes Perfect/燕岳
燕岳(標高2,763M)

中房(なかぶさ)温泉登山口第一駐車場(6:30出発) 中房温泉前を横切ると登山口だ(6:35)
登山届けが設置されているので書いておこう
概ね30分登るごとにベンチが置かれている
勾配のきつい道が続く
合戦小屋(8時30分、ここまで2時間)
紅葉が綺麗だ
登山道の左手には大天井岳が見渡せる
好展望が続く
雲海が沸き立つ
山小屋が見える
燕山荘(えんざんそう)標高2,680メートル
稜線に出てはじめて燕岳の全容を見ることが出来る
花崗岩と紅葉のコントラストが綺麗だ
長年の風雨が穿った様々な造形物

イルカ岩と大天井岳へと続く表銀座縦走コースの稜線

メガネ岩
実に面白い
城郭のような山頂部
まさに奇巌城
奇巌城天守
天守に到着

燕岳まで登ると、その奥には更なるターゲット北燕岳が屹立している

雲間から槍ヶ岳が遠望できる
北燕岳山頂、距離は短いが岩登りなので滑落に注意
北燕の更に奥の岩山
北燕から見た燕岳
まさに自然の美術館である

燕岳(つばくろだけ)

2007年10月12日(金曜日)

 独創的な山容を持つ燕岳は北アルプスの一角にある。北アルプスと言えば、一般的に中高年登山者の滑落遭難事故のニュースが後を絶たないというイメージが強く、麓から眺めるぶんにはいいが、単独で登るとなると、家族が震え上がって反対することは必定であり、まずはその説得に尽力しなければならない。
 燕岳はそんな北アルプスの入門編というか、日帰り可能なコースであり、以前山岳雑誌を見て、あまりの美しさに一目惚れして以来、ほのかに想い続けてきた山でもある。

 夜中の3時に家を出発し、長野道の豊科インターで降り、中房(なかぶさ)温泉の標識に従って山道を上ってゆく。やがて集落がなくなると道は普通車同士でもすれ違えないほど狭くなり、時折猿の群れが目の前を横切ったりする。
 やがて中房温泉第二駐車場の看板に行き当たるが、これを通り越して道なりに左へ曲がれば第一駐車場につく。
 6時15分に到着して既に15台ほどが入っていた。横を流れる川からは濛々(もうもう)と湯気が立ち上り、あたりには硫化水素臭が漂っている。これは温泉にも期待が持てそうだが、ともかく軽く朝食を済ませ、6時30分に登山を開始した。
 5分ほど車道を登ると中房温泉に着く。浴舎の前を横切ると登山道の入り口で、ここに登山届があるので提出する。
 温泉の脇からすぐに鬱蒼とした森の中に入り、いきなり急勾配の登山道になる。この登山道は北アルプス3大急登のひとつとかで、沢沿いに大きく迂回するという生ぬるいコースとは違い、最大傾斜線を最短距離で一気に登らせしめようという趣になっている。随所に階段があり、容赦のないストロークで高度を稼ぐ。木の根に足を掛けながら登るところもあるが、網目のように地を這うな根がそのまま浮き上がっているところもあるので、その隙間に足を入れて転倒すれば、たちまち足首がへし折れるだろう。

 一向に眺望が開けず、ひたすら鬱蒼とした急勾配を登り続けねばならない。最初なかなかきついが、20分ほど歩くと例によってリミッターが外れ体力が上がった。この状態にさえなれば、もはや登り切ったのも同然である。ちなみにこの状態は心拍がかなり高くなる。
 出発して30分ほどで最初の休憩ポイント第1ベンチに着く。朝寒かったので長袖のシャツを着ていたが、ここで撥水半袖Tシャツに着替える。これで体温上昇による余計な疲労を軽減できる。
 しかし、せっかく疲労を先送りできる状態になったのに、座り込んで休んでしまったらリセットしてしまいそうな気がする。それは後日あらためて検証するとして、ここは着替えたらすぐに出発する。以降は第2ベンチ、第3ベンチ、富士見ベンチ、合戦小屋はことごとく無視し、稜線の燕山荘(えんざんそう)まで無休憩で登った。
 燕山荘到着は9時25分。所要時間は2時間55分だった。ここまで肉刺(マメ)はひとつも出来ていない。徐々に山登りに適応してきているようだ。

 この燕山荘が建つ稜線まで来て、初めて燕岳の全容を見ることが出来る。花崗岩のモニュメントに紅葉を彩った山容は、まさに自然のミュージアムというに相応(ふさわ)しい。
 燕山荘から燕岳山頂までは30分の行程で、ここまで来れば勾配も緩く、オベリスクと呼ばれる尖塔や、イルカのようなモニュメントもあったりで退屈しない。一部落書きが彫られているなど人為的な部分もあるが、これだけの造形物が一面に見られるのも珍しいだろう。
 雲海の向こうに槍ヶ岳が顔を出したり、大天井岳(おてんしょうだけ)へと伸びる表銀座縦走コースのあまりのなだらかさに食指を動かされたり、改めてここは北アルプスが一望できるその稜線なんだなと、しばし感慨に浸った。

 稜線で写真を撮っていた青年に挨拶したら、人懐っこそうな口辺に微笑を浮かべ、一緒に山頂に行きますという。
 彼は私を先導するように、ひらりひらりと登ってゆく。そして私が追いつくのをニコニコと待ち、またひらりひらりと登ってゆく。
 この何とも不思議なシチュエーションに、私は何か山の妖精に導かれるヤマトタケルにでもなった心境がした。だとすると彼は道案内の神・猿田彦命(サルタヒコノミコト)だろうか。
 山頂に着いたのが10時だった。駐車場を出発して3時間30分で登頂したわけだが、猿田彦命は、
「結構迅(はや)い方ですね」
 と穏やかな微笑を絶やさない。
 山頂は風があって寒い。しばらくは後からやってくる人たちと談笑しながら滞在したが、あまりに寒くなってきたのでリュックから長袖シャツとウィンドブレーカーを出して重ね着した。

 燕山荘からは良く見えなかったが、燕岳のすぐ裏側にもうひとつ山があった。北燕岳である。私はこれにも登ってみることにした。猿田彦命は槍ヶ岳の撮影があるためここで別れた。
 北燕まで10分で行けるが、最後は短い距離ながらも岩登りがあり山頂も狭い。今日ここまでのルートで遭難や滑落はありえないと思っていたが、もしそれが起こるとすれば、この北燕岳山頂だろう。別に難しくはないが、高度感があり滑落すれば命はない。フリークライミングは登るのは簡単でも降りるのは難しい。調子に乗って登ったきり降りられなくなる愚は犯したくなかった。

 燕岳山頂の下まで戻り、昼食休憩にした。
 朝のうち眼下一面の雲海を成していた雲がもくもくと上がってきた。山頂も充分堪能できたので、11時45分に下山を開始した。
 途中、山小屋の人が道を整備していた。こういう人達のお蔭で安全な登山が楽しめているのである。これより一週間前に山小屋のない妙義山に行ったところ、1ヶ月前の台風9号の影響で入山禁止になっていた。その点人の滞在している山は安心感がある。
 合戦の頭まで降りて、暑くなったのでまたTシャツに着替えていると、先ほどの猿田彦命が降りてきた。一緒に降りることにする。
 今後の登山予定を訊かれ、もうスキーに切り替えるというと、彼はへぇ〜っと笑い、僕も大学のスキー部ですという。
 信州大学スキー部。その大学院生だという。
 そんな話をしながらも彼はハイペースで降りてゆく。私はやっとどうにかついて行く。下山道は例によって階段と網の目のような木の根を踏んで降りて行くので、転倒すると怪我する危険が高い。まあスキーでコブ斜面を滑るのに比べればどうということもないので、そんな調子でついて行った。
 中房温泉に着いたのが13時30分。燕山荘から1時間45分で降り切った。私にはかなりハイペースだったが、マメはひとつも出来ていなかった。
 温泉で疲れをゆっくり癒してから帰宅の途についた。
燕岳から燕山荘方面を振り返る

●登山データ
2007年10月12日(金曜日)
中房温泉駐車場(標高1,394M)→燕岳(標高2,763M)、標高差1,369M

中房温泉駐車場(6時30分出発)→燕山荘(9時25分)→燕岳山頂(10時00分到着)、登り所要時間:3時間30分
燕岳→北燕岳(所要時間:10分)
燕山荘〜燕岳〜北燕岳(昼食休憩含む)稜線滞在時間:2時間20分
燕山荘(11時45分下山開始)→中房温泉駐車場(13時30分到着)、下り所要時間:1時間45分
全行程:7時間00分

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