●インラインスケート・トレーニング

 オフトレの定番として、用具さえ買えば近くの公園で手軽に楽しめるインラインスケート。ずれにくいためカービングターンの練習に最適とか、スキーとは別物で何の役にも立たないとか言われるその実力はどのようなものなのでしょう。

 スキーではゲレンデで起こるあらゆる状況に対応するため、外足荷重とずれ(スライド)を伴ったターンが実用的であり、その制御方法として外向傾姿勢(カウンター)が基本のポジションになっています。基本となるパラレルターンでは、切れながら回る外スキーが主導で、それより内側を回る内スキーはずれを伴って補助的に追従します。
 インラインスケートはずれにくいため、そのような内足の使い方は難しく、特にスリップアングルが発生しにくい低速では、小指から踵で荷重された内スケートが、親指から踵で荷重している外スケートよりも切れ角が増してターンを先導してしまうため、スキーでの内スキーをずらす滑走感覚とは別物ということになってしまいます。内スケートでターンの方向付け、外スケートはターンを加速させるための踏み蹴り動作が合理的な技法となり、こうした用具の特性を生かすため、基本的なポジションは外向傾姿勢ではなく、内足荷重と上体先行になります。

 焼けたアスファルト上での真夏の練習は熱中症の危険があるので、こまめな木陰での休憩と水分補給は怠らないようにしましょう。日焼け痕や汗疹(あせも)を嫌ってプロテクターをしない人がいますが、ケガをするとスケートやスキーはおろか、仕事や日常生活にも支障が出るので気を付けましょう。膝、肘、手首には専用のプロテクターを着け、ストックを使う場合は石突きにゴムのガードを取り付けましょう。
 肘のプロテクターはバックスケーティングなどで後方転倒した時に衝撃を緩和してくれるので面倒臭がらずに装着しましょう。硬いアスファルト舗装で尻餅をつくと、衝撃が延髄まで突き抜け、軽い鞭打ち症になるので注意してください。バンソウコウや消毒薬などを携行し、紫外線が強いので頭髪のケアにも気を使いましょう。

公園デビュー

 一番の問題は場所の確保です。スキーはスキー場でやれば一般的には迷惑ではありませんが、インラインスケートは概ね公園や駐車場で練習することになり、あまり他人に不快感を与えるような行為は慎まなければなりません。インラインスケートやスケートボードはどうも不良の遊びというイメージを持たれがちで、特に公園の器物をグラインドしたり、パイロンでスペースを占拠する行為は、こうした嫌悪感を抱く人たちの心象を悪くするのに充分効果があります。そうした人たちが公園の平和と秩序を取り戻すために起こす行動の顛末は、公園管理者によるインライン禁止措置に落ち着くのが一般的です。
 さて、平和な滑走環境を見つけたらまず芝生のスペース(なければただの草むらでも良い)を探します。ごく狭い範囲でかまいませんので、インラインスケートを履いてその上を歩いてみます。芝生の上は斜面でない限り滑らないので、ここでインラインスケートの感覚に慣れておきます。
 芝生での歩行に慣れたらアスファルト歩行に移ります。アスファルトは芝生に比べ格段に滑るので、滑りを制御するためブレーキテクニックを身に着けましょう。
 通常右足のかかとにブレーキゴムが着いているので、これを路面にこすりつけて停止します。右足を前に出してつま先を上げ、ブレーキゴムを接地させて徐々に体重を右足かかとにかけて行きます。この荷重量が多いほど制動力は大きくなります。
 軽くスケートを滑らせてブレーキ。確実に停止できるようになるまで坂道には行かないでください。スキーでの急停止は進行方向に対して板を直角にひねりこんでそのまま横にずらしますが、インラインスケートはずれの制御が大変難しいため、一気にずれるか一気にグリップするかになりやすく、バイクレースの転倒シーンのようなことになります。坂道ではヒールブレーキが原則基本です。

 止まれるようになったらターンの練習です。インラインスケートのウィールは滑走中に傾けることによって、内向しながら転がる性質、キャンバースラストが働きます。
 まずはプルークターンの練習です。軽く助走をつけてまっすぐ滑り、両腕をまっすぐ横に広げ、股が裂けるのではないかというくらいに大きく開脚します。広げた腕を行きたい方向にひねると、コンパスで円を描くようにその方向にターンできます。
 プルークターンができるようになったら、スウィズルの練習です。腰(重心)を前方に沈み落とすようにしながら両足を左右に弧を描くように開脚するとインラインは前方に滑ります。そのままでは股裂きになってしまうので、滑走しながら足を閉じてゆきます。腰(重心)を立ち上げながら開いた足を弧を描きながら閉じます。更に前方に滑らせます。また沈み込みながら開脚し、閉じながら立ち上がる。この弧を描きながら漕ぐ動作を続けることでスケートは推進し、タイミングよく腕を振る補助動作をつけることで推進力は更に向上します。これが後に行うパラレルターンの基礎となります。

アスファルト平地

 スキーのパラレルターンは斜面の外力に依存しているのに対し、インラインスケートではスウィズルによって得られる推進力を昇華させることで、斜度0度の平地でもロングターンの継続が可能になります。
 まずは通常のスケーティングを練習します。慣れてきたら腕の振りも交え、ストロークを長くして行き、踏み蹴った後の軸足に乗る時間を長くして行きます。それに伴い、ただ踏み蹴るスケーティングから、軸足に乗り込んだ後で弧を描くスケーティングに変えて行きます。コーナリングでは上体を先行させながら外足と内足を交互にクロスステップさせ、インエッジ、アウトエッジ両方の操作を習得します。
 スケーティングが出来るようになったら、踏み蹴った外足を地面から離さない練習をします。スウィズルの片足版、片足スウィズルです。踏み蹴る方のウィールがずれないように、エッジを立てて丁寧に弧を描き、充分に踏み込みます。慣れてきたら内足の傾きを外足に同調させたパラレルスタンスに移行し、内足のアウトエッジでも路面を押し込み推進力を発生させます。最初はショートターンの継続からはじめ、徐々にストロークを長くしていけば、平地でもロングターン推進ができるようになります。

アスファルト緩斜面

 急な斜面は必要ありません。あまり急だとウィールがグリップしないので、置いたボールが転がる程度の斜度があれば充分です。
 ゆるい斜度でも次第に外力が大きく発生しスピードが上がるため、スリップアングルも大きくなり、両足の切れ角を同調させた両足荷重や、外足の切れ角が増した外足荷重のターンも可能になります。外力を得ることで、山踏み出しステップターン、踏み蹴りのステップターン、外足ターン、内足ターン、片足ターンと一通りスキーをイメージした滑りを練習することもでき、冬のゲレンデで練習していたことが、夏の間に済んでしまいます。
 ただしスピードが上がることで周囲の人たちの恐怖感や嫌悪感が増すので、転倒流血シーンなどは見せてはなりません。混雑している状況では特にスペースを使うロングターンは遠慮しましょう。

ILB(インターロッキングブロック)斜面

 タイル舗装の斜面はガタガタと不快な振動があり、目地にはコケが生えていて、横方向に荷重しすぎるとスリップします。スキー場の荒れた斜面のイメージトレーニングに最適で、バランス感覚、エッジ感覚が向上します。これも慣れないうちはタイルの目地につまづいて転倒する危険があるので、アスファルトでの練習を充分積んでからにしてください。

パイロン規制斜面

 パイロンで規制した中で滑ると、滑りがより実践的になり対応力が上がります。ストップウォッチを片手に滑ってタイム計測しただけでも十分な効果が得られます。
 ただ一番の問題は場所の確保で、パイロンを置くと、滑っていないときでも場所を占有してしまうため、他の公園利用者や公園管理者に不快感を与える効果は少なくありません。パイロンの代替品として、平べったいマーカーを作るのも一案です。

練習時間について

 個人差はあるでしょうが、私の場合、最初の1時間というのはアイドリングタイムというか、ここでやめてしまった場合、体にも感覚にも、ほとんど何の練習の効果も得られません。おそらくは脳内のニューロンのネットワーク構築活動の準備にそのくらい掛かるのか、1時間を越えたあたりから急に覚えが良くなってきます。しかし、炎天下のアスファルト上という条件の元では、2時間で体が疲弊してしまい、集中力も途切れてきます。転倒して思わぬケガを負う危険も増えます。したがって、私は1時間から2時間の間が、最もスキルアップする時間帯と視て練習しています。

インラインスケートの滑走痕
ロッカーリングして中央の2輪のみが接地した状態
※旋回原理の補足

 インラインスケートは厳密にはただ傾けただけでは曲がらず、脚をひねることでリアウィールを弾性変形させ、外側に押しずらすことで、進行方向に対してターンに必要な抵抗を作るいわゆるスリップアングル(迎え角)を発生させています。
 インラインスケートは通常ならずれにくいはずと、意外に思われるかもしれませんが、左の写真は私がインラインスケートを始めた年に、ウレタンシートの上で滑走して残った滑走痕を撮影したものです。4輪のインラインスケートで滑って、できた滑走痕は3本でした。
 まず一番内側には、一番前のウィール痕と思われる細いシャープなラインが残ります。
 真ん中には、やや太目のずれた滑走痕ができ、これは2番目と3番目のウィールの合成痕と思われます。
 一番外側は、やはりずれた滑走痕で、これは最後尾のウィールのものと推測されます。内側と外側のラインの幅は2センチにもなり、後輪が早く片減りする原因を推定させる結果でした。

 10円玉を立てて転がすと、やがて傾いて円錐状に回転して倒れます。いわゆる歳差運動と言われるものです。この傾いたほうに旋回して行く特性はバイクの旋回原理であるキャンバースラストにも例えられえますが、バイクのように2輪になると、ただ傾けただけでは曲がらず、ハンドルを切るというスリップアングルを作るきっかけが必要になります。
 インラインスケートは4輪ともフレームに固定されていてハンドルはないので、やはりただ傾けただけでは曲がらず、脚をひねることで弾性変形とズレを発生させて、スリップアングルを作っているものと思われます。
 このことは、4輪のうち真ん中の2輪の軸受け位置を下げるロッカーリングをしてみると体感できます。一番前と一番後ろのウィールが浮いている状態になり、旋回力は格段に上がります。わずかなひねりで回ってしまうので、よりひねらない(ほとんどひねらない)滑り方が身に付きます。
 この練習に体が慣れたら、今度は4輪フラットに戻してみます。するとどうでしょう。それまでの滑り方では曲がらないのです。

オフトレの総評

 ずれにくい内スケートに荷重してターンを先導するスタイルに慣れてしまうと、最初の冬、スキーに行って戸惑います。特に外力の弱い緩斜面のターンで、内側への転倒を繰り返すこと請け合いです。ターン始動とともに内側にこけ、立ち上がってまた次のターン始動でこける。仕舞いには立ち上がる気力すらなくなり、こんなはずじゃあっと叫びたくなるでしょう。
 午前中はだいたいそんな調子で、あの炎天下での血のにじむ努力は一体なんだったのか悩みますが、午後には用具の違いにうまく対応し、外力をうまく捕まえてカービングさせる感覚がつかめ、前シーズンとは滑りがガラリと変わるはずです。
 ただ注意しなくてはいけないのが、このようにして得たカービングの感覚や強烈な遠心力に陶酔するあまり、自ら作ったターン弧からターンが終了するまで抜け出せなくなってしまうことです。こうなると他のスキーヤーやスノーボーダーとの衝突の危険が増してしまいます。スキーでは対応幅の広い外足荷重を基本にし、インラインスケートは内足アウトエッジの感覚を強化するという意味でトレーニングしましょう。
 次のシーズンからはそれを踏まえたインラインの練習もでき、初滑りでのポジションの矯正は、最初のリフト1本で済むようになります。

●仮想コブ斜面トレーニング? トリックスラローム

 トリックスラロームは平地にパイロンを並べて行うため、まずそのような場所の確保が可能か、そのような占拠行為が許されるかが前提になります。このような占拠行為は公園管理者や他の公園利用者に不快感を与え、インラインスケートが公園から締め出されるリスクを伴うので、細心の注意が必要です。
 コブ斜面は周知の通り凸凹を滑るわけで、これを夏期に代替トレーニングするにはイメージの飛躍が必要です。中には代替コブを建具工作してしまう人もいますが、制作・運搬・収納管理面でかなり大変なので、パイロンを使ったトリックスラロームで代替トレーニングします。
 ここでの要点はふたつ。まず、コブのリバウンドによってはスキーが想定外の方向に突っ走ってしまい、ボディバランスの許容範囲を超えれば滑りが破綻します。このボディバランスの向上がひとつです。もうひとつは、コブのラインが重心とスキーのベクトルに著しい差異を生じさせる場合、無理に合わせるとバインディングが開放して滑りを破綻させます。このような時、バインディングを開放させないように、大きい負荷を受け流すスキーさばきが必要です。このボディバランスと用具さばきを、トリックスラロームを通じて養います。

 まず基本となるフォワードスラローム、バックスラローム、片足スラロームを練習します。バックに関しては、首を右肩越し、左肩越しの両方を練習します。足の開脚と交差でパイロンをまたぐフォワードクロス、バッククロスの練習では、左足が前と右足が前のものを練習し、これを交互に繰り出すフォワードクリスクロス、バッククリスクロス、そのコンビネーションまで練習します。
 ついつい足元のパイロンに視線が行きがちですが、顔が下がるとバランスを崩しやすいので、少し顔を上げてひとつ先のパイロンを見ます。バックの場合、足元を見ていないと踵でパイロンを踏み潰して後方に転倒する場合がありますが、この時ダメージを最小限に抑えるため、エルボーパッドは必須です。前方への転倒の場合、エルボーパッドを使うことはほとんどありませんが、後方転倒では効力を発揮します。トリックスラロームは転倒時に掌をついてしまうことが多いので、手首を痛めないようにリストガードを装着しましょう。

 インラインホッケーなどで行う、中央2輪のウィールの軸受け位置を下げてセットするロッカーリングも有効です。これは機種によってはできませんが、中央の2輪のみを接地させて前後のウィールが浮いている状態にすると、より小回りが効き、よりバランスがシビアになるのでこれはお勧めです。
 ヒールブレーキをはずすのも有効です。細かいターンでは邪魔になりますし、制動もウィールで行わなければならなくなるので、インライン捌きが向上します。
 足を開いて両方のインエッジ、クロスさせて両方のアウトエッジを同時に使い、どんな体勢からでも推進力を発生させます。これを前後左右とバリエーションを織り交ぜて行うことで、ボディバランスの向上とインライン捌きを身に付けます。
 その他色々なルーチンに挑戦していく中で、得意方向と苦手方向が出てきますが、苦手方向を克服して行くことで、スキーのシンメトリック性向上の一助ともなり、自然と腰の据わりも良くなってきます。

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