Practice Makes Perfect/千畳敷カール再び
5月上旬の千畳敷カール。稜線まで登るには、滑落防止のため、ピッケルとアイゼンの装備が必要となる

駒ケ岳ロープウェイの山頂駅は標高2,611.5m
千畳敷スキー場
ベンチではない。駒ケ岳神社の鳥居だ
スキー場左上に広がる極楽平の急斜面。斜度は約30度
極楽平へは歩いて登るしかない。山頂駅を振り返る
極楽平の稜線。ハイクアップの所要時間は約70分
春は稜線の雪庇が崩れる恐れがある
極楽平の裏側は三ノ沢岳。強風が吹き上げて来る
極楽平を滑り降りて次の目的地である乗越浄土へ向かう
乗越浄土付近から、ホテル千畳敷・山頂駅方面

宝剣岳(標高2,931メートル)

宝剣岳山頂
岩場の急斜面を滑るのは危険だ
山スキーはとにかく最大傾斜線を登るのだ
小規模雪崩れの痕だ
スキー場の人からアイゼン、ピッケルなしで行っていいよと言われたのはこの岩までだった
まあ今日のところはこのくらいにしといてやるか

千畳敷カール再び

 2007年5月8日、12年ぶりで千畳敷カールを訪れる機会に恵まれた。
 ほとんどのスキー場がシーズンを終えたゴールデンウィーク明け、関東近郊で営業を続けているのは、かぐら、奥只見、渋峠くらいである。そのうちのどこに行くか、ぎりぎりまで迷っていた。4月に行った奥只見の翌日からひどい腰痛に見舞われていたが、2週間おとなしく養生して、このところやっと良くなってきた。しかしコルセットは巻いたままだ。かぐらと奥只見のコブ斜面は止めたほうがいいだろう。と言って渋峠はあまり面白くない。半日券で上がって温泉に行くのはどうだろうか。
 当日の朝の天気予報を見ていたら、今日はだいぶ天気が好さそうである。これで千畳敷カールに決定した。なにげにネットではチェックしておいたので、今日の選択肢には含まれていたのである。しかし出発時間がだいぶ遅れて6時20分になってしまった。

 9時50分にしらび平バス停の有料駐車場に到着した。以前来た時は、クルマを駐車してから管理小屋に行って料金を払ったが、今回は遮断機式の自動精算機に変わっていた。料金は前払いの400円だった。
 今年は道路修復工事の影響で、バスは1時間に1本らしい。あまり待ち時間があるようなら先に温泉に行くところだが、発車時刻がわからないので駐車場に入りたくない。仕方なしにバス停の隅にクルマを置いて、管理小屋に訊きに行った。毎時12分の発車だという。20分後である。
 クルマを入れて、急いで仕度をしてバス停に並ぶ。既に10人ほどが並んでいる。スキーを持っているのは私だけだったが、2回目なのでどのような視線を浴びようと、もはや何とも思わない。
 バスとロープウェイの往復料金が3,800円、登山用リュックやスキーの持ち込みに片道100円の別途荷物料金が掛かる。
 バスはほぼ満席で、スキーを持ち込んだのは私一人だった。ボーダーもいない。後は普通の観光客で、そのほとんどが老人だった。
 スキーを小脇に抱えて座っていると、バックミラーの中から運転手の目顔が、
「スキーは床に置いてください」
 という。12年前には言われなかったことなので意外に思った。160センチの板を床に置くと、前か後ろの座席にまではみ出してしまい、人が躓く恐れがあるので良策とは言い難い。とりあえず客層を見て、後ろにはみ出させた。後ろのオジサンにすみませんねぇ、と挨拶する。それでバスは発車した。
 山道のカーブでは板が床を滑っていってしまうため、足で押えていなければならず、この姿勢はカーブで自分の体を支えるのには甚だ不都合だった。小脇に抱えて乗る方がよほど安全だと思った。
 道路工事区間でバスの乗り継ぎがあった。一度降りるわけだが、後ろの人が板につまづいて転んだら大変である。すばやく声を掛けて板を取り上げる。えらい気の使いようである。
 工事区間は工事従事者の先導で歩く。乗り継ぎ場所には一頭のカモシカがのんきに出迎えてくれた。老人達から歓声が上がる。上で待っているバスに乗り込み、山麓駅に到着した。
 今日の客の中で一番足の速い私は一番先にロープウェイに乗り込んで最前部の隅に陣取った。スキー板があるため、最も他人に邪魔にならないポジションを確保したつもりだった。しかしロープウェイが発車して徐々に高度を上げると、老人達が奇声を発して前方に押し寄せてきた。写真撮影を始める。窓に顔をくっつけて迫り来る山に奇声を上げる。どうぞ、と言ってその場所を譲った。私は風景など見る必要もない。
 バス2本で40分、ロープウェイ7分で、山頂駅に上がったのは11時だった。
 上に上がってもスキーヤーは私のみだった。千畳敷スキー場にボーダーが三人いる。視たところ皆スキー場の関係者の様だった。キッカーでジャンプして遊んでいる。それをすかさず老人達が写真に撮る。
 とりあえず老人達はここまでである。ここから先はスキーヤーかボーダー、もしくは登山者しか入れない。
 スキー場の前でリュックに板をくくりつけていると、スキー場の人がやって来て、ピッケルとアイゼンがないなら稜線に行ってはいけないという。いきなり出鼻を挫かれた恰好だが、初めてではないし、この雪ではアイゼンは必要あるまい。自己責任ということで強行させてもらう。まずは極楽平へアタックする。

 極楽平の斜度は30度くらいあり、距離は300メートルほどある。これを直登するわけだが結構きつい。幸い心配していた腰痛は問題ないようだ。
 見上げると稜線には50センチほどの雪庇(せっぴ)が幅50メートルくらい張り出していた。雪は良く締まっているが、あれが崩れるとモロに巻き込まれるので、雪庇のないところまでトラバースした。結局稜線まで70分も掛かった。
 稜線は5メートルくらいの幅があり、平らに見える雪でも突然腿まで踏み抜いてしまう油断ならない状態だった。
 もう12時を過ぎているので、ここで弁当を食べることにした。尻が雪に没しないように静かに座る。
 カール側は無風だったが、稜線の反対側からは強風が吹き上げてくる。カールからはまるで見えないのだが、裏には三ノ沢岳という立派な山があり、遠く霞んではいるが、御嶽山も見える。下の老人達にも見せてやりたい風景だった。

 板を履いて滑降地点を物色する。さすがに板を装着すれば雪には潜らない。雪庇をジャンプして滑り出したいという衝動を抑え、登ってきたところを滑り降りる。
 ずれずれのウェーデルンで1ターン1ターン噛みしめるように滑るが、30秒ほどで下に着いてしまった。雪は滑りやすかった。
 下に着くと老人の団体が一緒に写真を撮らせてくれと群がってきた。意味不明だったが、老人達と一緒に写真に収まった。

 今度はカールを縦断して乗越浄土を目指す。またもやスキー場の別の人から声を掛けられ、装備がないなら稜線まで行ってはいけないと注意された。乗越浄土の少し下のオットセイ岩までならいいとのことで、それで妥協した。
 ところが、スキー場の関係者と思われるボーダー達は、荷物も持たず普通に稜線まで登って滑り降りてきている。お互い技量が分かっているからいいということだろうか、これにはどうも釈然としなかった。
 所定の岩まで到着し、しばらく休んでから滑り出す。
 ロープウェイの駅まで戻ると既に15時だった。やはり出発時刻の遅れが最後まで響いた結果となった。今回は2本滑っただけだが、これで帰ることにする。
 15時のロープウェイ、15時10分のバスで下山。帰りは道路工事が終わったばかりで、バスの乗り継ぎはなかった。

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