Practice Makes Perfect/草津白根山湯釜
草津白根山は今でも活動を続ける活火山だ
湯釜のスロープ。ここを登れば湯釜が一望できる
草津白根山湯釜で滑る
湯釜は3回滑った。
ゴールデンウィーク前の4月下旬になると、草津志賀道路が開通するので、草津、或いは万座を経由して志賀高原・横手山スキー場や、熊の湯スキー場に行けるようになる。
この時期は雪の壁を見ながらのドライブが楽しめるとあって、スキー客に混じって多くの一般観光客がやってくる。そうした人達が、標高二千メートルのこの場所は5月でも雪が降るという事実を把握しているかは知らないが、スキー客なら当然スタッドレスタイヤ装着かチェーン携行である。雪山であるスキー場へ行くのに雪道を走るのは想定の範囲内であり、たとえ5月の春スキーとは言え自然の雪山に行くのに抜かりはない。
しかし悲しいかな、ここでは、ノーマルタイヤでやってくるかもしれない、雪道に不慣れな一般観光客の安全を基準にして、ほんの僅かでも雪が積もれば、この道路は殺生河原で通行止めになってしまうのである。
この情報は草津道路の入り口あたりの電光板に表示されるが、ここまで来て引き返すのは無情というものであろう。
山の様子を見て晴れていれば、殺生河原の駐車場まで行き、道を塞いでいる道路パトロールに、何時になれば開くのかを訊いてみる手もあるが、だめそうなら草津温泉の共同湯巡りに切り替えるしかない。
この第一関門を突破して無事に上って行くと、やがて湯釜駐車場の向こうにそそる曲線のスロープが見えてくる。あそこは滑れそうだなと即座に思うだろう。
草津白根山は今でも活動を続ける活火山で、湯釜はそのシンボル的な火口湖である。草津や万座の酸性温泉も火山の恩恵によるもので、殺生河原や万座の噴気孔から、硫化水素ガスを含む水蒸気が噴出している様子を見れば、火山活動が継続中であることは容易に想像できる。過去にはこうした火山性ガスによって遭難死したスキーヤーの事例もあるが、今回は観光客がハイキングで登って湯釜を眺めるレベルの山スキーをレポートする。
1997年4月25日。
湯釜の駐車場は平日でも有料だが、この頃はまだ登山道の除雪が済んでいないのか、駐車場にそういった観光客の姿やクルマはなく、暇を持て余している係りのおじさんに、ここでスキーをしても良いか訊くと、いいよと云う。私は自己満足感を、おじさんは駐車料金を得ることで利害が一致し、交渉は成立。駐車場代300円を支払って山スキーの開始である。
まず板を担いでスキーブーツでおもむろに雪原を登る。思ったよりも勾配は緩く、雪はよく締まっていて登りやすい。たいした時間を要することなくコバルトブルーの湯釜を一望できるポイントまで登ることができる。
後は今登ってきたスロープを滑り降りるだけだ。これは一瞬で終わる。これでこの計画は完遂である。
本格的な山スキーは知識と経験、それに装備がないとなかなかできないが、たったこれだけとは言え、自らの足で登って滑ってみると、ゲレンデスキーとはまた違った爽快感を得られるはずだ。
6月になると志賀高原最後の砦、渋峠スキー場も終わってしまい、わずかに残った雪溜まりを求めてマニアが集まってくる。セレンゲッティ平原の最後の水溜りを求めてやってくる乾期の動物たちを彷彿させる。
多くは、ジャンプ台を作って飛んでいるモーグラーかボーダーで、中にはポールトレーニングに勤しむ人もいる。
このような雪溜まり、特に白根山の近くには立ち入り禁止の立て札があるので注意が必要だ。
火山活動を続ける白根山周辺には硫化水素ガスを含む水蒸気の噴出口があり、これは卵が腐ったような温泉臭として知られるが、匂いを感じるのはごく低濃度のうちだけで、高濃度になると匂いを感じることもなく急性中毒に陥り、そのまま死に至る。
噴気孔が近くになくても風向きによっては危険なので、立入禁止の箇所には決して立ち入ってはならない。
スキー場でのゲレンデスキーは、コースは整備され、パトロールも常時巡回して、ハード面の安全を高い確率で担保している。そのためコースの予備知識がなくても、案内看板を確認して滑れば遭難することもないし、怪我をすればパトロールが救護所まで無料で搬送してくれる。スキー場によってはリフト券に傷害保険が含まれていたりと、ソフト面の充実も如才ない。
リフト券には、スキー場で定めるルールを遵守して滑りますという約款が含まれており、リフト券を買った時点でこれを承諾したとみなされる。それを守りさえすれば、快適なハードとソフトのサービスを享受することができ、コース外を滑ったらそれは契約違反としてリフト券を没収される。
ただの雪山を自力でハイクアップして滑る場合は、誰も干渉しない代わりにまったくの自己責任となる。遭難して救助を求めた場合、ヘリコプター代を含む捜索救助費用はすべて自己負担になるので注意していただきたい。200万円くらいだろうか。地方自治体によっては無届けで入山して遭難救助要請した場合、県条例違反も問われることになる。
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