●コブ斜面
ゲレンデをスキーヤーが滑ると、エッジングによって雪の削れる箇所と、削られた雪が積もる箇所ができる。エッジングの負荷が強く働く急斜面ほどこの傾向が強く(あまりにも急すぎるとターンにならないが)、客の入り込みの多い週末なら、半日でコブが出現する。
通常はスキー場終了後の夜間に、圧雪車で踏み潰して綺麗な整地斜面に戻してしまうが、圧雪車が入れないほどの急斜面など、上級者の遊び場として意図的に残す場合もある。
構造的には3つのパーツに分けられ、三日月形に掘られた溝、お饅頭のように盛り上がったコブ、そしてエッジングの干渉をあまり受けなかった、三日月と三日月の接点である肩からできている。肩は、削られもしない、積もりもしない、もともとのゲレンデの名残で、この肩に集中して滑れば気分的には整地かもしれない(?)
丸沼、シルバーコース(最大斜度33度)
●あらためて言うまでもなく、コブは3Dだ!
通常ゲレンデで出会うコブ斜面は、大きさもリズムも、そして硬さも一定ではない。怪我をしないためには、まずはずらしてゆっくり滑りたいところだが、これが意外に難しい。初心者の頃、なかなかプルークボーゲンができず、結局できるようになったのは、パラレルターン習得後だったというのは結構ありがちな話で、コブをゆっくり滑れるようになるのも、これに似ている。コブの向こう側をずらせばいいと言われて、それが出来れば誰も苦労しないのである。どうすればコブの向こう側をずらせるのか、そういう次元でこの稿を進めてゆく。
整地でのウェーデルンは、平面上でただ板を横に振るだけの、いわば2次元的な滑りであり、ある程度までの浅いコブなら、この延長線上として対応できる。しかし、ある程度以上コブが深くなってくると、つまり3Dの度合いが進んでくると、ただ板を横向きに操作する2D的な滑りでは追いつかなくなってくるのは、考えてみればごく当然のことと言える。横の操作に加え、新たなテクニックとして縦の操作を取り入れた3次元的な滑りが要求されるのは自明の理であり、言い換えれば、ある程度以上のコブが滑れない人は、まずこの認識に欠けているということだろう。
コブは滑れなくとも、整地でのカービングターンは結構うまい、という人をよく見かける。この整地ロングターンの見せ場のひとつにウェーブ越えというのがある。急斜面の途中を夏の林道が横切っている場合など、道路の部分で一旦平らになり、道路をすぎると元の急斜面に戻るという急激な斜度変化である。高速で無造作にこれに突っ込めば平らになったところで上体が潰され、その後の急斜面ではすっかり上体が遅れて後傾のままジャンプしてしまい、悪くするとそのまま後ろに転倒して、背中や後頭部を強打してしまう危険なシチュエーションである。
ウェーブを越える瞬間に、あらかじめ向こう側の斜度を想像し、板が向こう側の斜面で雪面コンタクトを失わないよう、すばやく上体を合わせ、同時にエッジの切り替えまでやってしまうというのが、技術選のビデオなどでよく見るところの、合理的な滑り方であろう。ここでの要点は、ウェーブの向こう側に落ち込んだ急斜面に板をコンタクトさせることと、ウェーブのトップを越える際にターンを切り替えることの2点であり、詰まるところ、これが縦のテクニックということである。コブもこれと同様で、コブを越える時にエッジを切り替え、コブから板が飛び出さないように、あらかじめ向こう側の斜度を想像して、板が雪面コンタクトを失わないようにポジショニングすることが本質となる。
コブでの雪面コンタクトとは、コブの向こう側をずらし降りることである。ターン弧を描く必要はない。ただ横を向いた板をずらして、コブを削ってスピードを抑えられればよい。このタイミングが遅れると板はコブから飛び出してしまう。空中では減速しようもなく、あとはコブのこちら側に板をぶつけるしかなくなり、その無用な衝撃に筋力が耐えられなくなれば、後は暴走・転倒するしかない。
ロングターンのウェーブ越えを思い出してみよう。高速でウェーブの頂点に突っ込み、それから向こう側の急斜度に合わせようと思っても、既にこの時点ではタイミングが遅いのである。あらかじめ、それを見越した先行動作として、頂点に突っ込んだ時点で自らテールジャンプを掛け、板のトップを向こう側の急斜面に叩き込むくらいにしないと間に合わない。コブも同様である。コブの溝に板が落ちきった時点で、自らテールジャンプさせないと、間に合わないのである。遅れれば板はコブから飛び出してしまう。
基本的な前提として、ここではカービングターンのような切れたターン弧を描くということは考えない。ブーツを中心に瞬間的に板をグルンと回す、いわゆるピボット旋回を主軸に考える。上体の向きはフォールライン方向に固定して、腰から下をひねりこむ。板が体から離れるとピボット旋回が出来なくなるばかりか、ずらし操作すらもままならなくなり、コブから受ける反動の処理が難しくなる。板は体の下に置き、決して前後左右に出さない。上体が下肢と一緒に回ってしまわないようにストックを突くことで上体の向きを維持し、コブの肩で縦操作としてテールジャンプ、横操作としてピボット旋回、更にこのふたつの動作中に徐々にエッジをひねり込む3D操作を加え、横を向いた板をフォールライン方向に真っ直ぐにずらし落とす。基本的に出来る限りゆっくりと滑り、コブの肩ではいつでも停止できるポジショニングを身に付ける。これが出来てくれば、コブにぶつかるショックを軽減でき、コブの中でも特定の筋肉や腰に負担が集中することなく、あまり疲れなくなってくる。
春スキーは雪が柔らかくて、コブの練習にいいという。確かに、春の水分量の多い雪は板が滑りにくくなり、整地はあまり楽しくない代わりに、コブでは滑りにくい雪がある程度暴走を抑えてくれるので、滑りやすい。転倒して顔面から叩きつけられようとも、大して痛くもないので、コブの雰囲気に馴染むには絶好の機会だろう。但し、このような雪で勢いに任せて身に付けた滑りというのは、次のシーズンの硬いコブではまったく通用しない。
春の雪は軟らかくて崩れやすく、粘着質である。板は綺麗にたわみ、冬に比べてスピードが出ないので、板が抜けてコブにぶつけるような滑りでもあまり衝撃がない。コブにぶつけることで遅れた上体を取り戻すことも容易であり、ある程度の体力があれば、ある程度の距離は滑れてしまう。傍から見ていると、上体を絶えずガクンガクンさせて滑っている場合がそうであるが、トップシーズンにまったく滑れなかったのが、ここに来てこれだけ滑れれば、俄かに上達したと錯覚するのも無理はない。ところが、冬の硬い雪ではそうは行かないのである。
ポジショニングが悪ければ、板が抜けるスピードも、コブにぶつかる衝撃も春の比ではない。硬い雪ではエッジングすらままならず、コブにぶつけて遅れた上体を取り戻す前に板は抜けてしまい、せいぜい3ターンもすれば滑りは破綻してしまう。春スキーの軟コブにはこうした陥穽が潜んでいることに気付かないと、何年たっても次のシーズンの硬いコブは滑れない。
このことを診断する方法としては、整地ショートターンが有効である。たっぷりとコブを滑った後で、整地ショートターンをしてみる。トップの押えが甘くなっているようなら要注意であり、ショートターンにならないようなら既に重症である。
トップから雪面をえぐり取るようにショートターンを練習し、ポジショニングが矯正できたら再びコブに入ってみる。そうすると嘘のようにコブでの収まりがよくなるのである。ポジショニングがいいとスピードを押えることも容易になり、気分的にも落ち着き、上体は起こしたまま静かに安定する。
整地のウェーデルンは2次元的な滑りで、コブとは別物であると前述したが、トップからえぐり込むような場合は3次元的イメージといってよく、整地がえぐられることでコブが生成されるという過程を考えると、整地でもコブでも滑りを変えるという意識はなくなってくる。また、後傾でドタバタ滑ることがまったくの無駄かと言えばそうではなく、基本的な滑りが身に付いた上で使えばメリハリになるので、あえて取り混ぜてみるのもいいだろう。
結局、整地もコブも同じということに帰結してしまったが、いきなり人からそういわれても、それを実感として習得することは一般的には困難だろう。スキーはバランスのスポーツであり、安定したポジショニングという根幹さえ習得できれば、他の枝葉の悩みは芋づる式に解決してしまうのだが、スキーの奥深いところは、それを人から教わってもなかなか自分の中で消化して理解できず、上達もしないところにあると言っていい。詰まるところ自得するしかないというのが私の持論であり、このホームページを貫く主旨ともなっている。
丸沼、シルバーコース
●コブでは大回りをしてはいけないのか?
コブで大回りをするというのは、一般的に言って迷惑である。多くのスキーヤーは小回りをしようとしており、予定ライン上にいる先行スキーヤーがある程度距離を開けるのを待つという暗黙の掟がある。数本のラインを横切る大回りは多くのスキーヤーを待たせることになる。転倒する危険が高く、転倒すれば板がリリースする確率が高く、怪我をしてコースを塞ぐ形で動けなくなる可能性も高い。第一、自分が大回りする場合、これらすべてのラインが開くのを待たねばならない。
慣れないうちは恐怖心のために体が内倒しやすく、傍から見ていると如何にも危なっかしい。こんなヤツに後ろから突っ込まれてはかなわんという無用の嫌悪感を周りに与えてしまうことにもなりかねない。
しかし、それでも、やらなければならない状況もある。例えば、SIAのゴールド検定がそうである。そうした目標がある方は、折を見つけて練習しておく必要があるだろう。
コブ斜面での大回りは、ライン取りとずらしがすべてと言っていい。コブの頭から向こう側の空間を滑走ラインに設定すれば、受ける衝撃を最小限に抑えることができる。言い換えると、起伏の大きなコブを滑っているように見せかけて、実はその中に存在する平滑なラインを見つけて滑っているだけという、ある種のトリックである。大きなコブを、さも平滑な斜面のように滑っているように見えるのは、実際にそうしているからに他ならない。
大回りと言っても高速で滑る必要はなく、ずらしを入れることでスピードコントロールはそれほど難しくない。整地のカービングターンとは違い、存分にずらしを入れて構わないのである。
無論、このようなコントロール一切をするには外向傾姿勢と外足荷重というスキー技術2大基本セットが必須であり、このポジショニング無くしてはこの話は成り立たない。コブの中で体が内倒してしまうようなら、取り組み方そのものを見直す必要がある。
時折コブに入りたての人が、プルークでコブ3つくらいを目安にゆっくり滑っているのを見かける。コブを直線的にモーグルもどきの荒々しい滑りで攻め立てている人が、ひとつの斜面を上から下まで滑るのに、途中で3度ほど荒い息をつきながら休憩するのとは対照的に、プルークの人はゆっくりながらも、大して疲労することなくノンストップで滑りきってしまう。まるで兎と亀の寓話のようで、大方の人が両方の立場を経験していると思うが、このプルークでの滑りは、楽に降りられるラインを探すことが主眼となっており、まさにコブパラの要諦を無意識に体現しているといっていい。
闇雲に大回りで突っ込むのではなく、まずは滑走ラインを見つける目を養うという目的で、コブに入るのが賢明と言えるだろう。
草津国際、天狗の壁(最大斜度28度)。トップシーズンの硬い状態。
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