●パラレルターン

 スキー板(以下、単にスキー)をひっくり返して裏側から見ると、つるつるした滑走面と両端の金属のエッジから成っていて、形状は両先端から中央部分にかけて丸くくびれています。この曲線(サイドカーブ、またはラディウスとかRと言う)のついたエッジを雪面に食い込ませ、雪面からの抵抗を受けることにより曲がったり止まったりします。
 ゲレンデは傾斜が付いているので、置いたスキーが滑らないように、斜面に対し横向きに並べます。バインディングのヒールピースを押すとガコッと開いてブーツを挟めるようになるので、斜面の下向きになっている方の板から先に履きます。爪先をトゥピースに引っ掛け、ヒールピースを踵で押し込んでガチャリとロックしたことを確認します。外したい場合はヒールピースをストックで押せば外れます。

 スキーは斜面下に重力で滑り落ちて行くスポーツなので、ジェットコースターのように人間の生理に恐怖感を呼び起こします。この恐怖感により体が後ろに引けてしまうと、スキーは制御不能に陥ります。(テールのラディウスを使った滑りもあるが、ここでは割愛)クルマに例えるなら、前輪が浮き上がってしまってハンドルが利かない状態ということで、スキーの前半分、クルマに例えるなら前輪がグリップするようなポジションに立ちます。簡単に言うと斜面に対して体が垂直になるように立ちます。スキーブーツはバインディングによって板に固定されているので、ブーツの中で足首を曲げてブーツの前側を押すようにします。
 軽く足を開いて中腰になり、腕はすっと前に構えます。平地ではできても、斜面に行くと恐怖で腰が引けてしまうことがありますが、それはスピードを抑えたり、スキーをコントロールするにはまったくの逆効果で、腰の引けたポジションを維持するために、太ももに過度な負担がかかり、すぐに疲れて耐えられなくなれば後は制御不能に陥ります。
 ごく緩い斜度のゲレンデでまっすぐ下に滑り、股が裂けるのではないかと思うほど両足を横に開きます。股関節を支点に開いた結果として、足裏の外側が雪面から浮き上がり、それはそのまま両スキーのエッジが立つことになり、両スキーのインエッジが雪面に食い込みます。大股に開いた両スキーはインエッジが雪面に食い込むことにより、雪面からの抵抗を受け、開いた股を閉じるように内側に押し戻されます。この押し戻す力を更に押し返すように、両足を横方向に踏ん張ります。押し戻す力と押し返す力の力比べです。両足を均等に押し返せば停止できますし、左右どちらか一方の力を抜けば、抜いた方へ押されることによって曲がることができます。
 うまくターンするコツは、左右2本あるスキー板の片方のインエッジにのみ全体重をかけることで、腰から上をくの字に傾けることによって、足を開いてインエッジの立った片側のスキーに体重を乗せることが出来ます。このくの字姿勢は野球選手のバッティングの瞬間や、サッカー選手のシュートの瞬間にも現れるもので、要は『腰を入れる』動作としてテレビや写真で見たこともあると思います。スキーにはサイドカーブがついていて、右スキーのインエッジは左方向にカーブするように接雪され、左スキーのインエッジは右方向にカーブするように接雪されています。ここに体重を乗せることによって左右いずれかにターンすることが出来ます。

 スキースクールの講習で『乗れていない』と言えば、ターンの外側になるスキー板への体重の乗せ方が不足しているということです。自分の体重は決まっていて、左右2本のスキーの上に全体重がかかっているわけですから、『もっと乗れ』とか『もっと踏め』と言われても、自分の体重はこれ以上増やしようもないわけで、言わんとしていることは『左右のスキーに30キロずつかかっている体重を右スキー0キロ、左スキー60キロにせよ』(またはその逆)という意味になります。指導員によってはもっと乗れ、もっと踏め以上の解説はしてくれませんが、踏めと言われて踏めれば苦労はないわけで、初心者はどうしたらもっと乗れるのか、もっと踏めるのかがわからないから、わざわざお金を払ってスクールに入るわけです。
 早い話が、ターン内側の足を浮かせればターン外側の足に全体重がかかります。浮かさないまでも、それに近いくらい外足に重心を偏らせれば良いわけです。ではどうすればターン中の外足に乗れるかというと、外足方向に上体をくの字に曲げて重心を外足に移し、外足一本でバランスをとる補助動作として、ヤジロベエのように両腕を軽く広げます。くの字に曲げた腰を入れられれば完璧です。体の重心を外足寄りにシフトさせれば『もっと踏める』わけで、左に行きたいときは左を向いている右足のスキーに荷重し、右に行きたいときは右を向いている左足のスキーに荷重します。
 日常、普通に地面に立っている状態というのは、2本の足でまっすぐに立ちます。電車に乗っているときは電車の加速、減速、横揺れに合わせて足を踏ん張り、前後左右に荷重量が移動します。スキーでも何もなければまっすぐ立ち、外力を受ければ足を踏ん張って前後左右に荷重量を移動させて対応します。
 電車がブレーキをかけたときには電車の進行方向に踏ん張り、加速したときには電車の後部に向かって踏ん張り、この対処が逆だと転倒します。スキーでもターン中に遠心力を受けたらターン外方向に踏ん張り、ターン内側方向に踏ん張った場合は転倒します。効果的に踏ん張るには、遠心力と重力の合成ベクトルに対して鉛直になるようにスキーをエッジングさせます。この角付け角が足りなければ遠心力によってターンはブレークし、過度に角付けすれば重力によって転倒します。
 バランスを崩したり止まれなかった場合、自ら転倒することで滑りを中断することがありますが、後ろに倒れようとするとスキーは暴走に陥り、場合によっては伸びきった膝靭帯を損傷したり、背中や後頭部を痛打してしまいますので、倒れる場合は横に倒れます。

 外足荷重でのターンは、細く切れたシュプールを刻む外スキーに対し、荷重されていない内スキーはずれてかすれたシュプールを残します。クルマはディファレンシャル(差動装置)によって、左右のタイヤに回転差をつけることでカーブできますが、スキーでは内スキーをずらすことで、外スキーとの回転差に対応します。
 ゲレンデで遭遇するあらゆる状況に対応するには、ずれを伴ったターンが実用的で、ずれを効果的に制御するポジションが外向傾姿勢です。ずれをコントロールしやすい外スキーに乗るために腰を外傾させ、ずれに対するカウンター効果をだすために腰を外向させます。外向と外傾はセットで使うので、外向傾と言います。
 カービングターンはエッジのトップで雪面に溝を掘り、それをバンクに見立ててトップ以降のエッジを押し付けボブスレーのように滑走させます。そのためずれが少ないターンができる反面、遠心力によって膝にかかる負担も速度が上がるにつれて増し、外足一本では負荷を支えきれなくなったり、膝靭帯を痛める危険も出てくるので、外スキーのインエッジだけでなく、内スキーのアウトエッジに荷重を分配し、体軸を内傾させることで、今まで膝だけで受けていた負荷を体の軸全体で受けるようにします。
 両スキーへの適切な荷重配分は難しく、外足荷重においてずらし回していた内スキーに荷重すると、一気にエッジが噛んでしまい、親指から踵にかけて荷重している外スキーよりも、小指から踵にかけて荷重する内スキーがよりターン内側に切れ込んでしまい、両足が先開きになります。このエッジ感覚についていこうとすると、両足荷重しているつもりでも、内足荷重過多の腰外れのポジションに陥ってしまう場合があり、膝を折り曲げた内足に荷重をかけすぎた場合、遠心力が加わって倍加した体重を、曲げた膝一本を伸ばして押し返せなくなったスキーヤー自身が動けなくなったり、切り替えでエッジを開放した時に、バネのようにたわみきったスキー板の猛烈な反発力を処理しきれずに、次のターンに入ることができず、足を取られて顔面からコースに叩きつけられたり、あるいは暴走してコース脇の防護ネットや立木に突っ込んだりします。

 エッジ角度とは逆に腰を外傾させて、体の軸を斜面の鉛直方向に保とうとする外足荷重は、急な針路変更を迫られた場合、エッジをブレークさせてターンを中断したり、フリーの内足をステップさせて軌道を変更することも容易です。斜度変化、雪質の変化に対応しやすく、アイスバーンなどの除雪抵抗の低さから、両スキーのエッジがブレークしても転倒することなく滑りを継続できますが、グリップの良い状況で高速になると、膝にかかる負担が大きくなり、筋力が耐え切れなくなれば体が遅れ、暴走転倒に陥ります。
 体全体の軸でエッジングする両足荷重は、グリップの良い状況での高速時において、特定の関節に負担が集中しない滑り方ですが、内足荷重寄りになってしまうと、コブ斜面などの斜度が急激に変化する状況では対処が難しくなり、エッジがブレークすれば転倒します。
 まずは外足荷重をマスターして外足の足場を作ってから、徐々に内足の荷重加減、方向付けを調整し、それを踏まえた上で内スキーの先行性を活かした滑りを練習します。
 外足荷重の意識を高めるには、山踏み出しシュテムターンで滑ったり、踏み蹴りターンで滑ったり、大回りの切り替えに小回りを一回挟んだりすると効果があります。切り替え時はシュテムでも踏み蹴りでも、小回りでも大回りでも、どうにでも動けるポジション、ニュートラルポジションに戻ることを心がけましょう。

 ターンを始動させるには、重心の進行方向とスキーの進行方向をずらすスリップアングル(迎え角)が必要ですが、カービングスキーはその形状から、エッジを立てるだけでこれを作り出せます。スリップアングルによってターンが始動したら、立てたエッジに徐々に体重を乗せてスキー板を丸くたわませ、この撓ませ量によってターン弧の大きさを決めて行きます。
 外足荷重の場合、丸くたわんだ外スキーはエッジ全体で雪面をグリップし、細く切れたシュプールを残すのに対し、ほとんど荷重されない内スキーは、たわみのない状態でターン内側をずれながら追従します。外力(重力と遠心力、及び雪面抵抗と空気抵抗の合成ベクトル)に対応するための傾け方は外向傾姿勢になります。
 両足荷重では2本のスキーに荷重を分散するため、外スキーだけで見ると外足荷重の時よりもたわみ量は少なくなります。内スキーは荷重されることでたわみがつき、トップからテールまで接雪された内スキーのエッジは荷重されたことでターンの方向付けをするようになります。荷重配分に応じて内足主導になってくるため、外向傾は徐々に少なくなります。
 グリップの良い状況では、切り替えから谷周りにかけてエッジングでできた壁を足場に、重心を谷方向に伸ばし、山周りから切り替えにかけてはエッジを雪面から外して、落下する重心の下に引き込みます。ブランコを漕ぐかのようにこうした運動を繰り返し推進力を得ます。
 グリップの悪い状況ではエッジを立てても踏み込まず、雪面から返ってくる力を逃がさないように、逆らわないように滑ります。これはクルマの運転に似ています。グリップの良いドライな舗装路ではアクティブな運動が可能ですが、雪道では急発進、急ハンドル、急ブレーキはすべて無効で、グリップを失わないことが最優先になります。

 朝は整地されていたゲレンデも、午後になると荒れてきて徐々にコブ斜面が形成されます。このような状況で大回りをすると、時には外足を跳ね上げられ、時には内足を跳ね上げられます。両スキーのエッジングバランスが良くなってくると、どちらが跳ね上げられても、残ったほうのエッジで滑りを維持することができ、スキーはバタバタしても、頭や上体は安定したまま滑走を継続することができます。雪質や斜面構成、スピードやターン構成に応じて左右の踏み込む量を変え、サイドカーブの形状を変化させることで、快適なパラレルターンを楽しめます。
完璧にグルーミングされた石打丸山スキー場・山頂ゲレンデ(最大斜度35度)。パラレルターンが気持ちいい。


 以前は、ゲレンデでは前方にのみ注意し、衝突事故が起こった場合、過失は上から滑って来た方にありました。実際、斜面の下に向かって滑って行くのに、上を見ながら滑る人はいなかったわけです。
 カービングスキーは強力な遠心力に陶酔するあまり、鋭く横方向に切れ上がるターンになりがちで、そのため他のスキーヤーやスノーボーダーと衝突するケースが増えたように感じます。初中級のスノーボーダーが縦スペースを暴走し、衝突を回避できないのも大きな原因と思いますが、横スペースを高速で滑るスキーヤーと、縦スペースを高速で滑るスノーボーダーの衝突は深刻です。
 目線がフォールライン方向を向いていると衝突の危険が増すので、必ずターン方向に先行させ、深く回し込む場合は、斜面の上から滑ってくる人の有無まで確認するのが、怪我をもらわないための賢明な措置です。

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