●プラスノー体験記

プラスノー
白馬岩岳スキー場の夏ゲレンデ
プラスノーマットとプラスノー専用OGASAKA AG-HX
ハニカム状ディンプルの施されたAG-HXのソール
山周りに負荷を掛け過ぎると、エッジがずれて滑走ラインが落とされる
ブラシマットが摩擦で融けてエッジ周りにこびりつく
ローラーものに比べて斜度は急だが、補助散水がなければこの辺で止まってしまう
 プラスチック製のブラシマット、プラスノーの敷かれたゲレンデを、冬のスキー板をそのまま使って滑走するサマースキー。冬に使っている自前の板を持参しても構いませんが、傷つけるのが嫌なら古い板を使うかレンタルスキーを活用しましょう。
 ローラーものに比べれば冬のスキー感覚に近そうですが、実際はどうなのでしょうか。白馬岩岳スキー場に行って体験してみました。

●白馬岩岳スキー場レポート

 小賀坂スキーでは、ステンレスソールのAG-SRと、ポリウレタンソールにハニカム状のディンプルを施したAG-HXというプラスノー専用スキーを発売し、岩岳スキー場ではAG-HXをレンタルすることができます。長さ165cmのカービングスキーで、滑走面のディンプル以外は冬のスキー板と変わりありません。バインディングも解放機構の着いた通常のもので、転倒した際は冬のスキー同様リリースしてくれます。ブーツ、ストック、防具、手袋は持参しました。日差しが強いので日焼け止め対策、熱中症対策も必要です。

 リフトは夏にありがちなTバーやJバーといった簡易式のものではなく、冬にも稼動している通常のベンチ式ペアリフトです。長さは397メートルあり、搭乗中はリフト下のゆり園を眺めたり、ゲレンデ脇に放牧されているヤギを眺めたりの休憩タイムとなり、荒行のような簡易式リフトに比べて取っつき易さがあります。板を履いたままリフトに乗れないので、手に抱えて乗ります。
 足許の地面が意外に近く、雪が積もったら足が着くのではないかと心配になりますが、これはリフトの支柱に取り付けられた架台の高さを夏用に下げて運転しているためで、冬にはまた高い位置に戻すとのことです。岩岳はこの時期ゆり園が公開されていて、リフトに不慣れな一般観光客の家族連れでも賑わうので、あまり高いのは危険ということでしょうか。索道法の安全基準がそうなっているのか、普段は特に気に掛けませんが、スキー場の心遣いが感じられました。
 リフトを降りる時は、板を手に抱えているため、冬のように前方に滑り出せないので、降り場に立ったらすばやく右に身をかわし、リフトを左側へとやり過ごします。リフトより早くは歩けないので、脇に避けないと後からど突かれてしまいます。リフトをやり過ごしてからゲレンデに降ります。Jバーなどのほったらかしと違い、乗り場と降り場には冬同様に係員が常駐しているので、乗り降りの際はサポートを受けられます。
 降りたところにサラダ油(?)の染み込んだマットが敷かれているので、板を装着したらこのマットを踏み潰し、滑走面に油を付着させてから滑り始めます。

●急斜面での滑走

 約400メートルのリフトがカバーするこのコースは、全長450メートルくらいあるでしょうか。コース幅は最大50メートルほどあり、最大斜度も20度ほどありそうです。この最大傾斜区間の長さは結構あり、冬には別に珍しくもない短い中斜面ですが、夏の代替スキーでかつてこれほどの急傾斜を滑ったことがなく、かなり新鮮で刺激的なものでした。スピードも出そうと思えば夏季最速の領域に達し、平滑とは言いがたいブラシマットのスリリングさと相まって、充足した滑り応えを堪能できました。ここでは便宜上この斜度を≪急斜面≫と呼ぶことにします。

 ゲレンデの構成材であるプラスノーマットの隙間には、所々にスプリンクラーが配置されていて、時々ゲレンデに散水しています。これは滑走性にかなり影響があり、散水時にはターンを継続しながらリフト乗り場まで到達できますが、散水なしではリフトまで30メートルほど歩かなければなりませんでした。
 この散水は常時行われているわけではなく、更に、自動で行われているのか、ゲレンデ状態や客層を見て適宜行われているのかは、確かめなかったので不明です。
 散水ヘッドはフラットなプラスチック製で、板が引っかかるようなことはありません。水も噴霧状なので、スキーヤーがびしょ濡れになるということはありませんが、その機微がわからないと突然顔が濡れて驚き、バランスを崩す要因になるかもしれません。転倒すれば衣服が泥水で汚れるでしょうが、普通に滑っている限りでは、板とブーツに少し泥跳ねする程度で、大したことはありませんでした。

 プラスチックのブラシマットを滑ると、上空をジェット戦闘機が飛んで行くときに発する、空気を切り裂くような、激しい摩擦音が生じ、ちょっとビビります。
 低速の場合はブラシマットの摩擦抵抗によって、ある程度のグリップを得られますが、物理的にエッジがほとんど食い込まないため、スピードが上がって来ると、それに伴って遠心力に耐えるグリップが低下して行き、カービングスキーを使っているにもかかわらず、エッジを効かしたカービングターンはことのほか困難になってきます。逆にずらしながらの滑りはスキー並に容易なので、ずれに乗ってスピードをコントロールして行けば、急斜面と言えども比較的安全に滑り降りることができます。

●仮想アイスバーン

 アイスバーンを滑るのに似ています。エッジの効きにくいアイスバーンと同じように、上体を起こしてエッジを外さないように、そ〜っと真上から乗るだけに留め、あまり足を突っ張らず、エッジングのタイミングを早くしつつ、ターンを上から入る意識で、山周りは何もしないようにと心掛けたのですが、なかなか思うようには行かず、山周りはずれ落ち、次のターン始動が遅れ、その影響でまた山周りが落とされるという悪循環に陥ってしまいます。
 こうした現象は、グリップの良いインラインスケートやグラススキーでは現れにくいため、ついつい見逃しがちな点ですが、カービングターンの本質においては、山周りの想定ラインを落とされないような滑り、山周りに負荷を掛け過ぎない滑りを追求すべきで、この克服こそがプラスノー・トレーニングの要諦と感じました。
 ターン弧を縦目に採ることで、とりあえずカービングターンっぽくなってきますが、おのずとスピードは上がるので、転倒した際のリスクは大きくなります。

 プラスチックのブラシマットは性質上、気温によって伸縮し、夏は伸びて表面積が大きくなるため、その継ぎ目が互いに押し合って盛り上がり、斜面にウェーブとなって現れます。ウェーブは板が跳ね上がるなどの効果の他に、盛り上がったブラシマットの隙間に、板の先端が突き刺さるのではないかという恐怖感を呼び起こします。雪のウェーブに比べ格段に怖いです。
 わずかに後傾気味に構えると対応できますが、後傾になりすぎるとウェーブに跳ね飛ばされて暴走に陥りかねないので気を付けましょう。
 今回、転倒はしなかったので、ダメージについては想像になりますが、基本的に低速での転倒はなく、ほとんどが高速時に、マットの継ぎ目の起伏でバランスを崩すことで暴走に陥り、激しく転倒に到るであろうとの観察を得ました。そのためダメージも相応なものになると考えられます。なるべく肌の露出は避け、肘と膝にはプロテクターを着け、できればヘルメットを着用すると良いでしょう。

 滑走したあとで板を調べると、滑走面の両エッジ付近に、白いナイロンひも状のゴミが付着しています。一見、ポリエステルの滑走面が削れたものかと錯覚しますが、ゴミを取ってチェックしてみるとそうでもなさそうで、これは滑走時の摩擦熱によって、ブラシマットが融着したものと考えられます。その紐が、ゲレンデやリフト下に散らばってしまうのですが、リフト乗り場にゴミ箱を置いて、そこで剥がして捨てれば、少しは綺麗になるのではと感じました。

●オフトレ総評

 スキーと同じ用具、急斜度のゲレンデを使用することで、夏の代替スキーとしては、最もスキーに近い感覚を味わうことのできるカテゴリーだと感じました。
 インラインスケートやグラススキーは、用具の特性上、エッジの立て方やら内足の使い方やらに、ある種の取っ付きにくさがあることは否めませんが、プラスノーはずれずれのスキーテクニックそのままでもコースに入ることができるレジャー的寛容さをも併せ持っています。
 岩岳のプラスノーは7月中旬から8月一杯までの夏休み期間中のみの営業で、この間はゆり園が同時公開されています。スキー客は少ないものの一般ハイカーで賑わい、リフトは共用になります。ゆり園入場者には岩岳の湯の割引措置がありますが、プラスノー半日券ではこの適用が受けられないのが残念でした。

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