●グレステンスキー体験記

グレステン・グランジャー
初級者用グランジャーのリアホイール
表面はフラットで簡単に弾性変形する。
上級者用グランジャーのフロントホイール
リアに比べて外径が小さく、Rが付いている。
八ヶ岳自然文化園のグレステンスキー場
ゲレンデは一面グレステンマットで覆われている。
リフトロードは滑らかで疲れない。
途中で脱落してしまったら芝生にエスケープする。
ゲレンデの屈曲部分でリフトの乗り継ぎがある。
欠点が露呈する低速で繰り返し矯正する。
 グレステンスキーとはサマースキーの一種で、スキーのオフトレとして、にわかに人気を集めています。グレステン・グランジャーという用具にスキーブーツをセットして、ストックを持ち、リフトでゲレンデトップに上がり、専用のグレステンマットが敷き詰められた緩斜面を滑ります。
 舗装された上にグレステンマットを敷いたゲレンデは、とても平滑な緩斜面でスピードは出ません。スキーのように激しく内傾角をとった滑りはできず、外力の弱い低速度の中では滑りの欠点がすぐに露呈してしまうので、基本的な動作を身に付けるという練習に適しています。転ぶと如何にも痛そうなので、あまり肌の露出しない服装で、膝と肘にプロテクターを着け、ヘルメットをかぶり、軍手などの手袋を着けて行います。
 防具や専用のストックはグランジャーと一緒にレンタルもできます。ブーツは借りても持参しても構いません。持参すれば料金が安くなる場合がありますし、履き慣れたマイブーツで練習したほうが効果が高いと思われます。

 最大の特徴は、インラインスケートやグラススキーでは困難だった、スキーに近い、ズレを伴うターンを簡単に再現できることです。
『グレステン』とは、ホンマ科学株式会社が登録商標を有するグレステン鋼という鋼材のことで、グレステン鋼とウレタン等から形成されたグレステンホイール(別名:ベクトル差動タイヤ)を用いたグランジャーと、滑走性能を最大限発揮するためのグレステンマットのゲレンデによって、ズレを伴うターンが可能になっています。
 グレステンホイールは16のブロックに分割されていて、角付けによって接地された1ブロックが弾性変形します。そのままホイールが転がることにより、次のブロックが連続的に弾性変形を起こして行き、ブロック自体はグリップを保っているものの、旋回するホイールの軌道は徐々にずれて行き、グランジャーは見かけ上ズレを伴ったターン弧を描きます。
 レンタル用具は初級、中級、上級とありますが、滑走スピードは特に変わりません。違いはホイールの硬度で、硬い上級用は初級用に比べてずれにくくなっています。ターンがずれない分、減速要素が減るという意味では若干速くなります。実際に滑ってみると、滑走中は簡単にズレを伴ったターンを体感でき、スキー同様にズレを途中で止めることも容易にできます。前述したように、実際にずれている訳ではないので、インラインスケートやグラススキーのように、ズレたら最後、一気に転倒ということはありません。
 ブレーキ装置は付いていません。両脚を平行に開き出すと、グランジャーは自然にプルークになり、路面抵抗によって内側に押し戻されて来ます。これを外側に押し返すように均衡をとってやることで制動をかけます。
 スキーやインラインスケート、それにグラススキーは最大開脚にもできますが、グランジャーは大きく開きすぎるとフレームが接地してしまい、その途端にグリップを失って股裂きになるので注意が必要です。適度な開き出しを保ち、ある程度の筋力を使って制動を掛けますが、ゲレンデの構造上スピードはあまり出ないので、通常の筋力の持ち主ならば問題ありません。

 グランジャーの構造は前輪よりも後輪の方が外径が若干大きく、角付けした際の弾性変形がより大きく働きます。また角ばった後輪に比べ、前輪にはRが付いていて、角付けした際にはキャンバースラストが働くと思われます。このためターンはスネを傾けただけで始動してくれそうですが、インラインスケートの感覚では曲がってくれません。インラインスケートでさえ、ただ傾けただけでは曲がらないので、それより長い分、弾性変形を差し引いても、ターンに必要なスリップアングルを出すためにはひねりを加えてやる必要があります。
 内足の操作感覚はズレが出せる分、グラススキーほどのシビアさはなく、内足が予期せぬ方向に突っ走って股裂きになり、顔面から打ち付けられるようなことはありません。
 ゲレンデの斜度がとにかく緩く、スピードが出ないので、深い角付けはできませんが、無理に深く倒しこむとフレームが接地してしまい、グリップを失って転倒の原因となるので注意してください。斜面状況に合った角付けをしていればフレームを擦ることはありません。

 初級用具はズレを伴ったターンがしやすく、夏のオフトレとしては大変新鮮で、スキーに限りなく近い滑走感覚で滑れます。上級用具はほとんどズレず、カービングターンの感覚に近くなりますが、一方でそれはインラインスケートでも再現可能なものになってしまい、グレステンスキーならではの独創性が薄れてしまうという印象を持ちました。
 この日は短い時間の中で初級、中級、上級用具を試しましたが、初級用具でズレを伴ったターンを基準に滑り方を模索するという方法が、グレステンスキーならではの正当な楽しみ方という感じでした。

●八ヶ岳自然文化園のレポート

 2004年10月23日の新潟中越地震により、長岡市営スキー場と、道院高原グレステンスキー場が2005年の営業を休止した。そのため関東近郊のグレステンスキー場は長野県原村の八ヶ岳自然文化園のみとなってしまい、週末は団体の講習会で賑わっているという情報だった。
 中央道・小淵沢インターを降りて富士見高原へ向かう。この八ヶ岳公園道路は以前は有料で、富士見高原への分岐の手前に料金所があったが、今では償却している。分岐を曲がるとすぐに長野県になる。八ヶ岳は山頂を中心に麓に同心円を描くと、南東に広がる清里・小淵沢にかけての4分の1が山梨県で、残り4分の3は長野県になる。
 森の中の道をひたすら突き進み、富士見高原スキー場を通り過ぎると、やがて八ヶ岳美術館があり、その先を左折すれば八ヶ岳自然文化園に到着する。
 印象としては、どこにでもあるような緑豊かな公園であるが、ただひとつ奇異に映るのがこのグレステンスキー場のゲレンデである。これは普通の公園にはない。普通の公園で人目をはばかりながらインラインスケートをしている身としては、大変うらやましい限りである。ここはお金さえ払えば誰に気兼ねすることなく、グレステンスキーができるのである。しかもリフト付きだ。埼玉県の公園も是非見習っていただきたい。

 9月下旬のこの日、平日とあって先客は4人だった。一人は熟年女性で、2時間券で滑っていたのか、我々が開始する頃には上がってしまい、後の3人はプライベートレッスン風で、先生が一人と熟年夫婦だった。この人たちは午前中はリフトに乗らず、下でひたすらストックで漕いで滑っていた。
 1日券か2時間券か悩んだが、ゲレンデは短く緩い。普段のインラインスケートの練習も2時間である。2時間で飽きるだろうとの同行者の意見により、2時間券を購入した。1日券の料金は3,700円、2時間券が2,200円、時間延長は30分300円だった。これにブーツ持参でマイナス500円、手袋持参でマイナス200円となり、2時間券は1,500円になった。リフト券はシールになっていて、代表で私一人が胸に貼り付ける。この料金にはリフト使用料、ゲレンデ使用料、グランジャーレンタル料金が含まれ、ストックと防具は無料で貸してくれる。時間内なら、グランジャーは初級用、中級用、上級用をタダで交換できる気前良さだ。

 初心者には自動的に初級用具が割り当てられる。まず、ゲレンデベースのテントに行き、専用の台にグランジャーを乗せて転がらないようにして、金具にブーツをセットする。仕度ができたらリフトに行き、リフトの説明を受ける。
 着脱式のTバーだが、図解もあるので問題ない。コツは金具をワイヤーに当てて、しばらく金具の中でワイヤーを滑らせながら咬ませると良い。金具は降り場の滑車に取り付けられたスプリングに当たると勝手に外れるので、自分で外す意識はまったくいらない。外れたら腰に巻きつけて持ち歩くことになっている。降り場に溜める方式だと、下になくなった時に担ぎ下ろす係が必要になるが、自分で常に持ち歩けばその必要もない合理的なシステムだ。
 上に到着するとインストラクターが待ち構えていた。

 初心者に限りリフト3本分の講習がタダで受けられるのだ。至れり尽くせりである。
 技術的内容は、ブレーキとターンの方法。あとは場内の注意事項についてである。スキーの上級者はスキーの滑り方をするが、それが通用せずに転倒したり激突したりして、そういうことが続くと、公営施設であるこのグレステンスキー場が閉鎖に追い込まれるかもしれないという話と、ここは斜度が10度しかないが、スキー上級者は斜度30度の体の使い方をするヤツが多いという話だった。
 夏の間のフラストレーションを少しでも解消したくて、高速道路まで使って遥々来ているのだから、何も考えずにスカッと滑りたいところだが、スキーのオフトレにと思うなら、スピードに頼らない地道な基本練習に徹するべきというのは一理ある。しかもこのグレステンマット、表面は結構ゴツゴツとしていて、転倒したらおろし金のような効果が高そうである。下地はアスファルトかコンクリートで硬く、好んで転びたくはない。とにかく最初に釘を刺されて30分が経過した。

 コースは中間で屈曲していて、リフトもここで乗り継ぎになる。中間部より上は少し斜度が増していて、距離も少し長い。慣れてくると実質上部だけの繰り返し滑走になる。
 上部にはスタート台のスロープが置いてあり、コース端にはポールも張ってある。スタート台を使えば初速は得られるが、スピードに頼った滑りに逃げてはいけない。スピードの得られない状況でこそ欠点が白日の下にさらされ、その矯正に取り組むことができるのである。

 グランジャーのズレは違和感なく発生する。特に初級用具が心地良い。始める前は、一旦発生したズレを、はたして止められるのか心配だったが、杞憂だった。ズレは止めようと思えば止まるのだ。このグランジャーというヤツはまったくの優れものである。ただし、ズレを伴ったターンで山周りを引っ張りすぎると止まってしまうので、ある程度早いリズムで縦目に行くのが良い。
 初級用具を30分ほど使用し、事務所へ行って中級用に変えてもらう。当然のことだが、ブーツを脱いで再度金具合わせをしてもらう。更にこの30分後、上級用に変えてもらう。
 インラインでもグラスでも転倒を経験している私だが、グレステンでは転倒はなかった。そのため、その痛みをレポートすることはできないが、グレステンマットの写真と、下に硬い舗装が施されているということをもって想像していただきたい。
 結局時間延長はせずに2時間で上がったが、後客はいなかった。
※【2018年11月25日を以って営業終了】

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