Practice Makes Perfect/コロナ禍の2021スキーシーズン
緊急事態宣言発出(2回目)
2019年12月、中国湖北省武漢で発生した原因不明のウィルス性肺炎が、1月の春節の中国人の大移動によって世界的感染爆発を引き起こした。
雪不足に苦しむ中、なんとかやっていた2020シーズンのスキーにも何となく自粛ムードが漂いはじめていたが、2020年2月25日に岩手の安比高原に行った時は、大勢の外国人がゴンドラに相乗りしてスキーを楽しむ光景が見られ、ホテルの宿泊客に対しても、自覚症状の有無を確認するアンケート用紙が配られる程度だった。
翌2月26日、政府によるスポーツやコンサートなどのイベント中止の要請が出され、Perfumeが同日の公演開始3時間前に急遽中止を決めたのをはじめ、多くのアーティストがそれぞれの公演を中止した。
3月19日になってようやく外国人の入国規制が布かれ、4月7日には感染の拡大している東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪、兵庫、福岡の一都六県に対して緊急事態宣言が発出された。外国のような罰則付き規定を伴うロックダウンではないが、感染者数の増加は止まらず、食料品、医薬品、日用品販売以外のレストランやカフェは、休業による減益減収に対する補償もないまま概ね営業自粛を受け入れた。仕事以外の不要不急の外出自粛が要請されたことから、対象地域のスキーヤーの多くは、春スキーを満喫することなくシーズンアウトを余儀なくされ、4月16日に対象地域が全国に拡大されると、毎年5月の最終日曜まで営業していたかぐらスキー場も、急遽4月17日を以って2020シーズンの営業を取りやめ、これによって実質的に2020シーズンは終了した。
5月25日に緊急事態宣言が解除されると、7月22日から始まった『Go To Travel』『Go To Eat』のキャンペーンにより全国への人の流動が再開されたのを皮切りに、 11月1日からは中韓など11カ国からの入国をウィルス検査なしに受け入れ始め、せっかく小康を得ていた感染状況に、第2波、第3波をもたらす引き金となった。
4月の第1波では全国の感染者数は一日に700人程度、8月の第2波では1500人程度だったのが、10月後半から始まった第3波では8000人近くまで膨れ上がった。
政府は感染拡大の原因は『Go To』ではないとしながらも、12月28日に『Go To』を停止し、外国人の入国を禁止したが、東京都の一日の感染者数は12月31日に1337人と初めて千人を超え、年が開けて2021年1月7日には2447人と、千人超えから僅か1週間で2千人を突破した。病院は満床状態となり、発症しても入院が拒否され、何の手当てもないまま自宅で死亡する感染者が増えだした。
東京、埼玉、神奈川、千葉で過去最高を更新し続け、全国の半数をこの一都三県で占めるに至り、遂に1月8日、一都三県に対し、2月7日までの二度目の緊急事態宣言が発出された。
新潟県のスキー場では、来場促進キャンペーンとして、リフト券が半額になるONI(鬼)割キャンペーンを2020年12月24日から販売開始したが、感染拡大地域からの来場は2021年1月6日まで控えてくれと言い出し、その後1月20日まで延長され、1月9日には販売が中止された。既に購入した分の使用はできるが、使用期限は2月28日までであり、払い戻しには応じていない。
一方で昨シーズン雪不足だったゲレンデ状況はというと、2020年12月16日に新潟県では突如の大雪に見舞われ、関越道で1100台の車両が2日間に亘って立ち往生し、年が開けた2021年1月9日には北陸道でも1000台が巻き込まれる立ち往生が起こるほどの大雪となった。
にも拘らず、関東一都三県からの集客を封じられたスキー場の経営は芳しくなく、エコーバレーが11月に早々と今シーズンの休業を決め、谷川岳天神平スキー場では1月13日からの平日の営業を休止し、八海山スキー場は同日から当面の間全日休業に入った。更には苗場プリンスホテルの従業員間で発生したクラスターにより、1月18日から2月上旬まで、同ホテルをはじめ、苗場スキー場、かぐらスキー場が全面営業休止となり、同じくスタッフに感染者の出た草津温泉スキー場が18日から全日休業に入った。更には多くのメジャースキー場を要する白馬村でも感染が広がっているという。
コロナ関連倒産は2月10日現在で1017社に及び、内訳は「飲食店」162、「建設・工事業」89、「ホテル・旅館」79、「アパレル・小売店」57、「食品卸」48、「食品小売」34件等であり、従業員の解雇や雇い止めは8万人を超えている。1990年代後半にスキーブームが終わり、コロナ禍以前から倒産するスキー場が毎年出ている現状で、インバウンドに加え関東一都三県まで封じられては、今回の経済危機を乗り越えられないスキー場はかなり出てくるだろう。
第一回目の緊急事態宣言の時と比べ、二回目は人の流れが抑えられていない。感染拡大地域である関東一都三県からのスキー客に対し、来ないでくれという自治体も少なくないが、これはつまり、満員電車で密な生活を余儀なくされている都会の無症状・無自覚の感染者が、不要不急の遊びのスキーで地方に感染を拡大させることを恐れてのことだろう。高齢者が多く、医療体制の脆弱な地方にとっては尤もな話である。
ブリティッシュ・メディア・ジャーナル(BMJ)という世界四大医学雑誌に2020年12月に掲載された論文によると、コロナ陽性者の5人に一人が無症状であり、無症状感染者が他の人に移す感染確率は有症状感染者の3〜25倍低いことがわかったという。数値にばらつきはあるが、要するにゼロではないが低いということで、感染を全国に拡大させているのは圧倒的に有症状の感染者ということである。
それを踏まえても尚、感染リスクがゼロでない以上は来ないでくれというのなら、それは尊重せざるを得ないだろうが、詰まるところスキー場の集客を地元や感染拡大地域以外で支えきれない場合、経済的困窮は覚悟せざるを得ないということになる。
2月1日、当初2月7日までとされた緊急事態宣言が一ヶ月後の3月7日まで延長された。これを受けて集客の期待できなくなったスキー場は、何の補償もないまま今季の営業を熄めるかもしれない。例年多くのスキー場は、雪が多く残っていても3月いっぱいでシーズンを終えてしまうのである。
1月26日に新潟ONI割ですでに購入されたリフト券の有効期限が2022年3月31日までワンシーズン延長された。しかし再度の延長はなしとされ、払い戻しにも応じないという。購入したスキー場が果たして来シーズン残っているだろうか。
効果的な治療法が確立されない限りは、感染者数を抑える以外になく、医療崩壊と経済崩壊を天秤にかけた現状を継続するしかない。
(2021年2月)
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